天才錬金術師は、最強S級冒険者の元相棒

時暮雪

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元相棒、再会する

04。コンビ復帰?しませんが

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「先日からバストーニ師団二等兵として貴方の部下になりました、レイジと言います!!!単騎の長期任務中と聞きましたが、帰還してらしたんですね!!!会えて光栄であります!!!!」
「………あぁ…………?」
「悪ぃ…」

 キラキラと目を輝かせて敬礼するレイジに、どうにか返事をするが困惑しきってしまったガロン。チラリと目で説明を求められるが、そっと首を振って謝る事しか出来ないハオ。
 レイジが大体の説明をしたが、つまりそういうことである。二人の前職は王国軍の兵士であった。しかもかなり重要な立ち位置だったのは、彼の態度から分かるだろう。

 イグアスタ王国軍には、五つの師団が存在する。
 所属は魔法省であるが、魔導士で構成される魔法師団。
 魔物との戦闘を主にする、実力重視のエスパーダ師団。
 王族や貴族の護衛が主な、騎士で構成されるサントグリア師団。
 監獄の看守や諜報員として活動するディネロ師団。
 そして、街中や人の立ち入る場所の警護を担当するバストーニ師団だ。

 三年前まで、そのバストーニ師団に二人は勤めていた。ハオは16、ガロンは15の時からそこで兵士として活動していたのだ。
 二人は他の師団も含め、軍の中で最年少だった。互いに事情があったとは言え、成人前で同い歳の人物がいることに凄く驚いたことをよく覚えている。
 同い歳だと言うのに一年先輩のガロンに、ハオはよく頼っていた。歳が同じと言うのもあるが、自分より幼い時から活躍している彼を単純に尊敬していたのだ。あと、周りから遠巻きにされていたのも理由だろう。言ってしまえば放っておけなかったのだ。
 そうしてついて回った結果、いつの間にやらハオはガロンの相棒として扱われるようになった。実際はそこまで仲が良かったとはいえなかったし、拒否も否定もしなかったがガロンから相棒と呼ばれたことも無い。
 それでも互いに確かな信頼があったし、ペアが必要であればどちらが言わずとも二人で組んでいた。
 まぁ、だからこそ同居の話には驚いたし、ハオはいまだに何故そうなったのか分かっていない。

 それぞれの師団には、師団長、副師団長、補佐役の副官と三つの役職がある。簡単に言えばトップ3だ。師団ごとに呼び方が分けられており、バストーニ師団は上から『アレク』『アージ』『ランス』と呼ばれている。
 そしてガロンは19という最年少で『アレク』の称号を受けた人物である。つまり、レイジが言った通りバストーニ師団の師団長という立場なのだ。
 ちなみに、そんな彼の相棒とされていたハオはと言うと…

「ハァッ!!!!そうだ!!ハオって名前どっかで聞いた事あると思ってたら、アージのフォルスト副師団長の名前と同じなんだ!!!………えっ」
「やべっバレた」
「…言ってなかったのか」
「や、だって辞めたし…元副師団長な」
「えっ?」
「あ?」
「あれ、副師団長は怪我の療養で休職中って聞いたんだけど」
「はぁ!?怪我で退職じゃなくて!?」
「……そういえば、俺のことも長期任務中とか言ってたな。辞表は出したはずだが」
「えっ!?!?!?」

 こちらも最年少で副師団長となった本人だとバレ、バツが悪そうに視線を下げる。が、レイジの話に二人で首を傾げる。
 ハオは錬金術師になるため、兵士を辞めて魔法省に転職した。ガロンも長い間戻ってこないつもりで辞表を出したのだろう。が、どうやらどちらも受理されていないようだと気づく。
 聞いていた話と違うことに混乱しているレイジは放っておき、二人は顔を見合わせて頷く。
 これは、責任者に詳しい話を聞き出さねばならないと。

「ガロン。さっきのレイジの声で結構な人数が集まって来てるっぽいぜ。どうする?」
「総帥室の場所に変わりはないな?」
「あぁ。廊下と窓、どっちから行く?」
「無論、窓だ。出来るか?」
「三年程度じゃ鈍んねぇよ」

 ニッ!と挑戦的に笑うハオを、頷き無表情のまま抱え上げるガロン。呆然としているレイジにじゃあなと声をかけ、医務室の窓から身を乗り出したガロンがグッと脚に力を入れる。
 そして上へと垂直に跳んだ・・・。たまたま外で走り込みをしていたらしい兵士数人が、ポカンと間抜け顔でそれを下から眺める。部屋の中ではレイジがいまだ呆然としたまま。

「……なんか、すっげーの見ちゃった」

 そう呟いて、惚けたように窓を眺めていた。

 細い窓枠から軽々と三階分の高さを跳んだガロンに抱えられてるハオは、医務室の三階分真上にある部屋の窓へと手を翳す。その瞳がサァッと水色に染まった。
 瞬間、物凄い突風がその窓だけを破壊し破片を全て室内へと流し込む。もはや元から窓がなかったのではと思うぐらい綺麗に破壊された窓枠へ着地したガロン。室内に下ろされたハオは、どうやら破片が刺さったのか呻いている人物に近づく。

