話が違う2人

紫蘇

文字の大きさ
160 / 292
合わさる世界

【ラディア】僕と王子様

しおりを挟む
 
ある日いきなり決まった体験学習で、僕は大手を振ってアルカ学園の高等部にやって来た。

「僕、ずっと来てみたかったんだよね」
「あ~分かる!今の高等部って有名人いっぱいだもんな」

……うん、僕の言ってるのはそういう意味じゃないけどね。
僕が会いたいのは一人だけ、だから……。

彼が中等部を卒業してから、1年。
卒業前までは頻繁にお会いできたのに、今は殆どお見掛けする事が無くなってしまった、僕の……王子様。

そんな僕の心を知らず、興奮気味のクラスメイトは言う。

「そうそう!静のエバ殿下に、動のギル殿下。
 才女ウルサ様に暗躍のアラウダ様だろ」
「それに『美少年薬師』フェリス様と『魔法騎士』クレイド様、『運命』のオヴィス様に……
 『救国の士』パッセル様も!」
「あ~、うん、そうだね」

救国の士・パッセル……。
その名前を聞いて、ちょっと僕はへこむ。
訳あって、僕は彼の事が嫌いだからだ。
けど、クラスメイトたちは僕のそんな気持ちを悟ることなくおしゃべりを続ける。

「なぁ、お前誰に会いたい?」
「そりゃクレイド様一択でしょ」
「あ~そっか、お前騎士科志望だっけ」
「おうよ!ベータでも成り上がれる仕事ったらそれしかねー!」

ベータクラスの仲間は明るいやつが多くて、そんな明るさに助けられて、僕はそれほど落ち込まないでいられる。
大好きなあの人に会えないつらさも……

「あっ、ギル殿下だ」
「えっ、どこ?」
「あっこ」

なんと、ギル殿下はお兄様のフォエバストリア殿下とお話をしていらっしゃるようだ。
中等部にいた頃は、あんなに嫌っていたのに……。

「ギル殿下は、すっかり変わられてしまった」
「えっ、何?」
「何でもない!中等部の時は兄殿下とああやってお話されるとこ見たことないなって思っただけ」
「あー、言われてみれば?」

ギル殿下の兄嫌いは中等部でも有名だった。
ついでに人間嫌いも。

クラスメイトの誰かが言った。

「ギル殿下も、変わられたんだな」


***


僕はベータクラスにいるけど、オメガだ。

といっても、誘引香も薄いし発情期も軽くて短い。
抑制ポーションさえ飲んでいれば、寝込んだりする事も無い。

だから、両親は敢えて僕をベータだと偽る事にした。

なぜなら、中央ではオメガが堂々と差別されていて、人間扱いされていなかったからだ。
オメガはアルファを産む道具。
だからアルファの子を産んだら最後……。

だから、僕にそんな扱いを受けさせたくないって、父さんがそう決めた。

『地方の中等部という選択肢さえあれば……』

けど、王領で官吏をしてる家の子どもは全員、王立アルカ学園中等部へ通うことが義務付けられている。
しかも中等部にいる間は、王宮へ住込みで働かされる。

『いいか、ラディア。
 3ヶ月に1回の仕送り品には、必ず抑制ポーションを入れておく。
 だからちゃんと飲むんだぞ』
『うん』
『王宮では庭仕事の手伝いに就け。
 できるだけアルファやオメガと会わないようにするんだ、いいな』
『うん』

実際、誰にもバレなかった。
ベータの人たちはそもそも誘引香を感じないし、僕ぐらいの華奢な子だって普通にいる。
父さんの作戦は大成功だった……

けど、ギル殿下は違った。

どこでだか僕に目を付けて、僕を「オメガとして通用するベータ」として利用する為に声を掛けて来た……

きっと、僕が本当はオメガだってどこかで気付いたんだ。
気付いていて、敢えて「オメガとして自分の側妃になれ」と命令したんだ。

その頃から、僕はギル殿下のいう事を聞かざるを得なくなった。
でも、最初は嫌々だったはずが、ギル殿下の計画や胸の内を聞いているうちに、僕は少しずつ殿下の事を……。


なのに。
ギル殿下の心は、いきなりパッセルに持っていかれてしまったんだ。


あの頃はこう言ってた。

『正室にパッセルを据え、あれの遺伝子で魔力が豊富な子を作る』

『その上で、その子はお前が産んだ事にする。
 そして奴はやはりアルファだったと公表する。
 そうすれば、バース性を騙った罪で領主派筆頭のモンタルヌス家の勢いを削ぐ事ができる。
 パッセル自身も罪を負い、求心力を失う』

魔力量とバース性は関係しない。
だからその子がオメガだとしても構わない。
魔力が多くて賢い子ならそれでいい。
そしてその子を、次の次の王にする。
自分は王の父親として、後見人に……。

ギル殿下の中には策略しか無かった。
それでも……

『持って生まれる才が飛びぬけているだけでは駄目だ。
 それを最大限まで引き出し、誰よりも優れた人間を作る……お前にも手伝ってもらう事は多い。
 まずは、優秀な成績だな』

そう言って、僕に勉強を教えてくれて……

なのに。

「高等部へ行ったら『忙しくて時間が取れない』って、そればっかり」

僕は今でも、必死で勉強してるよ。
だってそうすれば、成績優秀者として名前が発表されるから。

そしたら、ギル殿下は嫌でも僕を思い出すでしょ?

あの時、あの計画を語り尽くした相手の事を、ね。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

処理中です...