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二つの世界が出会う時
夏季休暇の始まり
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一学期終了後、パッセルは早速学園に預けていた馬に鞍をかけ、荷物を乗せた。
正門まで行くと、そこには3人の騎士が馬に乗って待機していた。
「クレイド兄上、フェリス殿の事は頼みますよ」
「ああ、分かった。気を付けてな」
「行ってらっしゃい、パッセル!」
「ええ、辺境でまたお会いしましょう」
あの茶会以降、パッセルは急いでフォエバストリア王子を通じ、アルバトルス王国全土の災害情報を集めた。
どうやら今年はモンタルヌス領より東のラルガ領で大雨の被害が出ているらしい。
それから、その周辺の領で魔物の被害が目立ってきたとの事。
残念ながら、三人で一旗揚げる予定の辺境の地はアルバトルスの西端。
ラルガ領とは逆方向だ。
「親父には宜しく言っといてくれ!」
「了解しました、では!」
パッセルは颯爽と馬を走らせ、街道を駆けていった。
本来ならパッセルを守るはずのクレイドだが、今回はフェリスと共に辺境へ行く事にした。
各派閥の思惑が絡み合った結果、パッセルには3人も騎士が付いたからだ。
「そもそも、武力だけならパッセル一人でも充分だろうけどな」
「ええ、護衛の騎士すら必要ないかも」
パッセルが自身の実力をもって「中立」を貫くつもりでも、様々な思惑が彼を放っておかない。
その点、やはり彼はこの話の主人公なのだ…
方向性はだいぶズレているが。
「…恋愛小説だったはずなのになぁ」
「ん?何が?」
「ううん、前世で読んでた、この世界によく似た小説の話」
正確にはR18のBL小説だ。
エロシーンがいくつもあって、その部分を読むたびに背徳感に浸っていた…
18歳になったらこんな過激な物も読めちゃうんだぞ、という優越感にも浸りながら。
前世を思い出してムフフ…と笑うフェリスに、クレイドは聞いた。
「フェリスは、恋愛がしたいのか?」
「うん…好きな人とか、いた事が無くて」
「えっ、でもフォエバストリア殿下は…」
すると、フェリスは怒涛の如く反論した。
「はっきり言ってお断りだよ!
子どもの時お茶会慣れしてない僕に優しくしてくれたから、ちょっと『かっこいいな』って思ったけどさ、婚約者になった途端にあんな酷い扱いされて、今更好きだとか言われてももう無理だもん、子どもの頃に感じたトキメキなんかもう欠片も残ってないんだから!
おまけに殿下はパッセルの事気になる風なのに、僕との婚約をそのままにしてさ、誠実さに欠けると思わない!?
だからパッセルとの仲を応援する気持ちなんかこれっぽっちも持てないの、僕は!!」
「お、おう」
フェリスの勢いに、クレイドはたじたじになる。
明日からの馬車旅を前に、どうやらつついてはいけない部分に触れたらしい…
だが、そんなクレイドの様子に気が付いたのか、フェリスは急にトーンダウンして言った。
「結局殿下も恋に恋してるだけなんだ…
だから、良い人を探してあげたいって気持ちはあるよ。
できれば運命の人を探し当てられたらって思って、出来る限り色んなオメガの子と会わせようとしてるんだ。
沢山のオメガと会えば、運命の番に出会う確率も上がるでしょ?」
「あ~、それはそうだな」
「大体パッセルと結婚するのは、一緒に辺境へ行ってくれる人じゃないと!でしょ!」
「ああ、もちろんだ」
確かに、パッセルなしで荒れ果てた辺境に行っても意味がない。
そこはクレイドもフェリスに完全に同意できる。
「パッセルにもいい相手が出来たら良いんだけどな」
「…護衛の騎士って、ベータの人だっけ?」
「確か…そうだな」
『未婚のオメガの警護に、アルファを付ける事は出来ない』
各派閥が牽制し合った結果、そういう話に落ち着いたのだ。
そもそも法律でそう決まっている。
つまり「法律は守りましょうね」というだけの話を喧々諤々と議論したのだ…
派閥というのはこうして時に無駄を生む。
「…パッセルって、どんな人が好みなのかな」
「えっ、フェリスも知らないのか?」
「うん、一度聞いた事はあるんだけど、好きになった人が好みって言ってて」
「それも困ったなぁ」
それはともかく、フェリスとクレイドも明日から辺境へ馬車で出る。
こちらの護衛は何と騎士団だ、何故なら…。
「…フォエバストリア殿下も、一緒だしな」
「何だか大げさな旅行になりそう」
「まさか本人が『行く』なんて言うとは思わなかったなぁ」
「そうだよね、普通は部下に頼むとかだよね」
フェリスとクレイドは単に下見に行きたかっただけだったのに、この騒ぎ。
それもこれも、フェリスが未だに王子の婚約者だからだ。
「…けど確かに、婚約者がいるのに他の男と二人で旅行はまずいわな」
「早いこと殿下にお相手見つけなきゃ…」
今回は仕方ない…。
二人はため息をつきつつ、第一寮へ旅の準備をしに戻るのであった。
=============
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誠にありがとうございます!
