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学園2年目
戦い終わって…
しおりを挟む最後の患者をギルとリュノが薬屋へ連れて来た。
母親には症状が無く、父親はまだぎりぎり動けている状態だが、子どもは力なくぐったりしている。
「…重症者は、この子で最後ですね」
「ああ、頼む」
「分かりました、では…」
パッセルは最後の力を振り絞って、治癒を施す。
臍の上に手を当て、そこから胃腸へ向かって光の管を刺す。
額には汗…
紡がれる言葉。
「腫れ…炎症…鎮め、傷…塞がれ…」
そして、しばらくしてから、パッセルが手をどける…と。
「……、う……ん、ん……」
「あ、ああ、アリス…っ!」
子どもが意識を取り戻した。
急いで湯ざましを飲ませ、落ち着かせる。
腸の具合が良くなったのであれば、経口摂取した水分も吸収できるだろう。
「これで、一安心…ですね、良かった」
「あ…っ、ありがとうございます、パッセル様!」
「お待たせ~!はい、これお子さん用のお薬。
お父さんには、こちらの薬を飲ませてあげて。
間違えないでね、赤が子どもで白が大人」
「ありがとうございます、フェリス様…!」
「はい、お大事にね!」
母親はペコペコと頭を下げ、娘を抱き抱えて帰っていった。
パッセルは、残り魔力カツカツで椅子に座っているのもやっとの様子だ。
「ギル殿下、リュノ殿下。
パッセルを宿へお願いします」
「ああ、分かった」
「魔力回復ポーションを持って来ていますから、それを飲ませてあげてください」
「ああ、分かった」
護衛の騎士たちは安全な食事を…と、グラグラに煮立たせたスープを各家に配達したり、各家から集めたシーツやふきんを茹でたり、消毒液を噴霧して回ったり…と忙しくしている。
「さて、僕らももうひと頑張りしないとね」
「ああ」
フェリスはまだ処方しきれていない薬の調合を回復した薬師に任せ、クレイドと共に全戸確認に出た。
「本当は、使っちゃった薬草を取って来たいところだけど…」
「もう日も落ちたからな。明日の朝に出よう」
この周辺で採れなさそうな薬草は、王都から調達できるよう手配して…
「…ここには、災害救助隊、いないんだね」
「ああ、北の方は手薄だと聞いた。
オヴィスの実家…アリエス領にはあるんだけどな」
ただ、こういった病気は感染する恐れもある。
「感染症対策も災害救助隊に伝えておかないと…」
「ああ、もうパッセルの方で考えているみたいだ。
アルコール度数の高い酒とか、石鹸とか…」
「う~んさすがだなぁ」
奥津四郎のいた世界線でも、感染症はあっただろう。
もしかしたら、生物兵器として…
「うん、聞かない事にしよう」
蛇が出る藪はつつかない方が良いもんね。
フェリスはそう考え、クレイドと一緒にまずは薬屋の隣家へと向かった。
***
次の日、村のあちこちで大小様々な布がはためく中、フェリスとクレイドは薬草取りに出掛けた。
パッセルはまだ寝ているが、寝顔を見るに調子は良さそうだ…とギル王子。
「俺たちの魔力も少し分けたから、大丈夫だろう」
とリュノ王子が聞いてもいない事を言い、フェリスは「あっキスしたんだな」と察した。
そして「まさか3人でコトに及んでいなければ良いんだけど」…と、余計な気を回しつつ村の外へ向かった。
残されたリュノ王子とギル王子は、パッセルを挟む形で話した。
「しかし、村単位での病気の蔓延…
小さな農村だから良かったようなものの、王都で出たら最悪だな」
「ああ、だが王都には治癒師も多くいるからな。
今回の事を教訓に、病気が蔓延した場合の対処方法も本にすべきだろう」
「ギル殿ならそう言うと思った」
二人はそれぞれパッセルの右と左の頬にキスを落とし、そして右と左の手にもキスをしてから机へと向かった。
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