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学園2年目
兄と弟
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あれから数日が過ぎ、ギル王子がパッセルを送り迎えするのに第一寮生が驚かなくなった頃。
「ギル、今日は同じ馬車で帰らないか」
「兄上…どうしたのです、急に?」
「少し話したい事があってな」
二人は同じ場所から登校し同じ場所へ帰るのに、馬車は別々だった。
それは二人の仲を象徴しているようでもあり、単に警備上の問題とも言えた。
「ええ、いいですとも。
私たちの馬車が襲われて、二人同時に死んだりしないのであればね」
「物騒な事を言うなぁ、お前は」
「常に最悪を想定しているだけですよ、兄上」
二人の会話は周囲にも聞こえている。
二人が同じ馬車で登下校しない事がくだらない憶測を呼ばない様、敢えて「警備上の問題」を声に出すギル王子。
その彼に対し、エバ王子は周りに聞こえない大きさの声で返す。
「大丈夫だ、すぐ後ろにパッセルとフェリスを乗せた馬車もいる」
「…パッセルを囮に使うおつもりで?」
「いや、単純に警備が強化されているという事だ」
パッセル程ではないが、フェリスもなかなかの魔法の使い手だぞ…とエバ王子。
エバ王子とフェリスの関係もまた不思議なものだ。
ただの婚約者だった時はあれほど険悪な関係だったのに、無しにしましょうと言った途端仲が良くなった。
「常々思っているのですが、兄上にとってパッセルはどういう存在なのです?」
「ふむ…そうだな、友人というよりは重要な取引相手と言った方が近いか」
エバ王子曰く、パッセルとは友情でなく利害関係で繋がているのだと言う。
「パッセルには権力など通じないからな。
今は随分と借りを作っているが、そのうち返すと決めている」
差しあたっては、パッセルが作った「災害救助や復興支援を手伝う」組織の後ろ盾になっているのだと言う。
「あれは平民の有志が集まって出来た組織だ。
貴族が権力を行使して介入して来たら、抗うのは難しい」
「…そう言えば、最近国から報奨金が配られるという話を聞きましたが」
「ああ、シルウェストリス公の差し金だ」
つまり、貴族派がその組織に目を付けた…という事でもある。
中央で国政を仕切る貴族派には領地経営と無縁の家も多く、災害を他人事のように考える者も多い。
それらが金欲しさに組織へ寄生すれば、どうなるか…。
「パッセルが公の考えを知りたい、という事でな。
会見の場を用意したんだ」
「…それで、後ろの馬車に?」
「ああ」
つまり、これも借りを返すうちの一つらしい。
確かに王子という立場であれば、どんな貴族とでも体面できる。
「公がフェリスを連れてくる事が条件だ、と言うから、フェリスも連れてきた。
ついでにオヴィスと父との顔合わせも今日だ。
お目付け役がいた方が問題が少なそうだろ?」
そう言ってエバ王子はニッコリ笑う。
ギル王子はため息をつきつつ言う。
「それに私も付いて来い、と?」
「付いて来たくなければ別に良いが」
「いや、付いて行きます」
愛する人がそこにいるのなら、同じ場所へいたい。
ギル王子は自分が利用されているかもしれないと思いつつも、今日の予定に同行する事にした。
王宮に着くと、二人の王子がまず馬車から降りた。
そして後ろの馬車へ、お互いの愛する人をエスコートしに行くと…
「えっ…クレイド?アラウダ!?」
「ああ、俺はフェリスのエスコート係で」
「私がいると、問題が起きないので!付いて来ました!!」
「無理矢理乗って来たんで、ちょっとギュウギュウです~」
「……」
後ろの馬車は、軽く過積載気味であった。
***
「ギル、今日は同じ馬車で帰らないか」
「兄上…どうしたのです、急に?」
「少し話したい事があってな」
二人は同じ場所から登校し同じ場所へ帰るのに、馬車は別々だった。
それは二人の仲を象徴しているようでもあり、単に警備上の問題とも言えた。
「ええ、いいですとも。
私たちの馬車が襲われて、二人同時に死んだりしないのであればね」
「物騒な事を言うなぁ、お前は」
「常に最悪を想定しているだけですよ、兄上」
二人の会話は周囲にも聞こえている。
二人が同じ馬車で登下校しない事がくだらない憶測を呼ばない様、敢えて「警備上の問題」を声に出すギル王子。
その彼に対し、エバ王子は周りに聞こえない大きさの声で返す。
「大丈夫だ、すぐ後ろにパッセルとフェリスを乗せた馬車もいる」
「…パッセルを囮に使うおつもりで?」
「いや、単純に警備が強化されているという事だ」
パッセル程ではないが、フェリスもなかなかの魔法の使い手だぞ…とエバ王子。
エバ王子とフェリスの関係もまた不思議なものだ。
ただの婚約者だった時はあれほど険悪な関係だったのに、無しにしましょうと言った途端仲が良くなった。
「常々思っているのですが、兄上にとってパッセルはどういう存在なのです?」
「ふむ…そうだな、友人というよりは重要な取引相手と言った方が近いか」
エバ王子曰く、パッセルとは友情でなく利害関係で繋がているのだと言う。
「パッセルには権力など通じないからな。
今は随分と借りを作っているが、そのうち返すと決めている」
差しあたっては、パッセルが作った「災害救助や復興支援を手伝う」組織の後ろ盾になっているのだと言う。
「あれは平民の有志が集まって出来た組織だ。
貴族が権力を行使して介入して来たら、抗うのは難しい」
「…そう言えば、最近国から報奨金が配られるという話を聞きましたが」
「ああ、シルウェストリス公の差し金だ」
つまり、貴族派がその組織に目を付けた…という事でもある。
中央で国政を仕切る貴族派には領地経営と無縁の家も多く、災害を他人事のように考える者も多い。
それらが金欲しさに組織へ寄生すれば、どうなるか…。
「パッセルが公の考えを知りたい、という事でな。
会見の場を用意したんだ」
「…それで、後ろの馬車に?」
「ああ」
つまり、これも借りを返すうちの一つらしい。
確かに王子という立場であれば、どんな貴族とでも体面できる。
「公がフェリスを連れてくる事が条件だ、と言うから、フェリスも連れてきた。
ついでにオヴィスと父との顔合わせも今日だ。
お目付け役がいた方が問題が少なそうだろ?」
そう言ってエバ王子はニッコリ笑う。
ギル王子はため息をつきつつ言う。
「それに私も付いて来い、と?」
「付いて来たくなければ別に良いが」
「いや、付いて行きます」
愛する人がそこにいるのなら、同じ場所へいたい。
ギル王子は自分が利用されているかもしれないと思いつつも、今日の予定に同行する事にした。
王宮に着くと、二人の王子がまず馬車から降りた。
そして後ろの馬車へ、お互いの愛する人をエスコートしに行くと…
「えっ…クレイド?アラウダ!?」
「ああ、俺はフェリスのエスコート係で」
「私がいると、問題が起きないので!付いて来ました!!」
「無理矢理乗って来たんで、ちょっとギュウギュウです~」
「……」
後ろの馬車は、軽く過積載気味であった。
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