話が違う2人

紫蘇

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あがく世界

【パッセル】アリエス領の視察 1

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単独で行動すると決め、代官邸を出発。
歩き始めてしばらくすると、賑やかな通りに出た。

オヴィスの実家がある街は、アリエス領で一番大きな街…謂わば県庁所在地のような街だ。
大きな役場があり、商会の支部があり…
立派な建物がいくつもある。

「将来的には、役場に少し間借りする形でこういう所へ支部を置くのも良いな」

アリエス領はここ10年程災害に見舞われていない。
だからまだ、災害救援隊を組織出来ていないんだ。

「来る前に備えられれば、被害も減る。
 避難訓練をして、問題点を炙り出せれば…」

ただ、しばらく災害が来ていないおかげか、商店には様々なものが並び、飲食店も賑わっている。

災害は、来ないに越したことは無い。
ただ、災害が来るのを止める事は出来ない。
出来るのは備えること、命を一番に考えられる環境作りが大事だ。

「…消火用の水樽が随分と多いな」

このように建物が密集した場所には、水のたっぷり入った樽を区画ごとに用意するようにはなっている。だが、ここまで数を揃えているところは少ないだろう。
火事への備えは十二分、というところか。

「…下水の処理は、どうなってるんだろうな」

各家庭で出る汚水や汚物については、農家であれば全て肥料へ回す体制が整っている。
だからゲームでは、伝染病対策は病院を作る事と薬草畑を作る事で解決される。

ただ、街となるとその辺りが適当な場合もある。

街の外へ捨てに行く人間を雇っている場合もあるが、庭に穴を掘って埋めるだけの街もある。
ただ川へ流すところも…。

「分解役のスライムがいるから、衛生上の問題は無い…って話なんだろうけどなぁ」

この世界では、スライムは水辺に生息する。
それが下水の浄化に一役も二役も買っているんだ。
ただ、人が増えて汚水が増えれば、増殖しすぎて川の流れをせき止めたり、川底の苔まで食べてしまって魚がいなくなったり…。

「何せ透明だからなぁ」

この世界のスライムはこぶし大程度が主で、基本的に臆病で人目につかない場所に棲んでいる。
だから、気づいた時には時既に遅し…という事もあったりして大変なのだ。

こういった地方の街なら、肥料にして農村へ循環させる事が出来れば…。
堆肥の作り方を指導するのもありか?
その堆肥を農家へ売って稼げるとなれば、ただ捨てるだけの仕事も少しは…

「ただ、汚物を扱う仕事は…
 誰もやりたがらないからな」

ここがどういう処理をしているのか、確認だな。
出来るのなら、ここと村を繋ぐ街道沿いにそういう場所を…だが、問題は匂いだな…
分解が進むまでは排泄物だし。

「とはいえ、清潔は保たれているのだから、あくまで儲けを多少出せる提案にしかならんか」

まあ、それでもいい。
偉い奴の頭の隅っこに残しておくことが大事だ。

「しかし、腹が減ったな…」

どこかで買い食いでもするか。
露店の状況も知りたいし、何よりオヴィス父の評判も知っとかないとな。
どこかで借金…というのも、もしかしたら本当に本人のやらかしかもしれないし、騙されたとすればどこでどう騙されたのかも気になる。

「ついでに聞き込みでもするか」

俺は財布の中身を思い起こしつつ、より賑やかな方へと足を向けた。


***

露店でピタパンサンドを買い、齧る。

「茹で鶏もあっさりしてて美味いな」

珍しい事に、この街の露店では唐揚げが売られていなかった。
かつて揚げ油で大火災になった事があるらしく、以来露店で売るものは茹でた物が中心らしい。
いざとなれば湯で火が消せるからだそうだ。

「なるほど、唐揚げを知らなかったわけだ」

先ほど見た消火用の水樽の多さは、過去の大火からの教訓だったんだな。
この街に倣って、各地の揚げ物屋に初期消火用の砂を備える様に促してみよう。

「何でも聞いてみるもんだなぁ…」

視察の成果を一つ得た事に安堵しつつ、ピタパンを齧…ん?

「…何だ、あの馬車」

お忍び用に質素な見た目をしているが、御者が只者ではないし、馬車の周辺には訓練された動きの人間が数名。
何より馬車を引く馬の毛並みが違う。

「また碌でも無い貴族か、それとも…」

どこから情報が漏れたのか知らんが…というか、手紙だろうな。
途中でインターセプトされたアレ。

「…こっちへ引き付けるか」

俺は敢えて馬車の方へ向かって歩く。
出来るだけ素知らぬ顔で、警戒している事がバレない様に。

御者が一瞬こちらを見た。
俺はそれにも気が付かないふりで、すれ違う手前の路地へ入る。
すると、馬車の近くにいた人間がこっちへ向かってくる…

「…この防具を付けてきて良かった」

多分、俺のうなじ狙いの連中だろう。
捕まっても、これが暫く時間を稼いでくれるはずだ…

「まあ、そもそも捕まる気は無いがな」

俺は早足で歩きながら、魔法を唱える。
街に影響がなく、彼らからも逃げられる魔法…

《…奴らの足元にツルツルの氷を張って》
《ついでに上半身だけに強い向かい風》
《よろしく頼む、世界のコトワリ》

唱えるだけ唱えて、走る。
後ろでドシン、と尻もちをつく音…

それから俺はもう一つ唱える。

《光学迷彩》

これで多少は、見つかりづらくなったはず。

俺は路地を走り抜け、後ろを確認する。
やつらはキョロキョロと周囲を見て立ち尽くしている…

「…逃げ切ったな」

そう簡単に捕まってちゃ、今まで俺に挑んでは敗北してきた連中に申し訳が立たない。
とはいえ、あの馬車と周囲の人間の数を考えれば、今までの連中とは格が違う人間があの馬車の中にいると予測できるわけで…。

はぁ。

「…確認、しとくか」

俺は光学迷彩を展開したまま、別のルートでもう一度馬車の方へ近づいてみることにした。

「……」

馬車の方を暫く観察していると、俺に逃げられた奴らが馬車へ戻ってきた。
一人が馬車の扉を叩くと、扉が開いて中が見えた。

「やっぱり、な」

馬車の中にいたのは…
案の定、第二王子殿下だった。


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