正門まで行くと、そこには3人の騎士が馬に乗って待機していた。
「クレイド兄上、フェリス殿の事は頼みますよ」
「ああ、分かった。気を付けてな」
「行ってらっしゃい、パッセル!」
「ええ、辺境でまたお会いしましょう」
あの茶会以降、パッセルは急いでフォエバストリア王子を通じ、アルバトルス王国全土の災害情報を集めた。
どうやら今年はモンタルヌス領より東のラルガ領で大雨の被害が出ているらしい。
それから、その周辺の領で魔物の被害が目立ってきたとの事。
残念ながら、三人で一旗揚げる予定の辺境の地はアルバトルスの西端。
ラルガ領とは逆方向だ。
「親父には宜しく言っといてくれ!」
「了解しました、では!」
パッセルは颯爽と馬を走らせ、街道を駆けていった。
本来ならパッセルを守るはずのクレイドだが、今回はフェリスと共に辺境へ行く事にした。
各派閥の思惑が絡み合った結果、パッセルには3人も騎士が付いたからだ。
「そもそも、武力だけならパッセル一人でも充分だろうけどな」
「ええ、護衛の騎士すら必要ないかも」
パッセルが自身の実力をもって「中立」を貫くつもりでも、様々な思惑が彼を放っておかない。
その点、やはり彼はこの話の主人公なのだ…
方向性はだいぶズレているが。
「…恋愛小説だったはずなのになぁ」
「ん?何が?」
「ううん、前世で読んでた、この世界によく似た小説の話」
正確にはR18のBL小説だ。
エロシーンがいくつもあって、その部分を読むたびに背徳感に浸っていた…
18歳になったらこんな過激な物も読めちゃうんだぞ、という優越感にも浸りながら。
前世を思い出してムフフ…と笑うフェリスに、クレイドは聞いた。
「フェリスは、恋愛がしたいのか?」
「うん…好きな人とか、いた事が無くて」
「えっ、でもフォエバストリア殿下は…」
すると、フェリスは怒涛の如く反論した。
「はっきり言ってお断りだよ!
子どもの時お茶会慣れしてない僕に優しくしてくれたから、ちょっと『かっこいいな』って思ったけどさ、婚約者になった途端にあんな酷い扱いされて、今更好きだとか言われてももう無理だもん、子どもの頃に感じたトキメキなんかもう欠片も残ってないんだから!
おまけに殿下はパッセルの事気になる風なのに、僕との婚約をそのままにしてさ、誠実さに欠けると思わない!?
だからパッセルとの仲を応援する気持ちなんかこれっぽっちも持てないの、僕は!!」
「お、おう」
フェリスの勢いに、クレイドはたじたじになる。
明日からの馬車旅を前に、どうやらつついてはいけない部分に触れたらしい…
だが、そんなクレイドの様子に気が付いたのか、フェリスは急にトーンダウンして言った。
「結局殿下も恋に恋してるだけなんだ…
だから、良い人を探してあげたいって気持ちはあるよ。
できれば運命の人を探し当てられたらって思って、出来る限り色んなオメガの子と会わせようとしてるんだ。
沢山のオメガと会えば、運命の番に出会う確率も上がるでしょ?」
「あ~、それはそうだな」
「大体パッセルと結婚するのは、一緒に辺境へ行ってくれる人じゃないと!でしょ!」
「ああ、もちろんだ」
確かに、パッセルなしで荒れ果てた辺境に行っても意味がない。
そこはクレイドもフェリスに完全に同意できる。
「パッセルにもいい相手が出来たら良いんだけどな」
「…護衛の騎士って、ベータの人だっけ?」
「確か…そうだな」
『未婚のオメガの警護に、アルファを付ける事は出来ない』
各派閥が牽制し合った結果、そういう話に落ち着いたのだ。
そもそも法律でそう決まっている。
つまり「法律は守りましょうね」というだけの話を喧々諤々と議論したのだ…
派閥というのはこうして時に無駄を生む。
「…パッセルって、どんな人が好みなのかな」
「えっ、フェリスも知らないのか?」
「うん、一度聞いた事はあるんだけど、好きになった人が好みって言ってて」
「それも困ったなぁ」
それはともかく、フェリスとクレイドも明日から辺境へ馬車で出る。
こちらの護衛は何と騎士団だ、何故なら…。
「…フォエバストリア殿下も、一緒だしな」
「何だか大げさな旅行になりそう」
「まさか本人が『行く』なんて言うとは思わなかったなぁ」
「そうだよね、普通は部下に頼むとかだよね」
フェリスとクレイドは単に下見に行きたかっただけだったのに、この騒ぎ。
それもこれも、フェリスが未だに王子の婚約者だからだ。
「…けど確かに、婚約者がいるのに他の男と二人で旅行はまずいわな」
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今回は仕方ない…。
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