話が違う2人

紫蘇

文字の大きさ
209 / 292
最後の学園生活

再会と報告と

しおりを挟む
 
「……という事で、西の辺境から来た魔物なのか、北の辺境領にダンジョンがあるのか、まだ定かではない」
「分かりました、では後はメジロに」
「ああ、彼の鼻に期待しよう」

ギル王子の報告によれば、西の辺境領との境目を少し過ぎたあたりでダンジョン産魔物が出ているとの事だ。

ただ、ダンジョン産魔物が地上で繁殖していた前例もあり、ダンジョンからなのか西から来たのがその辺りで繁殖を始めたのかは定かでない、との事。

「北の辺境にも、ダンジョン産魔物がいるという事には変わりがないのですね」
「ああ、その通りだ。
 ダンジョン産魔物との戦い方は、通常の魔物との戦い方とは異なる。
 魔法が使える人間はいるか?」
「ええ、一部の騎士は魔法が使えます。
 昨年クレイド殿から魔法剣の指導をして貰いましてね」
「それは心強い、あとは腕の良い治癒師もだな」

ダンジョンに夢を持つ北の辺境伯は、頭の中で早速派遣する人間の選定を始めた。
あいつとあいつと……

「と、いうわけでリュノ殿、パッセル、後は頼めるか」
「ああ、任されよう」
「御意に」
「すまんが、先に休ませて貰えるか?
 頭の先から足の先まで、埃まみれでな」
「かしこまりました、殿下」

ギル王子はそう言って、案内係と客間へ行ってしまった。

「あ……」

ラディアはそれを見て、小さな声を上げた。
それを聞いたパッセルはすぐさま指示を出した。

「ラディア、ここまでの行程について報告書をまとめなさい。ギル殿下がご休憩を終えられたら、すぐに提出できるように」
「えっ」

それから、少し遠くにいた案内係に大きな声で話しかける。

「すみません。
 お手数になりますが、弟子を部屋まで案内して頂けませんか。
 私はまだ打ち合わせがありますから、後ほど参りますので」
「あ、はい!」

「弟子」という言葉で、全員がラディアに注目する。
あれが弟子か、大したことはなさそうだが、これから伸びるとの見立てか、等々の囁きが起きる。

ラディアにはまだ、分からない。
パッセルが自分を「弟子」と呼ぶ事で一体何が起きているのか……。


***


ラディアがいなくなってから、北の辺境伯はパッセルに問うた。

「あの頼りなさそうなのが、弟子なのか?」
「ええ、今のところは魔法だけ、ですが」
「体術や交渉術は」
「先に得意な部分を伸ばして自信を付けなければ、どれも中途半端になるだけでしょう」
「ふむ、なるほどな」

北の辺境伯は、パッセルの言葉に頷いて同意した。

「それで、どのぐらい伸びた?」
「少しずつですが魔力量も増え、命中率も上がっています。
 詠唱の方も、自分のやり方が身について来始めたところですが……
 私と違って成績優秀で真面目な子ですから、今後もっと伸びるでしょう」

本人のいないところでラディアを褒めるパッセル。
北の辺境伯は大きな発言力を持った貴族だ。
彼に良い印象を持たせられれば、ラディアの恋が成就する可能性も多少は上げられる。

「ほう、そうか」

辺境伯は深く頷き、パッセルの目を見た。
そして……

「ところで、パッセル。
 もう数人、弟子を増やす予定は無いか」
「……は?」

とんでもない事を言い始めた。
あまりに突然の申し出に、パッセルは目を見開く。

「なに、カヌス領での魔法使いの活躍を聞いてな。
 うちの騎士団にも魔法使いが何人か欲しいんだ。
 取り敢えず魔法が出せる人間を集めたが、魔法を教えるとなると難しくてな……」
「私だって、教えるのは得意じゃありませんが」

パッセルは申し出を断るべく、そう発言するが……それはあまりにも謙遜が過ぎた。
いよいよ周りがどう言って良いか悩んで黙る。

「頼む、学園へ帰るまでの間でいいから、な?」
「いきなり長すぎませんか!?」
「そうだ、あまりにも突然すぎるぞ辺境伯殿!」

ようやくリュノ王子が辺境伯に物申した。
だが挨拶を忘れ去ったぐらいに、辺境伯にとってリュノの発言などどうでも良かった。
要はパッセルさえ頷けばいい!

「ラディアの横へ付けておくだけでもいい。
 勝手に学んで帰ってくる、それでどうだ」
「面倒を見る人間が増えるだけじゃないですか!」

パッセルも抵抗する。
だが、北の辺境伯は東の辺境伯よりも粘り腰だ。
理由は簡単で、東より余裕がないからである。
冬は寒い。冬は雪が積もる。冬は……

誰も、来てはくれない。

「大丈夫、うちの騎士をちゃんとつけるから」
「そういう問題ですか」
「そういう問題だろう」


……


結局押し問答の結果、同行者が数人増える事になってしまった。

「……何でこんな事に」
「パッセルが悪い」
「何でですか!!」

二人の時間がさらに減りそうな予感に、リュノはただため息をついた。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...