先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

サッカー部と一緒

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盆踊りが終わって暫く、高原先生は学校で資料を作ったり二学期の授業計画を練ったりする合間に地区予選行脚をしていた。
大体の部活の地区予選は終わって、応援に行った部は全て全国大会が決まり、陸上部の山本君も無事全国大会への切符を手に入れた。

残すはラグビー部とサッカー部。
全国大会が12月に開催されるこの二つは、夏休み後半から地区予選の大会がスタートする。
一日一試合しかできないスポーツなので、地区予選も長期戦だ。
かつての大災害で潰れた競技場も多く、試合ができる場所が少ないこともあって、トーナメント表はなかなか進まない…けれど、先生にとっては助かることもある。

「サッカー部の地区予選とラグビー部の地区予選の場所って、近いんだな~」

時間さえ被らなければ、2つとも応援することができる。
今日の地区予選は、午前がサッカー、午後がラグビー。何とかなりそうだ。

「野球部の地区予選と被らなくて良かった」

野球部の地区予選は春と秋だから、全国大会に進まない限り夏休みに遠征することはない。
弱小だからこそ、こうやって夏休みでも他の強豪部を応援できるのだ。

朝、学校からサッカー部のチャーターしたバスに乗せてもらうことになった。
さすが強豪部、2台もバスが来ている。
ラグビー部のと合わせると4台…なかなかの大所帯だ。
これだけバスがあると、どのバスに乗ればいいのかも分からなくなりそうだ。
高原先生がきょろきょろしていると、

「先生、こっちこっち」

窓から樫原君が声をかけてくれたので、素直にそれに従うことにした。
バスに乗り込むと、前の方に顧問と部長が乗っているのでその横の補助席を出そうとしたら、部長が「樫原の隣が空いていますので」と言ったのでそこへ座ることにした。
みんなが妙に目をそらすのが気になるけれど…。

「久しぶりだね先生」
「そうだね。みんな調子はどう?」

先生は周りの生徒にも話しかける。

「まあまあです…」
「それなりに、はい」

緊張してるのかな?
試合前にほぐれるといいんだけど…。

「大丈夫だよ!みんなたくさん練習してるもの。僕、職員室から時々見てるんだ。みんなあんなに走ってるのに疲れないの、すごいよね。僕にはそんなのできないから、尊敬してるんだ」
「は、はい」
「絶対勝てるよ!全国獲るって、大学生の人たちとも約束したもんね」
「は、はい」

後ろから樫原君が睨んでいることに先生は気づかない。

「頑張ってね、僕も頑張って応援するから」
「は、はい」

先生は生徒たちが試合前だから緊張しているんだな、と勘違いしたまま、地区予選の会場へ向かった。




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