「で?オレたちに何か言うことあるんじゃないの、ゲオルグ総帥殿?」
「…お前たちは、何年経っても優秀な問題児だよ、ホント…」

 ダクダクと頭から血を流しながら、短い黒髪の中年とは思えないガタイの男が振り返る。その顔にはいくつかの厳つい傷跡が残っており、その強面も相まって歴戦の戦士と言うよりは犯罪者のように見える。
 血も繋がってないのに本当そっくりだな、と呑気な感想を浮かべながらハオは勝手に部屋の椅子へと座る。窓の傍には、到底カタギには見えない目付きのガロンが腕組みをして立っていた。
 睨みつける先は、この王国一の騎士であり、軍の総帥を務める男。厳つい顔に似合わず結構愉快な彼の名は、ゲオルグ・である。

「俺の退職処理がされていない件について、当然説明してくれるんですよね総帥」
「…そして義息は何年経っても父さんと呼んでくれない…あんな、たった一言『辞める』と書かれた辞表なんか無効に決まってるだろう」
「辞表も一言で済ませたのかよ…」

 ゲオルグ総帥の言葉に、手紙じゃねぇんだぞとつい相棒に呆れた視線を向けるハオ。流石に何も言い返せないのか、殺気の緩んだ目がそろりと逸らされる。

「ほら、お前の相棒も呆れてるぞ」
「ところで、正式な書類を提出したにも関わらず退職処理がされてないオレについてはどう言い訳するんです?」
「うちの子を他所にやるわけないだろう」
「あれ、なんか既視感」

 ガロンの理由がまともな辞表じゃないと言うなら自分はどうなんだと問いかければ、盛大に目を逸らしながらそんなことを言われた。なんか昨日と今朝に聞いたことある台詞。なんだってんだ。
 そう言えば、とハオは一つ思い出す。局長と総帥は仲が良いわりに、常に睨み合っては何かと競っていることを。楽しげに談笑してるかと思えば、次の瞬間にはバチバチと火花を散らしているのだ。前にハオが新兵訓練に参加する羽目になったのもそれが原因である。
 局長がやけに反対していた理由はこれか、とようやく納得する。ハオは錬金術師として優秀だ。魔法省側からしては離したくない人材だろう。しかしガロンが戻ってきたとなると、席が残ってる副師団長として復帰する可能性がある。
 だから渋ってたのかぁ、とハオは勝手に納得した。確かにオレ優秀だもんなぁ。自信過剰とかではなく、実績などから見た事実として。
 うんうんと一人頷いているハオを他所に、どうにか退職しようとゲオルグに詰め寄っているガロン。それを飄々と受け流していたゲオルグが、ふと何かに気づいたようにそう言えばと呟く。

「兵に復帰するしないはともかく、お前たちが揃ったってことはコンビ復帰ってことでいいのか?早速そこの窓を破壊してくれた訳だし」
「え?違うけど」
「は?」
「えっ」
「おっと、失言だったか」

 復帰の言葉に反射で返してしまったハオに、それまでゲオルグに詰め寄っていたガロンがドスの効いた低い声で反応する。ゲオルグはその様子にそっと口を閉じた。
 対してハオは、何が彼の琴線に触れたのかが分からず焦っていた。背後に鬼が見える元相棒から逃げようにも、椅子に座っているため後退りさえ出来ない。
 ガッ!と前方から椅子の背もたれに手をつかれ、覆い被さる形で見下ろしてくるガロン。影になったおかげで、その強面の怖さが倍である。

「…昨日、俺は確かに言ったはずだな。俺の隣に立てる者は、お前以外にいないと」
「ん、ん~?確かに言ってたような…あー、や、でもほら…オレも言ったじゃん?もう進んでる道が違う…」
「そんなことは些細だと言っただろう。道が違う、それがなんだ。ならその俺の進んでる道とやらもお前の道の隣に並行して続いてると思え」
「わぁすっごい前向き発言。何?隣合わせの道をそれぞれ一緒に歩いてるってこと?お前のそう言う発想好きだよ、オレ」
「俺はお前のその鈍感さに腹が立つ」
「え、なんかごめん」

 獣であれば確実にグルル…と唸っていそうな表情のガロン。追い詰められたウサギってこんな気持ちなんだろうかと、思考を明後日へと飛ばすハオ。そして息を潜めて、内心キャッキャしながら息子を見守る義父ゲオルグ
 総帥室は、朝の研究棟前とまでは行かずともカオスと化していた。これをどうにか出来る人物がやってきたのは、辛うじてガロンが暴走する一歩手前のタイミングであった。
 詳細に言うなら、これから十分後のことである。




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