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恋する旦那様
【旦那様】行き違い……?
トマスを追いかけてみたが、結局ベス村まで行ってもトマスはいなかった。
「くそ、どういうことだ……」
仕方なくナコ村に戻り宿へ行ってみると、トマスはすでに戻ってきていて目を休めているところだという。
「羊は数えにくいですからねぇ」
「……ジェリド、貴様」
「でも、旦那様の聞きたい事は聞いておきましたよ」
「俺はお前からでなく、トマスから直接話を聞きたいんだが」
「……じゃあ、部屋に行ってみます?」
「当然だ」
そうしてトマスの部屋へ行くと、彼は目の上に温かいタオルを乗せて眠っていた。
「疲れてるんですよ、休ませてやってください」
「……そうか、なら仕方ないな」
近付いて、顔を見る。
目は隠れているが、美しい造形をしているのが分かる。
それと、まだ少し痩せ気味なのも。
「頑張っているんだな、トマス」
仕方ない、話はジェリドから聞こう。
俺は何となくトマスの頭を撫でて、痩せ気味の頬に触る。
トマスがぴくり、と動いたので、これ以上休息の邪魔をするのも良くないと部屋を出る。
「旦那様、まさかとは思いますけど、トマスの事が気に入ったんですか?」
「……は?」
「いや、何でも無いです」
ジェリドの戯言に少し苛立つ。
これは気に入ったとかそういう事ではない。
頑張っているから労っただけだ。
気に入ったかどうかではない。
頭を撫でてやりたくなったから撫でただけだ。
頑張ってるから。
頬を触ったのは、痩せているなぁと思っただけだ。
それだけだ。
決して肌に触れたくなったからとかではない。
やましい事も下心も無い。
あるわけがない!
大体、着任の挨拶の時に見たのと、王都へ行く前に食堂で見かけたのと、そのぐらいしか顔も見ていないし、その、書類では色々と心を砕いてくれた事にはとても感動した。けど!それだけだ。決して何も無い。まず気に入るほどの接点がないだろうが。
まったく!!
「……頭の形まで、綺麗だった」
「はい?」
「何でもない」
サラサラとした髪の感触が、手に残っている気がする……
「何で手の匂い嗅いでんすか」
「あん!?」
「いや、なんでもないっす~」
匂いなど嗅いでない。
断じて嗅いでない。
サラサラだったなと思っただけだ。
サラサラだったな、って!!
「それで、トマスから何を聞いたって?」
「ああ、えっとですね、フィッツラルドの状況と、シルヴァ公爵家の事っす」
「では俺の部屋で聞こう」
「はい、それはもう」
俺はジェリドを伴って部屋に急ぐ。
「そう言えば、ディータは?」
「村長のところです。
困り事や不安は無いか、聞き取りに」
「そうか、それも後で聞かねばな」
ちゃんと仕事をしているようで何よりだ。
まあ、別にその、疑っていたわけではないがな。
***
「って事で、向こうの政情が安定するのにはまだまだ時間がかかりそう、とのことです」
「……なるほどな」
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「それは……憚られるな」
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もしや喧嘩を売っているんじゃ……
いや、それならさっき聞いたフィッツラルドの話と違って来るな。
どういうことだ?
「だから、そんなところから来る嫁の事は忘れた方がいいんじゃないかと」
「トマスがそう言ったのか?」
「ええ、そうです」
先のフィッツラルドの話からも分かるが、トマスは母国を愛している。
彼がフィッツラルドの不利になるような事を言わない、とするなら、だ。
その娘を俺に嫁がせる事は、ガルディオラの手によるものだったのかもしれん。
「ふむ……」
ならばその身代わりであるご長男も、無事に着いていて良さそうなものだが……
いや、ご長男になったからこそ……か。
「ふむ……前当主のご長男については?」
「えっ、いや、それは全然」
「……そうか、分からんか」
これは殆ど人前に姿を見せなかった、という陛下の話とも一致する……が、困ったな。
「外見の情報が無いのでは、探し様がないな」
「え、探しに行くつもりだったんですか?」
「そうだ、もしどこかで足止めされているのなら助けなければならんし、来る途中で亡くなったというなら亡骸を弔って差し上げねばならんだろう」
「確かに……そうですよね」
仕方ない、明日の朝トマスにもう一度聞いてみて、それから屋敷へ戻ろう。
もしかしたら許可が下りているかもしれんしな。
「……さて、ではそろそろ飯にするか」
「そうしましょう、もうすぐディータも帰ってきますしね」
「ふむ……そういえばトマスの飯は?」
「ああ、後で部屋に持っていきます」
「なら俺が持っていこう、起きていれば話も聞けるしな」
「えっ」
なんだその顔は。
俺はいち早く情報が欲しいだけだ。
余計な勘ぐりをするんじゃない!!
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