20 / 22
恋する旦那様
【旦那様】謎多き男
屋敷に戻り、出迎えてくれた皆の顔を見て気がついた。
「ベリタス、トマスは?」
「トマス殿はディータ殿やジェリド殿と一緒に、視察へ行っておられます」
「なにっ、もうそんな時期か」
「はい、そんな時期でございます」
いい笑顔でそう答えるベリタス。
「今年はきちんと期日通りに国庫に納める分の税金をお支払いしましたでしょう?」
「ああ」
「それで、例年より我が領で使える額の確定が早かったのです」
「それで出たのか?」
「ええ、これでようやく、他家と足並みが揃いました」
……確かに、本来ならそうあるべきだ。
畑に種を播く前である今の時期に視察に出るほうが、村の者への負担が少ない。
「……そうだな」
今までが異常だったのだ。
もう100年近く異常が続いていたから、異常と思わなくなっていただけなのだ。
罰金は当たり前に支払うものだったし、その為の魔物狩りも完全に恒例行事だ。
実によろしくない。
「……戻りはいつ頃になりそうだ?」
「あとひと月ほどかと」
「予定視察ルートは?」
「執務室にございます」
「……ウェラー、取「ご自分でどうぞ」」
「ベリタ「ご自分でどうぞ?」」
うぬぬ……こいつら、俺をどうしても執務室へ行かせたいようだな。
そうはいくか。
俺は今すぐにトマスを追わねばならんのだ。
「では、だれか「……」」
「おい、「……」「……」「……」」
くそっ、なぜ誰も目を合わせん!
そんなに俺をあの部屋に閉じ込めたいのか!?
「旦那様、まずはお着替えを。
湯浴みの準備も出来ております」
「待てベリタス、俺は!」
「何です、坊 ちゃ ま」
「……」
俺は屋敷に引き込もうとするベリタスの笑顔に勝てず、仕方なく、本当に仕方なく、屋敷の中へ入る事にした。
***
風呂に入り着替えを済ませ、仕方なく執務室へ向かう。
正直、この部屋は好きではない。
気分が鬱々とする。
「……ベリタス、書類は」
「はい、こちらに」
大きなトレイに書類の束が乗せられている。
思ったより少ないような気がする。
なぜだろう。
「急ぎのものから順番になっております」
「ほう、気が利くな」
「ええ、トマス殿が並べてくださいました」
「……そうか」
最初の一枚を取る。
そこに付いた小さなメモを見るに、これはラニ村とルエ村を繋ぐ街道の修繕を願い出る書類……
「この……メモ、は?」
「それもトマス殿が」
「……そうか」
美しく読みやすい字だ。
こうして事前に内容が簡単に分かっていれば、中身を読むのも楽だな。
ふむ……
「少し金がいるな?」
「はい、現在こうした修繕等を求めるものが大きいもので3件、小さいもので21件あります」
「そんなにか?」
「ええ、それで修繕見積もりのまとめがこちらです。
そして本年度公共工事予算の概算がこちらに」
「実によくまとまってるな」
「ええ、今年は事務方に余裕がありますから」
そうか、税金の事が早く終わったから、こういう暇もあるのか。
ディータもジェリドも、いつもより字が丁寧で読みやすいな。
「トマスが来て良い事づくしだな」
「ええ、本当に!
自分の仕事が早く終わった時には、進んで忙しい者を手伝ってくれたりもしています」
「ほう」
自分の仕事が暇ならサボっても良いのに……
真面目なやつだ。
ますます気に入った。
「ええ、しかもですよ。
どの仕事も器用にこなしているのです。
間違いなくスキル持ちです……何度聞いても、本人は言いたがりませんが」
「何っ!?」
何をしているんだベリタス!
そんな居心地が悪くなるようなことをして、それでトマスが辞めたらどうするつもりだ!?
「……余計な事をするな、ベリタス」
「ふふ、かしこまりました坊ちゃま」
まったく、何をニヤニヤしているんだ。
お前のせいでトマスがいなくなったら……
「ところで、トマス殿は当家のジャガイモ料理を大変気に入っているようです」
「……それは良かった」
ジャガイモがお気に入りとは、なんとも素朴で可愛らしいじゃないか。
後で料理長を褒めてやらねばな。
……優秀な人材を繋ぎとめるのに貢献した、と。
「それから、魔法についてですが。
全ての属性を中級まで使えるらしいです」
「何だって!?」
魔法が使える、と言う事は、もしかして治癒魔法も多少使えるのか?
だったら魔物狩りにも同行して貰えるように、俺がこの手で必ず守ると約束すれば……
いや、するべきだ、うん。
「それから、これは私の勘ですが……。
彼は領地経営の経験があるのではないか、と」
「はぁ!?」
ちょっと待て。
そうなるとトマスの正体は……
「もしかしたら、どこかの家の使用人ではなく、どこかの家の当主だった……?」
「可能性はあります」
フィッツラルドには、継承権争いに巻き込まれて家を無くした貴族が大勢いる。
ならば余計に話を聞かねばならん。
さっさと書類を片付けて、トマスを追わねば。
そして彼に、もう俺の前では自分を偽らなくて良いと言わねば。
「……陛下にもフィッツラルドにも、トマスの存在は隠しておかねばならんな」
「左様にございますね」
トマスが新しいフィッツラルド王と敵対していたのだとしたら、友好のために彼を放逐しろと言われるかもしれん。
まあ、いざとなったら名前を変えさせて……
ふむ。
「リューレイ……は、どうだろう」
「いきなり何です坊ちゃま」
「トマスの新しい名前だ。
美しい銀髪を表すのに、相応しい響きだろう」
「変な事言っていないで仕事してください」
「むっ……」
何を言う、大事な事じゃないか!
だが、まあ、いまは仕方がない。
仕事をしよう……。
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【8話完結】勇者の「便利な恋人」を辞めます。~世界を救うより、自分の幸せを守ることにしました~
キノア9g
BL
「君は便利だ」と笑った勇者を捨てたら、彼は全てを失い、私は伝説の魔導師へ。
あらすじ
勇者パーティーの万能魔術師・エリアスには、秘密があった。
それは、勇者ガウルの恋人でありながら、家事・雑用・魔力供給係として「便利な道具」のように扱われていること。
「お前は後ろで魔法撃ってるだけで楽だよな」
「俺のコンディション管理がお前の役目だろ?」
無神経な言葉と、徹夜で装備を直し自らの生命力を削って結界を維持する日々に疲れ果てたエリアスは、ある日ついに愛想を尽かして書き置きを残す。
『辞めます』
エリアスが去った翌日から、勇者パーティーは地獄に落ちた。
不味い飯、腐るアイテム、機能しない防御。
一方、エリアスは隣国の公爵に見初められ、国宝級の魔導師として華麗に転身し、正当な評価と敬意を与えられていた。
これは、自分の価値に気づいた受けが幸せになり、全てを失った攻めがプライドも聖剣も捨てて「狂犬」のような執着を見せるまでの、再構築の物語。
【勇者×魔導師/クズ勇者の転落劇】
※攻めへのざまぁ要素(曇らせ)がメインの作品です。
※糖度低め/精神的充足度高め
※最後の最後に、攻めは受けの忠実な「番犬」になります。
全8話。
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
※長くなりそうでしたら長編へ変更します。
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。