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学園2年目
【閑話】戻って来たばあちゃん ~モンタルヌス家長男の場合~
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ある日の晩。
「ただいま~」
「えっ、ばあちゃん!?」
出て行ったのも突然だったばあちゃんが、これまた突然帰って来た。
ばあちゃんにはいつも驚かされる…
なのに、ばあちゃんを驚かせる事が出来たためしはない。
不公平だ。
弟がばあちゃんに聞く。
「ばあちゃん、お土産は?」
「そんなもの買う金があると思うかい?」
「じゃあ土産話は?」
「それなら山ほどあるよ」
「さすがお義母様ですわ」
「そうだろう、お嫁ちゃん」
母さんはばあちゃんを取り敢えず「さすが」と言って持ち上げる。
いつもの事だ。
他に言葉は無いのか、と思う事もあるけど、多分色々考えて行き着いた先が「さすが」なんだろう。
そもそもばあちゃんの行動の前に豊かな語彙など無力なのだ…
いちいちとんでもないのだから。
***
「…ということでね、久々に剣の稽古をつけてやったのさ」
「「「……」」」
「クレイド、強くなってた?」
「ああ、まあまあだね」
土産話によると、ばあちゃんは使者さんの馬車へ強引に乗り込んだ勢いそのままにあのシルウェストリス公爵邸に突撃訪問し、その上学園の剣術の授業でひと暴れし、クレイドがフェリス様とパッセル様と一緒に主催する勉強会で生徒たちの相談に乗ってやり、嫁ぎ先がヤバそうなオメガの子には「最悪モンタルヌス領に逃げておいで」と言ってやり、王子様に編物や刺繍作品を発表する場を作る様要請したらしい。
所々「大丈夫かな~」と思う箇所があるけど、今のところ抗議文も何も届いていないから大丈夫なんだろう。
年の離れたクレイドは知らないだろうけど、ばあちゃんは元魔法騎士なのだ。
当然めちゃくちゃ強い。
本人曰く「性別関係無くモテた」そうだが、そんなばあちゃんの心を射止めたのはおっとり系のじいちゃん…
15年前にじいちゃんが死んだ後しばらく、ばあちゃんは抜け殻のようだった。
その抜け殻状態の時に3歳だったクレイドは、本気のばあちゃんを知らずに育った。
俺と弟はばあちゃんに随分しごかれたけどな!
だから俺や弟にはクレイドが「強い」という事に違和感を覚えたりするんだよね。
あいつばあちゃんのシゴキを受けた事ないくせに、っつって。
ほら、弟が余計な事を聞く……
「それってパッセル様を守れそうなぐらい?」
するとばあちゃんはカラカラと笑って言った。
「あの子が大人しく守られてるタマかい!
いつの間にか貴族の悪意なんぞ効かない人脈を築いてたさ、すごい奴だよ」
「そ、それはどういう……」
「第一王子様に加えて、貴族派筆頭のシルウェストリスと王家派筆頭のアルベンシス、その両方と仕事を頼み合う仲になってたよ」
「まじかパッセル様」
「やべえなパッセル様」
俺と弟…いや親父や母さんもだと思うけど、パッセル様って平民出身ながら「様」付けで呼ぶことに何の違和感も無いお人なんだ。
地震、なんていう数十年に一度の大災害から自分の村の人間全てを守り、近隣に行ってそこでも多くの民を救い出し、いつの間にか有能な人材を揃えて「災害救助隊」なんてのを組織して…。
そもそも、治癒魔法なんて使える人なんか、死んだじいちゃん以外に知らないぐらいぐらい珍しいのに、攻撃魔法だって使えるし、得意の風魔法や水魔法を使って畑を直したり川の底を掘ったり。
あれでオメガだって言うんだから…
世の中恐ろしいもんだよな。
確かオメガって、アルファに対して無力だって言われてなかったっけ……?
と思ってたら、母さんが言った。
「でもお義母様、パッセル様はオメガでいらっしゃいますよね?
そんな上位アルファの方々とご一緒で、その……
大丈夫ですかしら……?」
「ああ、ここだけの話、上位連中は予防的に抑制剤を飲んでるのさ、番でないオメガと会う時はね。
そういう醜聞を立てられたら困るだろう?」
それに最近フェリス殿が開発に成功した抑制剤も、かなり効果が高いようだしね…
とばあちゃんは言い、それから思い出したように話し始めた。
「それにしても、まあ綺麗な子だったよ…
あんな美人をどうやって射止めたんだかね、あの顔で」
「ひでえ!」
「自分の孫なのにひでえ!!」
「はは、でも本当の事じゃろ?
