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揺らぎの時
ダブルデート作戦
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それからというもの、フェリスとオヴィス、クレイドとエバ王子は4人で行動する事が多くなった。
「フェリス、食事に行かないか」
「これはエバ殿下!勿論いいですよ。
…ね、オヴィス君も一緒に行かない?」
「はい、フェリス様」
「…エバ殿下、オヴィス君も同席してよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ!早く行こう」
そうやって、食堂でクレイドとおちあい、4人で一緒に食事をする。
もちろん街へ行くときも4人、勉強会も4人、とにかく4人一組で行動しながら、オヴィスとエバ王子、クレイドとフェリスはお互いの事をチラチラと見たり気遣ったり…
これがパッセルの策だ。
名付けて「ダブルデート作戦」…
婚約解消が出来ない中、運命の番である二人をサポートするフェリスとクレイド…という図式を学内で確立させ、学生たちや教師から同情票を引き出す作戦。
「これなら俺もオヴィスと過ごせるし、フェリスもクレイドと一緒にいられるな」
「すみませんね、僕が殿下の隣で」
「それはこちらの台詞だ。
クレイドの隣にお前を置いてやれない…」
この作戦の一番良いところは、演技も何も必要ないところだ。
さらにフェリスとエバ王子の仲の良好さもアピールでき、婚約解消しても…いや、解消した方が王家とシルウェストリス家の関係をより良くさせると思わせる根拠になる。
どの派閥がアリエス家を動かし、オヴィスの父を陥れたのか分からない今、全ての派閥に向けて働きかけなければならない…とはパッセルの談だ。
しかもこれなら、オヴィスがフェリスと王子の仲を取り持とうと努力している様にも見せられる。
オヴィスの家族を守るための時間も稼げるのだ。
4人は「さすがパッセルだ…」と感嘆し、同時に恐ろしくなった。
敵に回せば一体どうなるのか…。
「…アリエス家も、パッセルが裏にいると知ったら相当揺れるでしょうね」
「そりゃ災害の時に助けて貰えなかったら困るからな」
国民はパッセルがそういう贔屓をする人間で無い事を知っているが、貴族たちは…。
「…しかし、パッセルは今何をしてるんだろうな」
「今日はアラウダ殿と一緒に、リュノ王子のお相手をしてくれているんだ。
リュノ王子に今回の件を説明したのもパッセルだ…本当に頭が上がらなくなってきたな」
「それぐらいの人間だからこそ、俺を辺境伯にするなんて恐ろしい事を言い出せるとも言えるな」
…実はこの裏で同時進行している作戦がある。
ゴリゴリの政治案件…それが、「クレイドをフェリスの結婚相手として相応しい地位に就ける」事。
作戦名、『クレイド、辺境伯になる』。
その言葉を、パッセル以外の人間が言えば絵空事だろう。
だが、平民という生まれにも関わらずこの国で中立を保てる、その胆力…そして、火力。
「こう言っては何だが、パッセルの弱点はオメガという事だけだ」
「…そうかもしれませんね」
「パッセルの為にも、効果の高い発情抑制ポーションの開発は急務…だな」
「ええ、今も鋭意研究中です。
完璧な発情抑制、それさえあれば…とは言いませんが、必ず役立つはずですから」
「俺もその研究に予算と人員を付けられるよう動いてみる。
パッセルにせめてもの礼をせねば…」
この策が上手くいこうが、いくまいが、パッセルには世話になりっぱなしだ。
何か彼の為に出来る事があれば、何でもしよう…
4人全員が、心の中でそう誓っていた。
***
一方その頃、パッセルは…
「魔法農法、と言いますが、私がやっているのは農家がやっている事と同じです。
まずはリュノ殿下の国ではどのような農法でどんな作物を育てているかを知らねばなりません」
リュノ王子を相手に食堂の個室で昼食会の後、個人レッスンをしていた。
大抵一緒にいるアラウダだが、今日は教室にいなかったので二人きりだ。
一抹の不安もあったが、自分が将来住む土地のお隣さんに悪印象を与えるわけにもいくまい。
