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学園2年目
その頃、カヌス領中心部
しおりを挟む西のカヌス領中心街。
領主の館があり、関所があるこの場所に大きな揺れが襲来したのはもう10日も前だ。
落ちてきた屋根の下敷きになって死んだ者、倒れて来た家具の下敷きになって死んだ者…
多くが、自力で外へ飛び出せなかった高齢者だ。
それでも、住民は力を合わせて潰れた家からまだ息のある人々を助け出し、災害救助隊の号令の元、重症者には回復ポーションを、軽症者にも治療を施し、火事が起こらない様にそこら中へ防火用水を撒き、次の日の朝には炊き出しが行われた。
それと同時に領軍は、万が一の魔物襲来に備えて壕にかけた橋を上げ…
そしてその「万が一」が、功を奏した。
「お館様、防壁の外に壕を作っておいて良かったですね」
「ああ、パッセル殿のおかげだな。
…食料はあとどれぐらい持つ?」
「10日が限界かと」
「…10日か…何とかもう15日、持たせろ」
西の辺境を捨て、この地を中心とし数十年。
あの地をもう一度再興するという若者が現れ、やれるものならやってみろと返したのは2年前。
「我らがあの地をどういう思いで捨てたか…
だからこそ、この場所は死守せねばならん」
中央の町から西へ半日も行かない場所にこの国の最西端を置き、土塁を築き、関所を設け…
「…最近、東でも魔物が増えたとか」
「人間を挟み撃ちにする気だったか…魔物の分際で」
最近、東の辺境でも魔物騒ぎがあり、パッセルとギル王子、隣国の第4王子も参加して、大規模な魔物討伐をしたと聞いた。
「…東は勝った、今度は西の番だ」
「ええ、今はとにかく耐える時…防壁の上からの攻撃に集中しましょう」
地震直後の、魔物襲来。
踏んだり蹴ったりの事態とはいえ、魔物が良く出る地域では「地震の後には魔物が出る」と昔から言われている。
ただ、これほど大規模な発生は例を見ないというだけ……
「お館様!見張り台から、こちらへ向かってくる一団があると報告が!」
「何だって!?」
10日。
たった10日で、誰かが来たのだ。
平時の早馬でも、王都との往復に12日かかるこの地に、平時より早く、着いたのだ。
周辺の村だろうか、それとも隣領の誰かが手配してくれた…
「お館様、クレイド殿から、矢文が!壁外の畑の作物を収穫しても良いか、と!」
「クレイドだと!?」
「はい!」
カヌス伯は慌てて自分も見張り台へ走った。
息を切らし、梯子を登り、双眼鏡を覗いた。
すると、あの距離からどうやって飛ばしたのだろう、東の方に小さく…
「まさか、風魔法を使って…?」
「風、という事は、もしやパッセル殿も!?」
「分からん!だがここへ向かってくる、何台もの荷馬車が…馬が…!」
それは、王都からここまでにある領の、災害救助隊員たち。
そしてそれを率いるのは…
「もう少しで街だ!頑張れ!」
「「おおお!!」」
「兄上!魔法、第二波、撃ちます!」
「頼んだパッセル!!」
両腕を広げるパッセル、その後ろにはシンクロするように両腕を広げる人々。
「風・弾・掃射!」
「「風・弾・ソウシャ!!」」
広げた腕をクロスさせながら、パッセルが叫び、後ろの人々も叫ぶ。
畑を我が物顔で占領する魔物たちが吹き飛ぶ。
すると、街を囲んでいた魔物たちが、彼らの方へ引き付けられるように走り出す…
「…挟み撃ちだ」
「お、お館様……!」
堅実で知られるカヌス伯が、動いた。
「領軍を集めろ!
機を見計らい、東の門から打って出る!
救援隊とで魔物を挟撃だ!!」
「「「御意!!」」」
見張り台から伝令が走った。
西の辺境を治めていた名残の領軍に、数十年前の借りを返す時が来たのだ。
***
腕を横に開いて、クロスして、風。
腕を上げて、振り下ろし、水。
腰で拳を握り、前に突き出して、火。
拳を上に突き上げ、雷。
「魔法、第3波、準備!」
「「はい!」」
魔物に足止めされている間に、置いて来た救助隊のメンバーが追いついた。
彼らは道中の村での救援活動を行いつつ、危険を承知で日の出前から日没後まで街道を進んできたのだ。
『さすがに夜は無理でした』
と笑いながら、泥だらけ、傷だらけで。
それでも死者を出さずに済んだのは、途中でリュノ王子率いる王都騎士団と合流できたからだ。
『救護活動は、後から来たフェリス医療団にお任せしました』
『ギル殿下も後から、近衛騎士団を連れてお越しになるって仰ってました』
魔物の出現数も、先を行くパッセルやクレイド率いる一団のおかげで少なくなり、進行速度をほぼ下げずに済んだ。
そうして、最も揺れたこの街の一つ手前の村で合流し…
「救助隊、全員後退!」
「「はい!」」
「王都騎士団、突撃!!」
「「オオオ!」」
遂に100人部隊となり、魔物の群れと対峙している。
すれ違いざま、リュノ王子が聞く。
「パッセル、まだやれるか!?」
「ええ、当然」
「クレイドは!?」
「フェリスの回復ポーションがありゃ無敵っす!」
心配していた各種ポーションの補給も受け、先頭を走って来た人たちも一旦の休息が取れるようになった。
「パッセル様、クレイド様、付いていけなくてすみません…」
「何言ってんだ、ここまで来た事自体、めちゃくちゃ凄えよ。
俺もパッセルも、みんながいたからここまで生きて辿り着けたんだぜ」
「クレイド様……!」
パッセルは魔法回復ポーションを開ける。
フェリスが作ったこのポーション、たった一本でさっき使った魔力が8割方戻るのだから恐ろしい。
「仕事が丁寧だと、効果も上がるんですね」
「薬師にも腕ってもんがあるって、実感するな」
器具ひとつとっても良い物を使っている。
公爵家の財力に支えられたフェリスだから可能な事だ。
それはとても不平等な事だが、今はただ有難い。
「…何でもいい、この局面を支えてくれるなら」
不平等を解消するのは今ではない。
今は目の前の魔物の大群を……
「……聞こえたか、パッセル」
「ええ、高らかに」
二人は音のする方に顔を向けた。
そして、見た。
魔物の隙をついて、街の東門に続く橋が降ろされるのを。
「総員、かかれ!!」
「「御意!!」」
そしてそこから、西の領軍が、騎馬隊を先頭に出撃する音を、聞いた……!
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