先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

盆踊りと陸上部地区予選

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「この2日間は盆踊りなので、すみませんが大会には行けません」

その言葉に、陸上部の顧問はがっくりした。
なんとか山本…先祖返りのガゼルの子の応援に来てもらいたかったのだが、盆踊りの責任者でもある高原先生にこれ以上の無理強いはできない。
そのかわり、出発前に激励に来てもらうことで納めるしか無かった。

「良かったら、試合終わりに商店街へ寄ってください」

と高原先生は言うが、その盆踊りさえ無ければ大会に高原先生を呼べたはずだ。
そんな苦々しいものに参加するつもりは毛頭ないが、山本の状態によっては連れて行かざるを得ないだろう。

あの話し合いの後、陸上部の顧問は、金曜日の夜に行われている「カウンセリング」について調べた。
彼らは、高原先生の血をなめることで魔素を補給していたのだ。
高原先生の兄は高名な魔導士だそうで、本人には魔導士の素養はないが血に魔素が含まれているらしい。

もちろん、つかんだのはそれだけではない。
サッカー部の先祖返り…獅子型獣人の樫原と高原先生の特別な関係も、である。
獣人の尻尾を触ることの意味が分からないものはいない。
その尻尾に頬を撫でられながら彼は彼で頭をなでているのだから、間違いなく禁断の関係とみていい。

これをネタに脅してでも…と思ったが…
サッカー部の顧問にそれとなく聞いてみたら、高原先生には辛い過去があるようで、あまりそういうことをしないほうが無難だと言われた。
「樫原が高原先生とお付き合いしてようが全然構いませんよ?むしろパフォーマンスも上がってますし、何ならこのまま関係が続いてくれればと思ってます」とはサッカー部の部長の言葉だ。

魔素補給剤は高価だ。
地区予選程度の大会で手を出せる価格ではない。
それを週に1回も「善意で」手に入れているのと同じだから、誰も咎めだてしない。
それどころか、樫原が卒業して抜けた後の「後任」として、バスケ部の川田の名前が挙がっているくらいだ。
川田は、樫原の次に高原先生に近い生徒だと認識されている。

「山本と二人で何が違うんだ……あっ」

獅子と虎、どちらも猫科だ。
つまり、高原先生は猫が好きなんじゃないか…

「寮で猫を飼おう!」



各部の来年度の予算に「猫を飼育するための諸経費」が組み込まれるようになるのは1か月後の話。



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