「つまり、ここでやっている事をそのまま持ち帰っても駄目だという事だな」
「ええ、そうです。
その上で、どの作業が魔法で置き換えられるかを考える。更に、土に足りないものは何か、逆に何がありすぎるか、その土地で何を育てたいか…。
そうすればユバトゥス王国流の魔法農法が出来上がります」
例えば、水はけの悪い土地。
水はけが悪い方が良く育つ作物を育てるか、無理をしてでも穀物を育てるか…
それもそれぞれの国の事情によるだろう。
「とはいえ、耕す事と種を蒔く事は同じだろう?」
「いいえ、種を蒔いて育てる物と、苗を作ってから植えた方が良い物があります。
耕すとしても、作物によって畝の高さも畝の幅も変わります。
簡単に言いますと、単純に魔法があれば良くなるという物でもないという事です」
「ふむ…それほど複雑だとは」
リュノ王子の留学目的の一つは、パッセルが開発した「魔法農法」を学ぶ事だ。
実に自然な組み合わせとも言えるし、意外な組み合わせとも言える。
「農家は大体、数種類の作物を輪作しています。
同じものを同じ畑で育て続けると、連作障害と言って病害虫の発生が頻発し、収穫が激減します」
「しかし、パッセル殿は農業に詳しいな?」
「ええ、農村生まれの農村育ちですから。
ここに入学する直前まで畑におりましたしね」
「なるほど、それで…」
リュノ王子の目が、すぅ…と細められた。
その途端、ズシン…と身体が重くなる感覚。
ぷつ、ぷつ、と汗が染み出す…
「君からは、爽やかな柑橘の香りがするのか」
「…っ!」
突発的な、発情期?
いや、これは…!?
「パッセル、君は自分がオメガだって事を最近知ったんだってね」
王子が、席を立ち、こちらへ、近づいて、来る。
パッセルは椅子から立ち上がれない。
威圧…であれば、軽くいなせる、はずだが。
つまり、これは…
「つまり、君はアルファってのが一体どんなものか、良く知らないんじゃないかと思ってね」
アルファのフェロモンを、強く感じる。
つまり、彼は…
「私を、番に、するつもりで?」
「そうだよ…俺はその為にここに来たんだ。
誰かに奪われる前に、俺は君を手に入れたい。
だから君がオメガだって事を突くんだよ」
「ふ…、なるほど」
彼もどうやら、アルファである事を利用する手合いらしい。
「…悪いが、プロポーズには夢を持っている方でね」
「うん?…なんだ、って……っ?」
「フェリス、食事に行かないか」
「これはエバ殿下!勿論いいですよ。
…ね、オヴィス君も一緒に行かない?」
「はい、フェリス様」
「…エバ殿下、オヴィス君も同席してよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ!早く行こう」
そうやって、食堂でクレイドとおちあい、4人で一緒に食事をする。
もちろん街へ行くときも4人、勉強会も4人、とにかく4人一組で行動しながら、オヴィスとエバ王子、クレイドとフェリスはお互いの事をチラチラと見たり気遣ったり…
これがパッセルの策だ。
名付けて「ダブルデート作戦」…
婚約解消が出来ない中、運命の番である二人をサポートするフェリスとクレイド…という図式を学内で確立させ、学生たちや教師から同情票を引き出す作戦。
「これなら俺もオヴィスと過ごせるし、フェリスもクレイドと一緒にいられるな」
「すみませんね、僕が殿下の隣で」
「それはこちらの台詞だ。
クレイドの隣にお前を置いてやれない…」
この作戦の一番良いところは、演技も何も必要ないところだ。
さらにフェリスとエバ王子の仲の良好さもアピールでき、婚約解消しても…いや、解消した方が王家とシルウェストリス家の関係をより良くさせると思わせる根拠になる。
どの派閥がアリエス家を動かし、オヴィスの父を陥れたのか分からない今、全ての派閥に向けて働きかけなければならない…とはパッセルの談だ。
しかもこれなら、オヴィスがフェリスと王子の仲を取り持とうと努力している様にも見せられる。
オヴィスの家族を守るための時間も稼げるのだ。
4人は「さすがパッセルだ…」と感嘆し、同時に恐ろしくなった。
敵に回せば一体どうなるのか…。
「…アリエス家も、パッセルが裏にいると知ったら相当揺れるでしょうね」
「そりゃ災害の時に助けて貰えなかったら困るからな」
国民はパッセルがそういう贔屓をする人間で無い事を知っているが、貴族たちは…。
「…しかし、パッセルは今何をしてるんだろうな」
「今日はアラウダ殿と一緒に、リュノ王子のお相手をしてくれているんだ。
リュノ王子に今回の件を説明したのもパッセルだ…本当に頭が上がらなくなってきたな」
「それぐらいの人間だからこそ、俺を辺境伯にするなんて恐ろしい事を言い出せるとも言えるな」
…実はこの裏で同時進行している作戦がある。
ゴリゴリの政治案件…それが、「クレイドをフェリスの結婚相手として相応しい地位に就ける」事。
作戦名、『クレイド、辺境伯になる』。
その言葉を、パッセル以外の人間が言えば絵空事だろう。
だが、平民という生まれにも関わらずこの国で中立を保てる、その胆力…そして、火力。
「こう言っては何だが、パッセルの弱点はオメガという事だけだ」
「…そうかもしれませんね」
「パッセルの為にも、効果の高い発情抑制ポーションの開発は急務…だな」
「ええ、今も鋭意研究中です。
完璧な発情抑制、それさえあれば…とは言いませんが、必ず役立つはずですから」
「俺もその研究に予算と人員を付けられるよう動いてみる。
パッセルにせめてもの礼をせねば…」
この策が上手くいこうが、いくまいが、パッセルには世話になりっぱなしだ。
何か彼の為に出来る事があれば、何でもしよう…
4人全員が、心の中でそう誓っていた。
***
一方その頃、パッセルは…
「魔法農法、と言いますが、私がやっているのは農家がやっている事と同じです。
まずはリュノ殿下の国ではどのような農法でどんな作物を育てているかを知らねばなりません」
リュノ王子を相手に食堂の個室で昼食会の後、個人レッスンをしていた。
大抵一緒にいるアラウダだが、今日は教室にいなかったので二人きりだ。
一抹の不安もあったが、自分が将来住む土地のお隣さんに悪印象を与えるわけにもいくまい。
「つまり、ここでやっている事をそのまま持ち帰っても駄目だという事だな」
「ええ、そうです。
その上で、どの作業が魔法で置き換えられるかを考える。更に、土に足りないものは何か、逆に何がありすぎるか、その土地で何を育てたいか…。
そうすればユバトゥス王国流の魔法農法が出来上がります」
例えば、水はけの悪い土地。
水はけが悪い方が良く育つ作物を育てるか、無理をしてでも穀物を育てるか…
それもそれぞれの国の事情によるだろう。
「とはいえ、耕す事と種を蒔く事は同じだろう?」
「いいえ、種を蒔いて育てる物と、苗を作ってから植えた方が良い物があります。
耕すとしても、作物によって畝の高さも畝の幅も変わります。
簡単に言いますと、単純に魔法があれば良くなるという物でもないという事です」
「ふむ…それほど複雑だとは」
リュノ王子の留学目的の一つは、パッセルが開発した「魔法農法」を学ぶ事だ。
実に自然な組み合わせとも言えるし、意外な組み合わせとも言える。
「農家は大体、数種類の作物を輪作しています。
同じものを同じ畑で育て続けると、連作障害と言って病害虫の発生が頻発し、収穫が激減します」
「しかし、パッセル殿は農業に詳しいな?」
「ええ、農村生まれの農村育ちですから。
ここに入学する直前まで畑におりましたしね」
「なるほど、それで…」
リュノ王子の目が、すぅ…と細められた。
その途端、ズシン…と身体が重くなる感覚。
ぷつ、ぷつ、と汗が染み出す…
「君からは、爽やかな柑橘の香りがするのか」
「…っ!」
突発的な、発情期?
いや、これは…!?
「パッセル、君は自分がオメガだって事を最近知ったんだってね」
王子が、席を立ち、こちらへ、近づいて、来る。
パッセルは椅子から立ち上がれない。
威圧…であれば、軽くいなせる、はずだが。
つまり、これは…
「つまり、君はアルファってのが一体どんなものか、良く知らないんじゃないかと思ってね」
アルファのフェロモンを、強く感じる。
つまり、彼は…
「私を、番に、するつもりで?」
「そうだよ…俺はその為にここに来たんだ。
誰かに奪われる前に、俺は君を手に入れたい。
だから君がオメガだって事を突くんだよ」
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