話が違う2人

紫蘇

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あがく世界

エイギルフェルド VS パッセル 2

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パッセルに「しがない農民の子」と言われて、エイギルフェルドは自嘲気味に言う。

「…嘘をつくな」
「嘘ではありません、真実です」
「お前がただの農民の子だなどと、誰も信じてなどいない」
「いいえ、実の両親はちゃんと信じてくれています」

パッセルは自分を産んでくれた両親の事を引き合いに出す。
エイギルフェルドは思う。
自分の親は、自分をどう思っているのだろうか、と。

父親は、あんなだけど。
母親は…ここ数年、会うこともしなかった。

父の番だから。
オメガだから。

いや、それだけではない。
一度強めに怒られたからだ。
食べ物で遊んではいけません、と…

たった、それだけの事で。

「…俺は、父のようにはなるまいと思っていた」
「ええ、それは素晴らしい心掛けかと」
「お、前……まあ、いい」

父のようにはなるまい、とは思ったものの、自分の側に寄る人間にチヤホヤされているうちに、いつの間にか傲慢な人間になっていたのだ…

と、エイギルフェルドは気づいた。

「…父は母を、自分より女にモテる男の婚約者だ、というだけで横から攫って強引に番にした。
 番にするだけして、捨てる予定だったのだろうが…その一回で、母は身ごもってしまった」

更に寝取られた方の男の方も黙ってはいなかった。
それを種に王を強請ゆすり、王は大金を払ってそれを終わりにしようとした。
だが、その事を知った王の婚約者の実家が激怒。
それなりの慰謝料を支払うか、責任を取ってその者を番とするか、どちらかを選べと当時の王に迫り…

当時の王、つまりフォエバストリアとエイギルフェルドの祖父は、息子に彼を娶る様命令した。

そう、男を抱け、と今の王に命令したのだ。
彼が女好きである事を分かった上で、男を抱けと、命令したのだ。

「…それで、陛下はエバ殿下とフェリス殿の婚約を解消させたくないとわめいているのですか」
「多分、そうだろうな」
「では、オヴィス殿も男オメガですから、その事を知ればあっさり引き下がるやもしれませんな」
「さあね…それは、分からん」

そして、愛の無い結婚生活は始まった。
政略結婚どころか、ただ責任を取るための結婚。
お互いにとって、何のメリットも無い結婚。
それでも最初は、前王が命令して発情期の相手をさせていた。

だが前王が亡くなり、枷のなくなった王は…
子どもも3人産ませたからと、次第に王妃の発情を放置するようになった。
そして、長男…フォエバストリアがアルファだと分かった途端に、さっさと離宮へ押し込めた。

「どうしてそんな人間が出来上がったのか、逆に興味が湧きますな」
「父の兄姉は、皆オメガだ。
 直系王族で唯一のアルファ…だから、末の子であるのに王になる事が決定した、と聞いた」

王はアルファでなければならない、という決まりが、仕方なく彼を王にしたのだ。
先に生まれたかどうかすら、関係無い。
アルファだから、当然のように王になった。

国のトップを、ただただバース性で決めた。
結果、貴族派の台頭を許した…

今や、貴族派が国政を運営していると言ってもいい。
その中心にいるのが…シルウェストリス公爵。
彼もまた、エバ王子とフェリスの婚約解消を頑なに認めようとしない。

王への同調か、公爵自身の思惑か。

パッセルの読みでは、後者だが…
それも公爵自身に聞いてみなければ分かるまい。

「一つお聞きしても、宜しいか」
「ああ、何だ?」
「どうして私を番にしようとしたのです?
 私はあなたの好みとは全く違う人間でしょう」
「…お前にアルファの子を産ませれば、格の高いアルファが生まれると思ったからだ」
「ほう?」

エイギルフェルドは、素直に自分の計画を語った。

「俺は跡を継ぐつもりは無い。
 俺の目的は、俺の子を王座に付ける事だった…
 お前の優秀な血を引く子で、今身ごもらせれば傍系とはいえ次々世代最初の子でもある。
 王位継承権は高い…それに、お前を押さえれば領主派もこちらへ付く。
 継承権争いの交渉にも有利になると、思った」
「そうでしたか」

それは、パッセル達の予想から少し外れていた。
あの父親の後の王など苦労する事が目に見えている、という打算までしているとは…

彼もまた、一筋縄ではいかないらしい。

そんなエイギルフェルドは、決意したかのように顔を上げた。

「だけど、もうそんな事はどうでも良い」
「……なぜです?」

エイギルフェルドはパッセルの手を優しく握った。
そして、彼の目を見て、言った。

「パッセル、俺はお前が、好きだ」
「…え?」

エイギルフェルドの目は真剣だった。
その真剣な眼差しでパッセルを見つめながら、もう一度言った。

「たった今、お前の事が、好きになった」
「……ご冗談を」

パッセルはそう返すのが精一杯だった。
さっきまでが嘘のように、今度はエイギルフェルドが主導権を握る…

「あんな乱暴をしておきながら、何を言ってるのかと思うかもしれない。
 だが、あんな事は二度としないと誓う。
 どうか俺の伴侶になってくれ、パッセル」
「なりません、殿下」
「ならぬ事はない!お前が望むなら、俺は辺境へ共に行く。そうすれば継承権争いも無くなる」
「そ、れは…」

平和を引き合いに出され、パッセルは言葉に詰まった。

エイギルフェルドの顔が、パッセルに近づく。
パッセルが反射的に目をぎゅっと瞑った。
唇と唇が触れる。
暫くして、軽いリップ音と共に、離れる。

「…嫌か?」
「お答え、できかねます」
「……そうか」

エイギルフェルドがパッセルをそっと押し倒す。
もう一度目を合わせたまま、顔を近づけ…

「でも、好きだ…パッセル」
「っ、殿下っ…!」

もう一度、唇と唇が重なる。
今度はさっきより長く…そして、


ドンドンドン!!


扉が強く叩かれ、外から大声で呼びかけられる。

『パッセルさんっ!大変ですっ!!』
「!!」

突然の事にバッと離れる二人。

『ま、まものが、出たんですっ!!
 町の外れで、いま、連絡がきたんですっ!』

オヴィスの声だ。
かなり切羽詰まっている…
パッセルは何とか立ち上がり、外の声に答える。

「分かりました、すぐ行きましょう」
「待ってくれ、俺も…」
「殿下はここでお待ちください。
 騒ぎにならぬよう、早朝の出立をお勧めします」
『パッセルさ~ん!早く、早くー!』
「分かりました、今行きます!」

パッセルは服装の乱れを直しつつ、扉へと走る。
エイギルフェルドはその背中を、ただ、見送る。

『魔物、どちらの方角です?』
『あ、あっち、あっちです!』

扉の向こうで、バタバタと音が聞こえる。

…そうして、エイギルフェルドが「自分の護衛が何も言って来ない」事に気が付いた時には、もうパッセルは屋敷の中にいなかった。




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