話が違う2人

紫蘇

文字の大きさ
230 / 292
最後の学園生活

王宮決戦 1

しおりを挟む
 
ボルタ・シルウェストリスは王宮を知り尽くしていた。

どこに誰の部屋があるか、どこにどの部署があるか、どこに何が置いてあるか。
どこから侵入すれば見つかりづらいか、どこに警備の兵が立っているか。

「……あの野郎、どこへ行きやがった」

騒がれると面倒だから、事を知らない連中は片っ端から眠らせる。
目が覚めた時には、王は拘束され玉座から蹴落とされる寸前……

そういう状態にする為に、ボルタはパッセルと共に現在王宮内を駆けずり回っていた。

「逃げたとしたら、相当な危機回避能力ですぞ」
「あのクソボケ下痢便ヤリチン野郎にそんな脳あるわけねーだろ」
「はは、出た出た」

自分たちの姿を見た者には眠ってもらう……

とはいえ、そもそも今は深夜だ。
どこの部署も、この時間まで働いている人間などいない。
使用人たちも全員眠りについている。
直前まで不穏な空気を感じさせなかったおかげで、
・いつも通りの人数が
・いつも通りの場所を
・いつも通りの警戒レベルで
警備している。

そして、二人がこんな夜更けに王宮内を歩いている事に不審を抱きもしない。

つい最近まで、この二人が朝まで喧々諤々やりあっているのを見ているからだ。
いわゆる大街道建設計画である。

やれどこの街道が先だとか、
やれ道幅はどうだとか、
左側通行が何とかで歩道がどうとか。
周りの書記官が2回交代しても足りない程……

だから、最初に出会った近衛はこう言った。

『お疲れ様です』

……そのくらい、何もかも「いつも通り」なのだ。
いつも通りでないのは、その後猛烈な眠気に誘われてしまう事ぐらい。

「お前のその『強制睡眠』だかいうのは、ほぼチートだな」
「はは、これが無きゃ今頃どこかの奴隷ですよ」
「命懸けならチート級にもなるってか」
「そういうシルウェストリス公は、どこでチートという言葉を?」
「そりゃ前世でだよ」

こんな時にさらりと大きな秘密を語るボルタ。
だがパッセルに驚きはない。

「でしょうなぁ」
「お前に言われたかないね」

そんな事は、この1年程で分かっていた。
お互い転生者である事を認めたうえでなければ、国土強靭化計画とか国道建設、果ては道路交通法などこの短期間で話し合えるわけが無かったからだ。

「後探していない場所は?」
「アリスヴェルデ王女の部屋と、……離宮だ」
「では、先に王女の部屋から参りますか」
「ああ、気を付けろよ。
 何ならあそこが一番警備が厳重だからな」
「……籠の中の鳥、ですか」
「そこいらのと一緒にされちゃ困るがな」

何故か誇らしげに言うボルタ。
という事は、彼女の籠を作り上げたのは……

「せめて部屋の中ででも、季節を感じて欲しいと思ってな。
 大きな植木鉢を用意して坪庭を作ったり、ビオトープを作ったり……
 プランターで家庭菜園も作ってあるし」
「やりますなぁ」

言葉を交わしながら、ボルタとパッセルは彼女の部屋へと向かう。
そこに王がいない事を祈りながら……。


***


姫の部屋で、ボルタは大きなため息をついた。

「ボルタおじさま!
 こんな夜更けにどうされましたの?」
「姫、こんな夜更けにどうして起きていらっしゃるんです」

入口の警備を強制的に眠らせ、夜勤の使用人にも眠って頂き……
そうしてそっと忍び込んだ姫の部屋で、肝心の姫に見つかってしまったのだ。
そりゃお小言の一つも言いたくなる。

だが、姫は深夜の来客に興味津々だ。
刺激の少ない日々を送っているから仕方があるまい。

「だって、この本面白くて……って、そんなのどうでもいいでしょ!ね、この方は?」

彼女はパッセルを見て目を輝かせる。
そういえば、彼はまだ王宮の中では新参者のうちに入るのだ。
パッセルは姫の気を引く事にし、ボルタに目配せした。

「初めてお目にかかります、我が国の美しき月、アリスヴェルデ王女殿下。
 私はアルバトルス災害救助隊長のパッセルと申します、今後ともお見知りおきを。
 ところで、国王陛下に急ぎご奏上したい事がありまして、西の辺境から走ってきたのですが」
「何か起きましたの?」
「ええ、魔物の巣が見つかったのです。
 我々だけでは対処しきれぬ為、応援を頼みに……」
「まあ、魔物の巣!?どんなものですの?」
「それはですね……」

姫がパッセルの話に夢中になっている間に、ボルタは部屋の中を慎重に見て回る。
パッセルはその隙に、姫の両手を取り……

「ふむ、姫には魔法の才があるやもしれませぬな」

……と、とんでもない一言を発していた。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

処理中です...