34 / 40
結界ではなく
しおりを挟む
パーサの母はとても小さくて細くて、そのか弱さから精霊に同情され、エアヘル国から連れ出されたと言う。逃げ出すまでずっとエアヘル国の結界を維持する為、生命力を搾取され続けてきたのでダルニア国でいくら食べても、ほとんど太らなかったと言う。
「あ、勘違いされそうだけど、俺の母親生きてるからな? 親父と王妃様が不憫に思って、城で囲って今もたくさん食べさせてるからな?」
「……はぁ」
囲うという言葉が微妙で、アガタは曖昧な相槌をした。とは言え、これだけ大きな息子がいるので、まあ、当人同士は幸せなのだろう。
「痩せてはいるけど、おふくろほどじゃないし。それだけ強い精霊を従えてるから、多分、アンタは聖女の中でも桁違いの実力の持ち主なんだろうな……って、そうだ! 何か話が食い違ってると思ったけど、城には連れてくけどアンタをエアヘル国のボンボンに引き渡すつもりはないから! あと、この国に結界を張る必要はないからなっ」
「えっ……?」
「ってか、おふくろも鎧とか武器に加護を付与してくれるけど……気づいてないみたいだけど、アンタの飯も加護が付与されてて、魔物と戦うのに助かったんだよ。ここで働いてくれるのはありがたいけど、魔物の皮とか爪とか角って、結構、良い素材になるから結界張られると逆に困るんだよ。おふくろも最初、お礼に結界張ろうとして、国王に止められたからな」
「っ!?」
何と言うか、情報量が多い。
、魔物を狩るだけではなく捌いて素材にする文化があるのなら、アガタのしたことは獣人の里にとって迷惑だったのだろうか?
余計なことをしたと、アガタが申し訳なく思って肩を落とした時である。
「……貴様」
「いや、俺の里は違うから!? 魔物とか密猟者が入ってこなくて本当、助かってるから! 魔物を素材とか言うのは、ここの脳筋連中だけだからっ」
「脳筋……言い得て妙だな」
「否定しないのかよ!?」
そんなアガタを見てメルは目を据わらせ、ランはと言うと慌てて手を振って否定しつつも、本気か冗談か解らないが否定しないパーサにツッコミを入れている。
そんなカオスな状況に一石を投じたのは、今まで黙って話を聞いていたサマンサだった。
「引き渡さないって、どうやって……あ! もしかして」
尋ねながら何かを思いついたのか、老婆は声を上げた口元を押さえた。それを見たパーサは、ニッと口の端を上げて笑い、どこからか一枚の書類を取り出してアガタに差し出した。
その書類を受け取り、ザッと目を通して──次いで大きく瞠り、アガタはパーサを見たのだった。
「あ、勘違いされそうだけど、俺の母親生きてるからな? 親父と王妃様が不憫に思って、城で囲って今もたくさん食べさせてるからな?」
「……はぁ」
囲うという言葉が微妙で、アガタは曖昧な相槌をした。とは言え、これだけ大きな息子がいるので、まあ、当人同士は幸せなのだろう。
「痩せてはいるけど、おふくろほどじゃないし。それだけ強い精霊を従えてるから、多分、アンタは聖女の中でも桁違いの実力の持ち主なんだろうな……って、そうだ! 何か話が食い違ってると思ったけど、城には連れてくけどアンタをエアヘル国のボンボンに引き渡すつもりはないから! あと、この国に結界を張る必要はないからなっ」
「えっ……?」
「ってか、おふくろも鎧とか武器に加護を付与してくれるけど……気づいてないみたいだけど、アンタの飯も加護が付与されてて、魔物と戦うのに助かったんだよ。ここで働いてくれるのはありがたいけど、魔物の皮とか爪とか角って、結構、良い素材になるから結界張られると逆に困るんだよ。おふくろも最初、お礼に結界張ろうとして、国王に止められたからな」
「っ!?」
何と言うか、情報量が多い。
、魔物を狩るだけではなく捌いて素材にする文化があるのなら、アガタのしたことは獣人の里にとって迷惑だったのだろうか?
余計なことをしたと、アガタが申し訳なく思って肩を落とした時である。
「……貴様」
「いや、俺の里は違うから!? 魔物とか密猟者が入ってこなくて本当、助かってるから! 魔物を素材とか言うのは、ここの脳筋連中だけだからっ」
「脳筋……言い得て妙だな」
「否定しないのかよ!?」
そんなアガタを見てメルは目を据わらせ、ランはと言うと慌てて手を振って否定しつつも、本気か冗談か解らないが否定しないパーサにツッコミを入れている。
そんなカオスな状況に一石を投じたのは、今まで黙って話を聞いていたサマンサだった。
「引き渡さないって、どうやって……あ! もしかして」
尋ねながら何かを思いついたのか、老婆は声を上げた口元を押さえた。それを見たパーサは、ニッと口の端を上げて笑い、どこからか一枚の書類を取り出してアガタに差し出した。
その書類を受け取り、ザッと目を通して──次いで大きく瞠り、アガタはパーサを見たのだった。
89
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ですが、副業で聖女始めました
碧井 汐桜香
ファンタジー
前世の小説の世界だと気がついたミリアージュは、小説通りに悪役令嬢として恋のスパイスに生きることに決めた。だって、ヒロインと王子が結ばれれば国は豊かになるし、騎士団長の息子と結ばれても防衛力が向上する。あくまで恋のスパイス役程度で、断罪も特にない。ならば、悪役令嬢として生きずに何として生きる?
そんな中、ヒロインに発現するはずの聖魔法がなかなか発現せず、自分に聖魔法があることに気が付く。魔物から学園を守るため、平民ミリアとして副業で聖女を始めることに。……決して前世からの推し神官ダビエル様に会うためではない。決して。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~
星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。
しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。
これで私の人生も終わり…かと思いきや。
「ちょっと待った!!」
剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。
え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか?
国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。
虐げられた日々はもう終わり!
私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
夏芽みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。
けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。
「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」
追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
聖女を追放した国が滅びかけ、今さら戻ってこいは遅い
タマ マコト
ファンタジー
聖女リディアは国と民のために全てを捧げてきたのに、王太子ユリウスと伯爵令嬢エリシアの陰謀によって“無能”と断じられ、婚約も地位も奪われる。
さらに追放の夜、護衛に偽装した兵たちに命まで狙われ、雨の森で倒れ込む。
絶望の淵で彼女を救ったのは、隣国ノルディアの騎士団。
暖かな場所に運ばれたリディアは、初めて“聖女ではなく、一人の人間として扱われる優しさ”に触れ、自分がどれほど疲れ、傷ついていたかを思い知る。
そして彼女と祖国の運命は、この瞬間から静かにすれ違い始める。
(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです
しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。
さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。
訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。
「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。
アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。
挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。
アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。
リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。
アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。
信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。
そんな時運命を変える人物に再会するのでした。
それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。
一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
全25話執筆済み 完結しました
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる