話が違う2人

紫蘇

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あがく世界

【パッセル】春休み前のひと時

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もうそろそろ2月も半ばだ。

前回の反省を踏まえ、今回はエバ王子に頼らず訪問日程を組まねばならない。
俺は各地から届いた手紙と、この国の簡易地図を見ながら考える。

「…ふーむ」

有難い事に、寮は一人部屋だ。
ベッドと勉強机、壁の下半分が棚で、上半分に荷物を置くスペースとハンガー掛けのフックが少々。
広さは3畳ほどで、使い勝手も良い。

「…東の山火事は、もう暫くかかりそうだな」

もう一度そこを見に行くか、それとも一度も行った事の無い場所へ行くか…。

「そう言えば、アリエス領にはまだ行った事が無いな」

アリエス領はオヴィス殿の故郷だ。
一度ご実家を訪ねてみても良いかもしれない。

「問題は、護衛とネックガードか…」

勉強会のメンバーに、魔物の爪からも首を守れるやつをと頼んでおいたんだが、出来ているだろうか。

俺はふと、リュノ王子がくれた首輪ネックガードに触れてみた。
頑丈な布で出来てはいるが、王子の目の色とお揃いの宝石がぷらぷらとぶら下がっている。
これは命令が無くてもしていけない奴だ。
華美すぎて、被災者の心を逆なでしかねん。

「…宝石を売るわけにもいかんしな」

奴がこれを俺に寄越した意味は、分かっている。
それを素直に付けている自分も、どうかと思ってはいる。

「…恋愛は、分からん」

両親を大切にする気持ちは、有る。
自分を慕ってくれる人たちを大切にしたい気持ちも、有る。
兄弟たちを愛おしく思う気持ちも有る。
友情だって、育むことができている…と、思う。

だが、抱かれたいと思う人間も、抱きたいと思う人間もいない。
恋愛の「好き」と親愛の「好き」の違いは「肉欲」だとするなら、俺はリュノ王子に恋をしていない。

抱かれたいと思った事が無いからだ。

キスも悪くなかったなと思うだけ。
触られても嫌悪感が無かったと思うだけ。
自分から「抱いて欲しい」と思った事は無い…
それは、発情期でも変わらない。

フェリス殿はクレイド兄上のシャツや練習着を借りたりしているが…
俺も彼の持ち物を借りてみれば分かるだろうか?

「…そろそろ、来る頃だろうし」

だが、そんな事を言えば気を持たせる事になる。
それは彼にとってとても残酷な事だろう。
次の恋が見つかりやすい学生の間にケリをつけて差し上げないと。

「俺より綺麗な子なんかいくらでもいるしな」

俺以外のオメガは、みんな可憐で美人だ。
選択肢から俺がいなくなれば、彼とてその事に気付くだろう。

「……はぁ」

大体、今は恋なんかしている場合じゃない。

実験に参加して頂いている方々への2回目の訪問も春休み前に終わらせなきゃならない。
治療後の王妃様の発情期の事も気になる。
フェリス殿と兄上をくっつける為の計画だってある。
兄上を辺境伯にする計画もある。

ここで俺がスキャンダルの1つでも起こせば、計画の進行に支障が出る。
そもそも、貴族の屋敷に裏口から忍び込んでいる時点でスキャンダルになりうるのだが…そこはそれ。

「…フェリス殿に連絡しないと…」

少し、熱っぽくなってきた。
フェリス殿に頼んで、この前出来たという抑制ポーションを譲ってもらおう。
被験者は多い方が良いだろうし…
タカるみたいでアレだけど、な。


***


「パッセル、抑制剤持ってきたよ!
 今度のは今までのと一味違うんだから!」

連絡すると、早速フェリス殿は部屋まで訪ねてきてくれた。
今回のは野心作らしい……

「今までは天日で乾燥させたのを調合してから煎じてたんだけど、今回は陰干ししたのを煎じてから調合してみたの。薬草によって一番色が出る温度が違うんだ、色が濃い方が味も濃いから、もしかしたら薬効も濃いのかなって、一つ一つ調べていって、それでブレンドしていく感じ?この方が雑味もなくて美味しいし…ほら、まずい薬より美味しい薬の方が嬉しいじゃん?けど、不味さは発情から正気に戻るのに必要だった…ってなればまた考えよっかなって」

「ふむ、なるほど…不味さ」

フェリス殿は元々研究者気質だったのだろう。
説明を求めると、早口であれもこれもと教えてくれる…

「それから、今考えてるのはアロマ。
 水蒸気蒸留の装置が薬学科にあってね、使って見たかったんだぁ~!これもそれぞれの薬草から精油を作って、それを調合して発情抑制用の香りを作るの。これが成功したらアルファとオメガが同じ部屋にいる時に使う事で番事故を起こしにくくできるかもでしょ!それに飲む物だって思いこんでるのも良くないかなって!」

「おお…それはすごい発想だ!」
「でしょ!
 気分って大事だからね~」

というわけで、試しに使ってみて~と言ってアロマポットを設置してくれた。
上の皿に精油を入れて下のろうそくに火をともせば良いらしい…
火事には気を付けないとな。

さて、これだけ揃えてもらったんだし、後は天に運を任せて…
と思ったら、フェリス殿はもう一つ何かを取り出して、俺に渡してきた。

「あと…これ」
「…ハンカチ?」
「うん、リュノ王子の」
「えっ」

俺はドキッとした。
彼の物を借りてみようか…と考えていたのを、フェリス殿に読まれたのだろうか。
それともリュノ王子に頼まれて…?

困惑する俺に、フェリス殿は言った。

「僕ね、クレイドの手紙を貰ったとき、この匂い落ち着くなって思って…好きなんだって自覚したんだ。
 だから、発情期にこの匂い試してみて。
 恋心、取り戻せてるか分かるかもしれないから…」
「…フェリス殿」
「うん、分かってる、パッセルが『今は恋愛してる場合じゃない』って思ってるのは。
 でも恋に落ちる時って、そんなの関係ないから…ね?」
「…分かりました」

どうやらフェリス殿は、俺が「人を好きになる事」を失った話を覚えていてくれたらしい。
…それほど気にしなくても、良いのに。

「フェリス殿は…お優しいですね」
「そうかな?
 けど、ちょっと打算もあるよ。
 隣国の王子様なら、パッセルの弱点にならない相手なんじゃないかなって思ったの」
「弱点…?」
「人質にする、とか軽々しく出来ないでしょ?」
「確かに…?」

つまり彼は俺にとって都合のいい相手…と?

「あっ、違うからね!?
 都合が良いから付き合うとか、そんなの絶対ダメなんだから!!
 だけど、本当に好きなら、どんどん進めたっていいって事!そういう事!!」
「あっ、え、はは、はい」

フェリス殿は慌てて自分の発言をフォローした。
そこまで言わなくても、フェリス殿が悪意ある発言などするわけが無いと…

知って、いるのに。

……俺は今、一体どういう顔をしていた…?

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