先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

二学期は災害の季節

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今日は学校の避難訓練だ。

校内放送が流れる。

「災害発生の警報が流れました。到着まであと5分です。みなさん、シェルターへ避難してください」

以前は警報から30分だったのが、大災害以降5分に短縮された。
あの時は警報と同時に襲われた街もあり、5分なんて長い、という意見もある。

「1階の教室、全員避難しました」
「じゃあ1階のみなさんはシェルターを移動します、2階のみんなが降りてくる前に、早く」

「2階、半分避難しました」
「じゃあ今避難できている人は担任の先生に名前を言ってから移動してください」

この国の殆どの学校・公共施設は、地下にシェルターを備えている。
もちろん光輝高校にも地下シェルターはある。
シェルターは全校生徒及び全職員が避難できる数があり、それぞれは通路で繋がっていて、まるでアリの巣のようになっている。

学校で行われる避難訓練では、校内の様々な場所にある入口から通路を通って、最終的にはクラスごとにひとつずつのシェルターへ分かれられるように経路を確認するのが通常だ。


「小学校のとき、学校のシェルターで迷子になったことがあってさ」
「あ~、俺もあるわ」
「どこにいるか分かんなくなるのな~、地図読めないし」

大体の生徒が小学校あるあるとして「シェルター迷子」の経験を持っているし「大災害」を知っているので、ほぼ全員が真面目に取り組んでいる。

「私、あの時シェルター行くの間に合わなくて、お風呂の中に隠れたんだよね」
「怖かったよね…うち、父さんも母さんも仕事でいなかったから…」

大災害で親を失った子もいる。
樫原君もその一人。

「災害なんて、なんで起きるんだろうな」
「魔獣が出てくる理由がわからん」
「星のサイクルがそうなんだって言うけど、実際どうなんかな…」

魔獣は山や海などの自然豊かな場所から発生し、人間の住む街へやってくる。

都市伝説的な話では、
「自然豊かな場所には精霊が住んでおり、その精霊が「人間が増えすぎて住みづらくならないように」魔獣を召喚して人間を減らしているのだ」
……と語られているが、未だ真相は分からない。


「高齢者減らしのための政府の陰謀だ…とかさ」
「そんなんただのデマだろ?」
「本当だったら暴動起こるよな」

都市伝説があれば陰謀論もある。
実際に、災害で命を落とすのは圧倒的に40代以降の中高年が多い。

単純に大人が子どもを守ろうとした結果だと言われているが、しかし…。

つまり、データを見ればそう言えなくもない。
陰謀でないという証拠も無いのだ。
でも、だからといって……。

「俺らはシェルターに入らなくても死なない…
 ってことには、ならないんだよな」
「…そうだな、俺の友達も…死んじゃったし」
「うちは兄貴が…な、車いすだったから…」
「そもそも高齢者を減らす意味がわからんしな」

この国はそれほど高齢化していない。
年齢分布は美しいピラミッド型だ。

シェルター内にアナウンスが流れる。

「みなさん、無事に教室のシェルターへ着きましたでしょうか。
 担任の先生は、点呼をお願いします。
 全員が揃ったことが確認できたら、備蓄の食料・水を点検してください。
 トイレが使用できるかも確認してください。」

各教室で点呼が始まる。
アナウンスにあった通りに備蓄の確認、トイレの確認をし…

「今年も来なかったらいいのになあ」

そう誰かが言って、みんなが頷く。

「それでは各自、最寄りの出口から外へ出てください。
 この後は担任の先生の指導に従い、教室へと戻ってください」

あとは教室でグラウンドにいた場合の避難経路の確認、部活動時の避難経路の確認…それから、各部の寮での避難訓練が行われる。

「魔獣を倒せるのは魔導師だけ…ってのも、変だよな」

この世界には不思議なことが多い。
その不思議を解き明かすことができるのはいつだろうか…。


ただ、その不思議を解き明かしたところで、何の足しになるのかは分からないが。

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