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わたしの箱庭
【最終話】辺境に旗を
しおりを挟む「ああ、見えて来た!」
「ここが最後の実地……?」
「いいや、ここはその一つ手前だ」
最終訓練が行われる西のダンジョンは、手前に探索者たちの村がある……
「いや、村というより……」
「ああ、随分栄えてるな」
「ほぼ街じゃないか、これ」
見習い騎士たちは口々に見たままを言う。
教育担当の中堅がクスリと笑う。
「まあ、そう見えるかもしれないな。
だが間違いなく村なんだ……税制上もな」
「?」
この国では、街と町と村で税率が違う。
村の税金は町や街より安い。
だからここは村なのだ。
「町と村の違いは、分かるか」
「え、ええと、農地がどれくらいあるか、でしょうか?」
「そうだ」
村は第一次産業を支える場所、町は第二次産業を支える場所、街は第三次産業を支える場所。
村は町より農地が多く、
町は村より工房が多い。
街には村や町から仕入れたものを売り買いする商人で溢れている。
「ここはな、村の真ん中に大きな畑があるんだ。
全部の家と畑との距離が同じになるように」
「へえ……」
「作物の植え方も変わってるぞ。
まあ、見てみるのが一番早い」
教育担当の騎士はそう言うと、馬の腹を軽く蹴って速度を上げた。
見習いたちも慌てて付いて行った。
「元気かなぁ、最終教官殿は」
中堅騎士の呟きは、馬の脚音にかき消されて見習いたちには聞こえない。
フォエバストリア・アルバトルス国王ならびにオヴィス王妃、在位10周年。
多くのアルファ達が強引に思考を改めさせられたあの日々は、すっかり遠くなっていた。
***
村の入口に着くと、そこには二人の出迎えがあった。
騎士たちは出迎えの2人が敬礼したタイミングで馬を止め、馬を降りた。
それから先輩が敬礼したのを真似て、見習いも敬礼をした。
小柄な方の男性が教育担当に近づき、挨拶した。
「エル殿!ご無事で!」
「お待たせしました、パッセル殿!」
「え!?」
新人たちは驚いた。
てっきり背の高い方が最終教官だと思っていたからだ。
彼らが噂に聞く彼は、あの特務隊全員を投げ飛ばした伝説の鬼教官。
それが、こんなに可愛らしい人だとは…。
いつもの事だが、噂に聞く姿と本人の姿がかみ合っていない。
「そうそう、新人はみんな驚く」
ざわつく新人をフフと軽く笑い、エルと呼ばれた騎士はパッセルに話しかけた。
「ベンとデラは?」
「ベン殿は昨日、デラ殿は今朝お付きになりましたよ」
「じゃあ、大体3部隊とも進軍速度は同じ、と」
「国道の魔物出現率が安定している証拠ですね」
後で領主様に報告を、とパッセルが微笑む。
隣の男は少し仏頂面だ。
機嫌が悪いなら付いて来なければいいのに。
「それでは宿舎へご案内しましょう」
「宜しくお願いします!
……あの、マンガ肉のジャーキーは手に入りますか?」
「ええ、ダンジョン管理棟の売店で売っています」
「やった!嫁が喜びます」
10年前にヒヨッコだった騎士も、嫁をもらった。
王都で一悶着あるからと、ここへ放置されたのも今は昔……
「あの頃は、村の外に農地がありましたよね」
「ええ、今もちゃんとありますよ。
うちの両親とシルウェストリスのご夫婦で、あれやこれやと新しい野菜や果物を育てています」
「そうでしたか」
10年前の5月、予定通りシルウェストリス公が夫婦でこちらへ移住してきた。
パッセルの両親を伴ってだ。
農業のプロを連れて来た、と紹介された時には、全員が驚いたものだ。
「うちの子たちの面倒も見てくれるので、助かっていますよ。
最初は旦那がやってくれる予定だったんですけど、な?」
「……うん、押し切られた」
パッセルの横にいる男が口を開いた。
どうやら彼が、パッセルの伴侶……
「お二人ともお忙しいですもんね」
「ああ、せっかくここへ引っ込んだのに意味が無いぐらいな」
「まあまあリュノ、エル殿のせいじゃないんだから」
「そんな事は分かってる、けど納得し難い」
リュノ、と呼ばれた男はパッセルを抱き寄せた。
どうやらエルとパッセルが仲良く話をするのが許せなかったらしい……
「はは、相変わらずですなぁリュノ殿は!」
「そうだ、今も変わらずパッセルを愛している」
それは10年よりちょっと前、北のダンジョンでエルたちに見せたあの姿を少しだけ想起させた。
あの時は人生経験も少なくて何かが口から出そうになったエルだが、今はただ笑ってかわせるようになった……
「ああ、畑が見えてきたぞ!」
エルがそう言って指差した先。
村の中央に、大きな円形の畑が見えた。
そこには出穂前の麦が青々と育ち、
その奥には豆の花が咲き……
そして真ん中には、空高く旗が掲げられていた。
鳥のマークが描かれた旗が。
「あ、れ?」
一人の新人騎士が、呟いた。
「……これ、は……」
彼の目には、知れず涙が浮かんでいた。
茫然と立ち尽くす彼に、同期が声をかけた。
「おい、どうした」
「……箱庭、だ」
「え?」
「これは、『わたしの箱庭』、だ……!」
彼は膝から崩れ落ちた。
そして呟いた。
「これは、偶然……?」
偶然だとすれば、一体、何故。
一体なぜ、俺は、ここに。
そうだ、気が付いたら、俺は、死んで。
昼飯を食って、気が緩んだ、その時……
彼の頭に、あらゆる思いと記憶が渦巻いて、ここまでこの世界で生きてきた記憶と、その前の記憶が入り乱れて、こめかみに激痛が走り……。
いつの間にか隣に来ていたパッセルが言った。
「いいえ、偶然ではありません」
「!?」
「……仲間を、待っていたんです。
私以外にもきっといると信じて、一作目のタイトル画面と同じ光景を、作ったんです」
新人はパッセルの顔を見た。
パッセルは微笑み、彼に聞いた。
「私はココ村のパッセル。
あなたの名前を、教えてください」
---------------------------------おしまい
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