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最後の学園生活
一方その頃、王宮では 2
しおりを挟む今日も今日とて、エバ王子は母上の見舞いに行くと言って離宮へ足を運ぶ。
「まさか、こういう事にも役立つとは」
「今までの行いも大事ですね」
今までも、エバ王子は何かと離宮へ行く事が多かった。
毎日見舞いに行っていた時期もある。
だから、こうして「今日も今日とて」離宮へ向かおうが誰も気にしないのだ。
「父もすでに母上への興味を失っている。
あれほど人を甚振るのにご執心だったのにな」
エバ王子は、父親の変化に気が付いていた。
だが、母が苦痛から逃れられる事の方がそれよりずっと大事だった。
だから知らないふりをしてきたけれど……
「もしかしたら、番解消の効果なのかもしれないな」
「だとしたら画期的ですね」
「ああ」
だが、おそらくそういう事ではないのだ。
誰かが王に……、そう考える方が自然。
愛人だって、望んでやってきた者ばかりではない……
「卒業まで何も無ければ良いが」
「そうですね、去年は大変でしたから」
そう、去年は色々あった。
地震に魔物に、ダンジョンに……
急に認められた「婚約解消」と「婚約」。
「式の用意も、そろそろ始めないと」
「ああ、俺たちと……フェリスたちのも、な」
「ふふっ、お二人が驚く顔が楽しみです!」
みんなに内緒にしてねって言っておかないと!とオヴィスは楽しそうに話す。
そんな二人を微笑ましく見つめながら、近衛騎士は離宮への扉を開いた……。
***
「……意外と誰も気づかんものだな」
「ええ、最初あれほど緊張しておりましたのに……ね?アラウダ様」
「そうですよ、ウルサなんて性別まで違うのに」
シルウェストリス公はあらゆる予防措置を行い、不審がられない程度に人を遠ざけた。
それは、気が付かなかった事を咎められる者がなるべく出ない様にとの意味でもあった。
だから王妃に最も長く仕えて来た侍従たちから順に、紹介状が配られた。
表向きは、離宮に割く予算が無いという理由でもって。
「それに、髪の色さえ一緒ならいけるというのも本当でした」
「言われてみれば、使用人の作法ですものね」
シルウェストリス公は、適当ぶっこいていたわけではないのだ。
使用人は主人の目を見てはならない、という作法が王宮内では徹底されている事をふまえた上で、そうぶっこいていたのである。
「勝てませんねぇ」
「ああ、恐ろしい御仁だ」
自分には勝てない人間がどれだけいるのだろう。
エバ王子はそう考えて、少しばかり気が遠くなった。
「……そろそろ、本題に入ろう」
「そうですわね」
ここに来たのは、1年後に行われる世代交代について話し合うためだ。
誰がどの地位に就くのか、はたまた誰を残して誰を入れるのか……。
「……困るのは、シルウェストリス公の位置だな」
「残って頂く訳にはいかないんですか?」
「もう疲れた、田舎に引っ込んでのんびり暮らしたい……と仰せだからな」
一番権力を持った人間が、残りたくないと王宮を去る選択をしているのだ。
そうなると、代わりたい人間がボコボコ湧いて出るのは想像に難くない。
だが、そっくりそのまま入れ替われる人間など存在しない。
何度も言うが、シルウェストリス公ほど
①数字に強く
②斬新なアイデアを持ち
③交渉事に長け
④地味に相当な魔法使いであり
⑤相応の地位がある
人間などいないのだ。
ほぼほぼチートな生き物なのである。
「引き留めるのも、2~3年が限界だぞ」
「すでにご長男への引継ぎは終わっているとの噂ですし」
「それは領地の話だろ?」
「いえ、それが……ご長男も宮廷を辞して、領地経営だけに専念されたいとか」
「何だと!?」
「仕事ばかりで家族の時間が無い、自由な時間が無い、うんざりだと」
「まさか、彼もだとは……」
一番大事な「国庫の管理者」のトップが、まさかの空席。
せめて後任を誰にするか決めてから去ってくれ、と頼んではいるが……。
「しかし、あれだけ権力をお持ちなのに、どうして固執されないんでしょうね」
そう、普通は国の実権を握ったら、王に成り代わろうとしたっておかしくない。
そして好き勝手に権力を振るって贅沢三昧……するほど、アルバトルスは豊かでは無いのだ。
それを一番知っているのは……。
「よっぽどお疲れなのでしょうか……」
「あ!もしかして、フェリス様に付いて行く気だったりして」
「いやいやオヴィス殿、そんなわけが」
「……いや、在り得る」
「「 えっ 」」
「『田舎』に引っ込みたい……
その田舎が西の辺境である可能性は、ある」
毎日仕事で忙しい。
だけどお金は充分ある。
だったら仕事を辞めて、田舎でスローライフ!
それは前世でいうところのFIRE。
所謂「経済的自立」と「早期リタイア」。
働き過ぎた人々の、夢……。
やはりシルウェストリス公には、この世界ではない世界の記憶があるのかもしれない。
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