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最後の学園生活
王宮決戦 1
しおりを挟むボルタ・シルウェストリスは王宮を知り尽くしていた。
どこに誰の部屋があるか、どこにどの部署があるか、どこに何が置いてあるか。
どこから侵入すれば見つかりづらいか、どこに警備の兵が立っているか。
「……あの野郎、どこへ行きやがった」
騒がれると面倒だから、事を知らない連中は片っ端から眠らせる。
目が覚めた時には、王は拘束され玉座から蹴落とされる寸前……
そういう状態にする為に、ボルタはパッセルと共に現在王宮内を駆けずり回っていた。
「逃げたとしたら、相当な危機回避能力ですぞ」
「あのクソボケ下痢便ヤリチン野郎にそんな脳あるわけねーだろ」
「はは、出た出た」
自分たちの姿を見た者には眠ってもらう……
とはいえ、そもそも今は深夜だ。
どこの部署も、この時間まで働いている人間などいない。
使用人たちも全員眠りについている。
直前まで不穏な空気を感じさせなかったおかげで、
・いつも通りの人数が
・いつも通りの場所を
・いつも通りの警戒レベルで
警備している。
そして、二人がこんな夜更けに王宮内を歩いている事に不審を抱きもしない。
つい最近まで、この二人が朝まで喧々諤々やりあっているのを見ているからだ。
いわゆる大街道建設計画である。
やれどこの街道が先だとか、
やれ道幅はどうだとか、
左側通行が何とかで歩道がどうとか。
周りの書記官が2回交代しても足りない程……
だから、最初に出会った近衛はこう言った。
『お疲れ様です』
……そのくらい、何もかも「いつも通り」なのだ。
いつも通りでないのは、その後猛烈な眠気に誘われてしまう事ぐらい。
「お前のその『強制睡眠』だかいうのは、ほぼチートだな」
「はは、これが無きゃ今頃どこかの奴隷ですよ」
「命懸けならチート級にもなるってか」
「そういうシルウェストリス公は、どこでチートという言葉を?」
「そりゃ前世でだよ」
こんな時にさらりと大きな秘密を語るボルタ。
だがパッセルに驚きはない。
「でしょうなぁ」
「お前に言われたかないね」
そんな事は、この1年程で分かっていた。
お互い転生者である事を認めたうえでなければ、国土強靭化計画とか国道建設、果ては道路交通法などこの短期間で話し合えるわけが無かったからだ。
「後探していない場所は?」
「アリスヴェルデ王女の部屋と、……離宮だ」
「では、先に王女の部屋から参りますか」
「ああ、気を付けろよ。
何ならあそこが一番警備が厳重だからな」
「……籠の中の鳥、ですか」
「そこいらのと一緒にされちゃ困るがな」
何故か誇らしげに言うボルタ。
という事は、彼女の籠を作り上げたのは……
「せめて部屋の中ででも、季節を感じて欲しいと思ってな。
大きな植木鉢を用意して坪庭を作ったり、ビオトープを作ったり……
プランターで家庭菜園も作ってあるし」
「やりますなぁ」
言葉を交わしながら、ボルタとパッセルは彼女の部屋へと向かう。
そこに王がいない事を祈りながら……。
***
姫の部屋で、ボルタは大きなため息をついた。
「ボルタおじさま!
こんな夜更けにどうされましたの?」
「姫、こんな夜更けにどうして起きていらっしゃるんです」
入口の警備を強制的に眠らせ、夜勤の使用人にも眠って頂き……
そうしてそっと忍び込んだ姫の部屋で、肝心の姫に見つかってしまったのだ。
そりゃお小言の一つも言いたくなる。
だが、姫は深夜の来客に興味津々だ。
刺激の少ない日々を送っているから仕方があるまい。
「だって、この本面白くて……って、そんなのどうでもいいでしょ!ね、この方は?」
彼女はパッセルを見て目を輝かせる。
そういえば、彼はまだ王宮の中では新参者のうちに入るのだ。
パッセルは姫の気を引く事にし、ボルタに目配せした。
「初めてお目にかかります、我が国の美しき月、アリスヴェルデ王女殿下。
私はアルバトルス災害救助隊長のパッセルと申します、今後ともお見知りおきを。
ところで、国王陛下に急ぎご奏上したい事がありまして、西の辺境から走ってきたのですが」
「何か起きましたの?」
「ええ、魔物の巣が見つかったのです。
我々だけでは対処しきれぬ為、応援を頼みに……」
「まあ、魔物の巣!?どんなものですの?」
「それはですね……」
姫がパッセルの話に夢中になっている間に、ボルタは部屋の中を慎重に見て回る。
パッセルはその隙に、姫の両手を取り……
「ふむ、姫には魔法の才があるやもしれませぬな」
……と、とんでもない一言を発していた。
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