話が違う2人

紫蘇

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おまけ小話/辺境開拓史

子育て先進村

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「先生、おはようございます!」
「あらフェリス様!おはようございます!」
「今日もよろしくお願いします」
「ええ、しっかりお預かりします」

ハジメ村に保育園が出来て、早3年が過ぎた。
今日も元気に子どもたちが登園してくるのをニコニコしながら見つめるのは、最年長保育士のダリアだ。

「孫がいっぱい出来たみたいで楽しいわ」
「はは、そうお前が言ってくれるなら、園長を引き受けた甲斐があったよ」

ダリアの隣で笑うのは、元老騎士のゼファ。
フェリスの薬草園を手伝っていた、あの老騎士である。

「まさか、こういう第二の人生が待っているとはなぁ」
「ええ、この歳になって必要としてくれる人がいるなんて思わなかったわ」

保育園の経営は、決して楽ではない。
子どもに向き合い、スタッフに向き合い、親に向き合い、そして収支にも向き合わなくてはならない。
それでも、誰からも必要とされない人生よりはずっといい。

「とはいえ、子どもたちの食べる分をお館様が寄付してくださるからな」
「それが無かったら大赤字ですものね」
「洗濯を手伝ってくださる方もいるし」
「ええ、それが無かったら皆の仕事が終わらなくなるものね」

何くれと無く助けてくれる人もいる。
村民全員が保育園の味方でいてくれる。

「俺たちも、頑張らないとな」
「ええ、みんなに負けないようにね!」

その信頼を裏切らないように、と心を新たにしつつ、園長のゼファは出欠簿を見る。
まだ登園していないのは……

「すみません先生!遅くなりました」
「あらパッセルさん!おはようございます」
「今日もよろしくお願いします……挨拶!
「「おはようございます!」」
「おはよましゅ!」
「はい、おはようございます」

二人は最後のを保育園に迎え入れた後、そっと門を閉めて園舎の中へと入っていった。


***


保育園が出来た事により、共働きが可能になったパッセルとリュノはダンジョンにいた。

「育休から復帰したばかりなのに、人使いが荒くないですか兄上」
「すまん……でも、パッセルがいないと新しい層の攻略が出来ないから」
「今日のお迎えもパッセルのご両親に頼んでしまった……」
「すまん、でもリュノ殿しか絵を描ける人間がいないんだ」

二人ともダンジョン攻略に必要な人材なのだ。
仕方がない。

「出入口が5つも出来ちゃ仕方ないよ」
「そうですねぇ……」
「まさかこんな大規模ダンジョンになるとはなぁ」

とはいえ、ここのダンジョンは東の辺境や北の辺境よりずっとお宝が出る確率が高い。
金貨・宝飾品は言うに及ばず、武器・防具・珍しい薬草……

「今日こそ苗を持ち帰りたいな」
「ああ、ダンジョンの外でも育てば、もっといい回復ポーションを量産できるしな」

ダンジョン攻略はフェリスも一緒だ。
暗いダンジョン内で薬草を探し当てられる人間がフェリスしかいないので、これもまた仕方がない。

「代わりの人材を育成しないと、子育てどころではありませんな」
「特務隊も忙しそうだしな」
「ギル王子とラディアが婚約したばっかりだしね」

フェリス達が辺境に入植してから3年、この婚約を契機にして、ついにラディアがオメガだった事が明かされた。

それとともに、中央にはバース性を偽らなければならない程の差別があった事も同時に明かされ、早くからオメガ差別撤廃に取り組んでいたエバ王子の株は急上昇中らしい。

「まあ、それもこれも有料号外のおかげですがね」

ウルサの実家であるスマリティムス家も、順調に暗躍している。
これにはアラウダも頭が上がらないだろう。

「みんなの頑張りが分かるのも、国道が通ったおかげだよね」
「さすが『アルバトルスの大動脈』だな」

この3年間で、国道は西の辺境と東の辺境、南の王領と北の辺境を繋いだ。
他国からもダンジョン目当ての旅人が増えた。
ここ、西の辺境ダンジョンにもお隣のユバトゥスからお忍びの騎士がやってきている。

「ユバトゥスにはダンジョン無いのかな?」
「探しているという噂は聞くがな」

メジロを貸してくれという話も、時々舞い込むようになった。
そんなメジロは、今日も元気にダンジョン近辺の草をムシャムシャ……

「もしかして、あの草を食べる事で何かが発揮されるようになるんじゃないの?」
「そうだったら面白いですね」
「そうなればダンジョン探索馬を量産できるな」
「試してみる価値はあるかもな。
 メジロにもこの前、子どもが生まれたし」

人も馬も、順調に増えていくハジメ村。
パッセルが目標とする「30年後」は、一体どうなっているのか……。
そして、その頃のアルバトルスはどんな国になっているのか。

「さて、世間話はこれぐらいにして、ダンジョン行くか」
「そうですね、子どもが起きている時間帯に帰りたいですし」

何事も、まずは目の前の仕事から。

着実な進歩のために、4人はダンジョン攻略隊と共にダンジョンの中へと進んでいった。

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