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顔か声が良ければそれは
次に、大食い美人がサマンサの店へとやって来たのは、翌週だった。前回の来店時に、サマンサが週でメニューが変わると説明したらしいが、こうしてまた来てくれたのなら気に入ってくれたのだろう。
今週のメニューは、ロールキャベツである。料理法はサマンサから知らないと言われたが、異世界なのにキャベツやトマト、チキンという単語は普通に通用するのだ。おそらくだが自分達や、獣人族のご先祖のような転生者が広めたのだろう。
(野菜や肉なんかの食材だから料理人なのか、農夫や狩人なのか……まあ、ありがたいけど)
そんなことを考えながら、アガタはコンソメ味のロールキャベツ定食を用意した。今回は事前に作っておくタイプなので、口に合うだろうかと思っていたら、またおかわり希望が出た。
(良かった)
安心し、前回のように二皿追加の用意をしていたところ、サマンサの「あら、ランさんいらっしゃい!」と声がした。先週、メルと話していたランが来たのだろう。
「……何だ、貴様。険しい顔をして」
そう思っていたら、フードを被ったままのランは席に着くのではなくそのまま厨房へとやってきた。メルが威嚇するように声を低くし、睨みつけて尋ねる。そんなメルと困惑するアガタに、ランは声を顰めながら聞いてきた。
「門番とか市場の顔見知りから最近、十八歳くらいの女性が探されてたって……だけど、先週末くらいには落ち着いたから、見つかったんじゃないって聞いたんだけど」
「えっ……?」
「だから、アガタが捕まったかと思って来てみたら……滅茶苦茶、美人な不審者がいるとか! 絶対、今日初めて来た客じゃないだろ!? このタイミングで顔が良いか、声が良い奴が現れるとそれは重要人物な可能性大なんだよ!」
「……先週、後半くらいに。美声かどうかはともかく、見た目とのギャップはあるわ」
「やっぱりか!」
「アガタ姉様の料理をおかわりする、見どころのある奴だと思っていたら……まさか、不審者だったとは」
「っ、待ってメル! まだ、そうと決まった訳じゃないからっ」
ランの説明に、金色の目を据わらせたメルが大食い美人のところに向かおうとする。それを慌てて止めたところで、面白がるような声が聞こえた。
「バレたか。あ、外には聞こえてなかったから安心しろよ」
「イケボじゃねぇか! ……って、そもそも隠す気なかっただろ?」
相手の言葉を信じる限り、先程までのやり取りが白熱し過ぎて店に聞こえていなかったことには安心したが──そうだとしたらランが厨房に向かったことで、自分の正体がバレたと思ってきたのだろう。そしてランの言う通り、隠す気がなかったから平然と声をかけてきたのだろう。
「……私を、探していたんですか?」
「あぁ。まさか、そんなに強い精霊連れてるとは思わなかったけど」
「「「えっ?」」」
大食い美人の言葉に、アガタ達は思わず声を上げた。
強い精霊と言えば、メルのことだと思われる。
しかしながら、人間の姿をしているメルを見て、精霊だと解るとなると──神官や、それこそ聖女と同じ能力を持っていることになる。
そんなアガタ達の反応に、先程の声だけではなく紫色の瞳も面白がるように細めて、大食い美人は口を開いた。
「俺は、パーサ。王命で、アンタを探しに来たんだけど……営業中だから飯食って、店が終わったらまた来るな」
今週のメニューは、ロールキャベツである。料理法はサマンサから知らないと言われたが、異世界なのにキャベツやトマト、チキンという単語は普通に通用するのだ。おそらくだが自分達や、獣人族のご先祖のような転生者が広めたのだろう。
(野菜や肉なんかの食材だから料理人なのか、農夫や狩人なのか……まあ、ありがたいけど)
そんなことを考えながら、アガタはコンソメ味のロールキャベツ定食を用意した。今回は事前に作っておくタイプなので、口に合うだろうかと思っていたら、またおかわり希望が出た。
(良かった)
安心し、前回のように二皿追加の用意をしていたところ、サマンサの「あら、ランさんいらっしゃい!」と声がした。先週、メルと話していたランが来たのだろう。
「……何だ、貴様。険しい顔をして」
そう思っていたら、フードを被ったままのランは席に着くのではなくそのまま厨房へとやってきた。メルが威嚇するように声を低くし、睨みつけて尋ねる。そんなメルと困惑するアガタに、ランは声を顰めながら聞いてきた。
「門番とか市場の顔見知りから最近、十八歳くらいの女性が探されてたって……だけど、先週末くらいには落ち着いたから、見つかったんじゃないって聞いたんだけど」
「えっ……?」
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「……先週、後半くらいに。美声かどうかはともかく、見た目とのギャップはあるわ」
「やっぱりか!」
「アガタ姉様の料理をおかわりする、見どころのある奴だと思っていたら……まさか、不審者だったとは」
「っ、待ってメル! まだ、そうと決まった訳じゃないからっ」
ランの説明に、金色の目を据わらせたメルが大食い美人のところに向かおうとする。それを慌てて止めたところで、面白がるような声が聞こえた。
「バレたか。あ、外には聞こえてなかったから安心しろよ」
「イケボじゃねぇか! ……って、そもそも隠す気なかっただろ?」
相手の言葉を信じる限り、先程までのやり取りが白熱し過ぎて店に聞こえていなかったことには安心したが──そうだとしたらランが厨房に向かったことで、自分の正体がバレたと思ってきたのだろう。そしてランの言う通り、隠す気がなかったから平然と声をかけてきたのだろう。
「……私を、探していたんですか?」
「あぁ。まさか、そんなに強い精霊連れてるとは思わなかったけど」
「「「えっ?」」」
大食い美人の言葉に、アガタ達は思わず声を上げた。
強い精霊と言えば、メルのことだと思われる。
しかしながら、人間の姿をしているメルを見て、精霊だと解るとなると──神官や、それこそ聖女と同じ能力を持っていることになる。
そんなアガタ達の反応に、先程の声だけではなく紫色の瞳も面白がるように細めて、大食い美人は口を開いた。
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