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最後の学園生活
パッセルとリュノのデート 1
しおりを挟むパッセル、フェリス、オヴィスの3年生オメガ組が教室から出て伸びをする。
「どう、パッセル、手ごたえは?」
「今回はそこそこ出来たような気がします……
綴りに自信が無いところも、いくつかはありますが」
「今までのパッセルさんの誤答って、ほぼそれですもんね」
試験の日程は、全て終了した。
泣いても笑っても……。
と、そんな話をしていると、廊下の向こうから、同じく試験を終えたリュノ王子を先頭にエバ王子・アラウダの3年生アルファ組がやってきた。
「パッセル!そっちも終わったか」
「あ、リュノ殿下」
「エバ様、お疲れ様です!アラウダ様も」
「ああ、そっちもお疲れ様」
そんな感じでエバ王子とオヴィスが言葉を少し交わしている間に、リュノ王子はするりと移動し、パッセルの腰に手を回して言った。
「ではパッセル、行こうか」
「かしこまりました、リュノ殿下」
「どうして急に『殿下』なんて言うんだい?」
「ここが公的な場所だからですね」
「では今すぐに『殿下』と言わなくて済む場所へ行こう」
リュノ王子はパッセルを急かすように、少々強引に彼をその場から引き離して歩き出す……
その後ろ姿を見ながら、残された4人は小さな声で報告し合う。
「……皆、外国語は」
「大丈夫です」
「ええ、不審がられない程度に」
「……僕も、一応」
この学園で、赤点は平均点の半分以下の点数だった場合に付くものだ。
だから、平均点が低ければパッセルの点数が悪くても何とかなる……
結局エバ王子は、最終手段を使った。
いつもより10~20点程低めの点数が付くように調整してくれと、他の3人に頼んだのだ……
「ここまでしたんだから、赤点だけは回避しててくれよ……パッセル」
***
その頃リュノとパッセルの2人は、馬車に揺られて王都の中心部へ来ていた。
「腹が減っただろ?
美味い飯屋があるんだ」
「それは楽しみです」
リュノはパッセルと手を繋ぎ、通りを歩いて定食屋へ入った。
少々混みあった店内だが、運よく2人分の席が空いていたのでそこへ座った。
店員が持ってきたメニューは1冊で、二人はそれをくっついて眺める……
「高級店じゃないが、ドレスコードが無いから気楽で良いと思ってな」
「そうですね、私もこういう場所の方が好きです」
自慢ではないが、パッセル高級店の味を知っている。会合の為に用意されるのは、大抵そういう場所だからだ。
それに、学園の食堂だって高級店仕様だ。
貴族の子女が通うのだから当然である。
折角だから、今日はそこにない料理を食べたい……
パッセルの心は、決まった。
「注文は?」
「ええ、唐揚げ定食にします」
「そうか、じゃあ俺はオムライスグラタンセットにしよう」
リュノが片手を上げて店員を呼び、注文を伝える。
厨房から威勢のいい声が聞こえ、調理が始まる。
二人で他愛のない話をしていると、料理が運ばれてくる……
「しかしまた、オムライスグラタンとは変わったメニューですな」
「良ければ一口食べてみるか?」
「ええ、是非」
そうして「あーん」する権利を手に入れたリュノは堂々とそれを行使し、パッセルは真っ赤になりながらもそれに付き合う……
「ではお返しに、唐揚げを一つどうぞ」
「良いのか?随分と大きいから、もう一口オムライスグラタンを」
「いえ結構です」
「遠慮しなくていい、ほら」
そうして仲良く(?)昼食を食べながら、パッセルは気づく。
この店にいるのは、全員商業組合員だ……
つまり、この席は運よく空いていたのではなく、空けられていたのだ。
「……どうやって、丸め込んだんだか」
「大した事はしていないよ。
ほんの少し応援して欲しいと言っただけだ。
少しだけ、変わった石の話をしてね」
「ああ、なるほど……
まあ別に隠しているわけでもありませんからね」
今現在、ダンジョンの存在は積極的に伝えられてはいないものの、隠せという命令も出ていない。
ただ、防衛手段を持たない人々がうっかり近づかないように、厳重に警戒はしているが。
「まだ使い道が無いものですから、今は二束三文でしょうが……研究は進んでいますしね」
「それには絡んでいないのか?」
「正直言って時間がありません。
大体、私より頭の良い方は何人でもいらっしゃるのですから、そっちでやって頂く方が早いでしょう」
変わった石…推定:魔石は、魔力が詰まった石だ。
含有魔力量は大きさと比例しており、使うには魔法の理論を理解している必要がある……
今のところパッセルが知る情報としてはそれだけだ。
「出来れば使い道が出来てから、売り出したいところですがね」
「『出来れば』、な」
パッセルとリュノのそんな会話に、この店へ集まっている人々は静かに耳を傾け……
応援の見返りを手に入れようとしていた。
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