エーライとお嫁ちゃんをどう混ぜたらあんな地味な顔が出来るのかねぇ」
「お義母様っ!?」
一瞬浮気を疑われたと思ったらしい母さんが叫ぶ。
だが気にせずばあちゃんは言う。
「エーライにもお嫁ちゃんにも、ちゃ~んと似とるのに……不思議なもんじゃね」
確かに、父さんも母さんも顔は良い方だもんな。
弟なんか相手を選びきれなくて結婚してないぐらいだし…
「…どんな顔でも可愛い我が子なんだけどね」
「そりゃ親ならそうじゃろ」
それが親の欲目だよ、とばあちゃんは笑い、
「まあ、良いじゃないか。
人間顔じゃないって事だね」
と、話を強引にまとめた……。
「ただいま~」
「えっ、ばあちゃん!?」
出て行ったのも突然だったばあちゃんが、これまた突然帰って来た。
ばあちゃんにはいつも驚かされる…
なのに、ばあちゃんを驚かせる事が出来たためしはない。
不公平だ。
弟がばあちゃんに聞く。
「ばあちゃん、お土産は?」
「そんなもの買う金があると思うかい?」
「じゃあ土産話は?」
「それなら山ほどあるよ」
「さすがお義母様ですわ」
「そうだろう、お嫁ちゃん」
母さんはばあちゃんを取り敢えず「さすが」と言って持ち上げる。
いつもの事だ。
他に言葉は無いのか、と思う事もあるけど、多分色々考えて行き着いた先が「さすが」なんだろう。
そもそもばあちゃんの行動の前に豊かな語彙など無力なのだ…
いちいちとんでもないのだから。
***
「…ということでね、久々に剣の稽古をつけてやったのさ」
「「「……」」」
「クレイド、強くなってた?」
「ああ、まあまあだね」
土産話によると、ばあちゃんは使者さんの馬車へ強引に乗り込んだ勢いそのままにあのシルウェストリス公爵邸に突撃訪問し、その上学園の剣術の授業でひと暴れし、クレイドがフェリス様とパッセル様と一緒に主催する勉強会で生徒たちの相談に乗ってやり、嫁ぎ先がヤバそうなオメガの子には「最悪モンタルヌス領に逃げておいで」と言ってやり、王子様に編物や刺繍作品を発表する場を作る様要請したらしい。
所々「大丈夫かな~」と思う箇所があるけど、今のところ抗議文も何も届いていないから大丈夫なんだろう。
年の離れたクレイドは知らないだろうけど、ばあちゃんは元魔法騎士なのだ。
当然めちゃくちゃ強い。
本人曰く「性別関係無くモテた」そうだが、そんなばあちゃんの心を射止めたのはおっとり系のじいちゃん…
15年前にじいちゃんが死んだ後しばらく、ばあちゃんは抜け殻のようだった。
その抜け殻状態の時に3歳だったクレイドは、本気のばあちゃんを知らずに育った。
俺と弟はばあちゃんに随分しごかれたけどな!
だから俺や弟にはクレイドが「強い」という事に違和感を覚えたりするんだよね。
あいつばあちゃんのシゴキを受けた事ないくせに、っつって。
ほら、弟が余計な事を聞く……
「それってパッセル様を守れそうなぐらい?」
するとばあちゃんはカラカラと笑って言った。
「あの子が大人しく守られてるタマかい!
いつの間にか貴族の悪意なんぞ効かない人脈を築いてたさ、すごい奴だよ」
「そ、それはどういう……」
「第一王子様に加えて、貴族派筆頭のシルウェストリスと王家派筆頭のアルベンシス、その両方と仕事を頼み合う仲になってたよ」
「まじかパッセル様」
「やべえなパッセル様」
俺と弟…いや親父や母さんもだと思うけど、パッセル様って平民出身ながら「様」付けで呼ぶことに何の違和感も無いお人なんだ。
地震、なんていう数十年に一度の大災害から自分の村の人間全てを守り、近隣に行ってそこでも多くの民を救い出し、いつの間にか有能な人材を揃えて「災害救助隊」なんてのを組織して…。
そもそも、治癒魔法なんて使える人なんか、死んだじいちゃん以外に知らないぐらいぐらい珍しいのに、攻撃魔法だって使えるし、得意の風魔法や水魔法を使って畑を直したり川の底を掘ったり。
あれでオメガだって言うんだから…
世の中恐ろしいもんだよな。
確かオメガって、アルファに対して無力だって言われてなかったっけ……?
と思ってたら、母さんが言った。
「でもお義母様、パッセル様はオメガでいらっしゃいますよね?
そんな上位アルファの方々とご一緒で、その……
大丈夫ですかしら……?」
「ああ、ここだけの話、上位連中は予防的に抑制剤を飲んでるのさ、番でないオメガと会う時はね。
そういう醜聞を立てられたら困るだろう?」
それに最近フェリス殿が開発に成功した抑制剤も、かなり効果が高いようだしね…
とばあちゃんは言い、それから思い出したように話し始めた。
「それにしても、まあ綺麗な子だったよ…
あんな美人をどうやって射止めたんだかね、あの顔で」
「ひでえ!」
「自分の孫なのにひでえ!!」
「はは、でも本当の事じゃろ?
エーライとお嫁ちゃんをどう混ぜたらあんな地味な顔が出来るのかねぇ」
「お義母様っ!?」
一瞬浮気を疑われたと思ったらしい母さんが叫ぶ。
だが気にせずばあちゃんは言う。
「エーライにもお嫁ちゃんにも、ちゃ~んと似とるのに……不思議なもんじゃね」
確かに、父さんも母さんも顔は良い方だもんな。
弟なんか相手を選びきれなくて結婚してないぐらいだし…
「…どんな顔でも可愛い我が子なんだけどね」
「そりゃ親ならそうじゃろ」
それが親の欲目だよ、とばあちゃんは笑い、
「まあ、良いじゃないか。
人間顔じゃないって事だね」
と、話を強引にまとめた……。
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