当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

紫蘇

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学園3年目

婚約までのカウントダウン 5

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徹夜で談話を仕上げたその次の日の夜。
第1砦に4人の人がやってきた。
1人は殿下の影、あとの3人は…

「大変申し訳ございません!」
「何とか示談にして頂けませんか!」
「大人気連載なんです!どうかお慈悲を!」

大の大人が土下座。
来てすぐ土下座。
潔いにもほどがある。

っていうか大人気連載って何じゃい!

「まあ、実名が出ているわけでは無いが?」
「ルースがユースでユーフォルビアがニューオリビアになっただけですけどね」
「読むものが読めばすぐに分かるな」
「おまけに『”チェリーが大好物”の主人公のモデルになってるあの人を圏内に押し上げよう』って言っちゃったし」
「完全にアウトですよね」
「そ、そんな…!で、出来心で始めただけなんです!!最初は1話で終わりのつもりで…!」
「1話でも駄目だろ」
「それに、終わり方がいかにも次がありそうな感じですけどね」

俺たちは昨日の徹夜で完全に目が座っているので、恐怖も倍だろう。

「名誉棄損罪が親告罪で良かったと思え」
「は…はい…!有難うございます!!」

少し顔色が良くなる3人の大人。
それをどん底に突き落とす子ども。

「…親告しないとは言っておらんが?」
「あ…!あ、す、すみません!」
「どうか、どうかお慈悲を…!」
「お許しください、お願い致します…!」

殿下がめっちゃ冷たい目で3人を見下ろす。
隣で見てても超怖い。ちょっと可哀想だけど、これも報いだな。

「実際にモデルがいるエロ小説を書くのは相当の覚悟がなきゃ駄目だぞ?」
「はっ、お気楽に書いて良い物では無い事くらい分かっていただろう、それを載せるほうもな」

またまた必死で謝罪する3人。
大丈夫だと言われた…とか、単行本を出したいっていう話が来て…とか、見過ごせない言い訳もしている。
誰に唆されたのか後で聞こう。
そして単行本は絶対に阻止しよう。

「ど、どうか、廃刊だけはお許しください!!我々はこの国のモテない男たちのために必死でやってきたんです!」
「そ、そうです、全ての風俗業に関わる方たちのためにも、真実を伝えるべく裏取り取材までしております!!」
「全ての非モテ国民に夢を届けるべく、日々努力しているだけなんです!」

何だかなあ…もう頭が床にめり込みそうだし、そろそろ助け舟を出そう。

「分かっていますよ」
「…えっ」
「ろくに調べもせず噂だけで記事を書くような雑誌では無い事は知っています」
「る…ルース様!?まさか、お読みに…?」
「自分をモデルにした主人公が活躍する小説が乗っているんですから、目は通しておりますよ」

この前まとめて…だけどな!
さて、そろそろ本題を切り出すかな。

「近々始まる新しい性サービスのことを調べているのも存じていますよ?
 当家の執事と庭師に取材をお申込みになられたと報告がありましたし…街の顔役の方からも聞きましたから」
「あ…その、それは…!ですがっ」

真ん中の人が、何とか「事実を公表するな」という圧力に抵抗しようとする。
この場でそれが出来るとは…やるな?

「ああ、私が家から「技」を持ち出して広めたのは事実ですから、それはお書きになって構いません」
「…へっ!?」
「ただ、どういう思いで公開するに至ったかまで、きちんと記事にして頂きたくて」
「お、思い…と、いうことは…?」
「まさか、その…」
「独占取材…を…?」

みるみる顔が明るくなる3人。

「ええ、但しどこも切り落とすことなく載せる事が条件です。…良いですね?」
「もちろんです!我々にも、真実を伝えてきた誇りがあります!…その、小説以外は」
「…ま、小説は記事でなく読み物ですから」
「…じゃあ、あの、まさか…小説も、続けていいのですか?」
「作り話であることを毎回きちんと説明下されば結構です。…公認はしませんが」
「あああありがとうございます!!」
「十分です!!有難うございます!」
「やった!まだ連載を続けられる~!!」

3人はガッツポーズを決めたり泣きながらお祈りしたり忙しい。
ここに来る道中も恐怖に震えてたんだろうなあ…

「大人気連載を削ったら読者が減るでしょう?
 私はなるべく多くの人に思いをお伝えしたいのです、多少は目を瞑りましょう」
「ありがとうございます!ルース様ぁ!!」

3人はもう喜色満面で俺の顔を拝んでいる。
やめなさい、何も出ませんぞ!!

すると突然、俺の隣で黙って見ていた殿下が爆弾を投下した。

「お前たち、の寛大さにとくと感謝するのだな」
「はい!一生付いていきま……あ、え?」
「ちょっ…殿下っ!?」
「あ~…言っちゃった」

実は「婚約者ダービー」券の販売は昨日終了。
だからバラしても問題ないといえば問題ないんだけど…ね…?

「ってことは、うちの雑誌を読んで、ルース様に賭けた読者は…」
「まあ、風俗代くらいにはなるだろう」
「お、俺たちも、結構賭けた…よな」
「ぼ、僕なんか…小説の原稿料、全額…」
「うおおおおお!!非モテの勝利じゃ!!」
「「ひゃっほー!!」」

このまま動画で辞書に乗せたいくらいの「狂喜乱舞」をする3人を見て、俺は少し遠い目になった。
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