先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

地区予選のスタート

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朝のジョギングを終えて貰ったサンドイッチを片手に職員の更衣室へ行った高原先生は、突然バスケ部の顧問から話しかけられた。

「高原先生、折り入ってご相談があるのですが…」
「相談…?」

何の事だろう?
もしかして、金曜日のアレかな…やっぱり黙認ってわけにはいかないよな、と高原先生は予想したが、バスケ部の顧問からの科白は意外なものだった。

「来週土曜日から地区予選がありましてね、是非とも応援に来て頂けないかと…ご都合は?」
「えっと…商店街の方と、夜9時から会合をする約束がありまして…」
「会合?何のです?」
「盆踊りの打ち合わせです」
「盆踊り?…ああ、最近、忙しくない部活に入っている子たちが騒いでる…あれですか?」
「そうです、あれです」

盆踊りの手伝いの話はいつの間にか、野球部から特段これといって大会などに出ない文化部の生徒たちに伝播し、みんなで夏の思い出を作ろう!なんて盛り上がってしまっていた。

当然、学校側もこれには待ったをかけたが…。

この学校には文化祭も体育祭もない。
野球部以外の運動部は地区予選や全国大会で忙しく、大会に出る吹奏楽部やダンス部の大会前の通し練習を兼ねた公演会はあるが、それ以外の子たちは会場の設営をする程度だ。

そんなだから、保護者たちから「うちの子にも高校生らしい夏の思い出を作ってあげて欲しい」との要望が上がり、結果「盆踊り委員会」なるものが結成され、いつの間にか学校側の責任者の枠に高原先生が収まってしまった。
もう高校ともなるとPTAなど存在しない。
地域との連携は、学校がやる以外にないのだ。

「代わりの方はいらっしゃらないんですか?」
「そうですね…いませんね」

ここで急に代役など立てたら混乱するに決まっている。

「生徒だけに頼むのも…夜遅くなりそうですし…」

そもそも何人か来る予定はあるのだが…
その保護者代わりが自分なのだ。
親御さんにはそう説明して許可を貰っている。

「そうですか…困りましたね」

何で困るんだろう?

「うちの川田がね、来てほしいって言うんで…」
「川田君が?」

川田君が嫌いなわけではないが、贔屓になってしまうのは問題じゃないか…と高原先生が思ったところへ、バスケ部の顧問がたたみ掛ける。

「他に、特別授業でお世話になってる子や…金曜日にお世話頂いてる先祖がえりの子たちも、来てほしいみたいでして」
「えっ…あ、う~ん、でも…うーん」

バスケ部の顧問は、もうひと押しする。

「…会合は、夜9時にどこでやるんです?」
「商店街の中華料理屋さんの2階です」
「分かりました、では、その時間までにはそちらへお送りしますので」
「ふえっ!?あ、いや、そこまで!?」
「今年は全国大会へ行けそうなんです、頼みます」
「う~~~ん…分かりました」

結果、押し負ける高原先生。

これを切っ掛けに、各部の地区予選行脚が始まってしまうとも知らずに…。


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