旦那様には気付かれたくない!

紫蘇

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恋する旦那様

いきなりの訪問

 
「これ、なかなかいい作戦だったかも」

 僕はすっかり冷えたタオルを目の上からどけて、体を起こした。

「こうして目隠しをしておけば、うっかり目を合わせちゃうこともないもんな」

 この作戦を考えてくれたのはディータさんだった。
 こうしておけば、部屋に旦那様が訪ねてくる事になっても安心だ、って。

「……でも、ちょっとドキッとしたな」

 いきなり旦那様に頭を撫でられて、そのうえ頬を撫でられたもんだから、もう少しで飛び起きるところだった。

「……大きい手だったな」

 旦那様の手は少し荒れてて、がさがさしてた。
 働く男の手だなと思った。
 あの手でブンデビルド領を、ひいてはウィアグランド王国を守っているんだ。
 かっこいいな。

「……立派な、剣だこがあったな」

 一方、僕の手にはペンだこがある。
 剣で誰かを守った事はない。
 それでも、自分の力で公爵家をぎりぎりまで守ってきた自負はある。

 そして、シルヴァ公爵家最後の当主として、僕がいなくなった後はフィッツラルドの地とフィッツラルドの民を愛する人々に領地をお渡しできるよう、きっちりと仕組んだ。

 借金の抵当、という形で、先祖代々付き合いのある家の皆様に領地の事を頼んだのだ。

 シルヴァ領で最も大きな街は、商会の組合が自治できるように。
 農地は、自前で軍を持てるほどに周囲からの信頼が厚い領主の方々へ。

 土地の事は全て引継ぎ済みだ。

 金を使うしか能がない叔父に、砂粒ひとつ、髪の毛一本もやりたくなかったからね。

「奴らの思い通りになんか、させるもんか」

 あーあ。
 僕が復讐計画を着々と進めてたなんて、あいつらは知らないだろうな。
 ずっと従順なふりをしてやっていたからね。

 ま、たかが子どもだと思ってただろうけど?
 公爵家に生まれ育ってるんだから、このぐらいの事は出来るのさ。

 両親が狙われている事も知ってたしね。
 父さんたちも、自分たちがいつ死んでもいいようにって、僕に早くから公爵家当主としての教育をつけてくれてたんだよね。

 最悪の事態に備える事ぐらい出来なきゃ、公爵とは呼べないでしょ!

「今頃どうなってるのかな~、あいつら」

 破産して、屋敷も宝石もドレスもぜーんぶ差し押さえられて、路頭に迷ってる頃かな。
 僕を手籠めにしようとした使用人も、全員路頭に迷ってるといいな。

 ……僕に良くしてくれた人たちに宛てた紹介状は、ちゃんと届いてるかな。
 人づてに郵便で出したから、ちょっと不安……


 ん?
 ノックの音?

「トマス、飯を持って来た。入るぞ」

 ……この声、まさか……

「旦那様?」

 え、やばいやばいやばい!
 寝たふり再開!!


 ***


 サイドテーブルに、お盆が置かれる音がする。
 旦那様が僕に近づく。

「……まだ寝てるのか、トマス」

 顔を覗き込もうとする気配に、僕は寝たふりどころじゃなくなって、今起きましたという演技をしながら言う。

「ぅ、ん……誰……?」
「俺だ、ワイルダーだ」
「え……旦那様……!?」

 僕は体を起こす。
 目の上に置いたタオルが落ちないように、そっと。

「すみません、まだ目が痛みますので、差し支えなければこのままで宜しいでしょうか」
「ああ、構わん」

 旦那様の優しさにつけこむ作戦は、うまくいったようだ。
 利用するみたいで申し訳ない……
 けど僕だって目を見られるわけにはいかない。

「お心遣い、有難うございます」

 僕は目隠しのタオルを手で押さえたまま、お礼を言う。
 すると椅子がカリカリと動く音がして、ベットの脇に旦那様が座る気配を感じる。

「……飯はどうする」
「後で頂きます」
「良かったら介助しよう」

 旦那様がサイドテーブルを引き寄せる音。
 僕はいくらなんでもと焦る。

「……お前には随分世話になっている。
 お前が書類を重要なものから並べ、内容を要約したメモをつけておいてくれたから、仕事がかつて無い早さで終わった。
 日頃屋敷でも、手の足りない場所を手伝ってくれているのだろう?
 この程度の世話で借りを返せるとは思わんが、やらせてくれ」
「じゃ、じゃあ……」

 なんか断れない雰囲気に、僕は緊張しながら旦那様が口元へスプーンを運んでくれるのを待つ。

「……口を開けろ、トマス」
「はい……」

 うう、仮病なのに申し訳ない。
 ……でも、スープは美味しい。
 ブンデビルドはどこへ行っても料理が美味しい。
 不思議だ。

「ほら、もう一口」
「あ、あー……」

 うう、緊張する。
 でもタオルを外して自分で食べるわけにも……

「美味いか」
「美味しいです」

 あ~も~、ど~しよ~!


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