悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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 アデライトが、二毛作や輪作のことを知ったのは飢饉の後に調べた時だ。
 結局は実現する前に、断罪されて斬首されたが――その時、アデライトが思ったのは。

「知識はあるのに何故、それまで王都や他の領地でされていなかったのでしょう?」
「……確かに」
「一回目では、単なる疑問でしたが……巻き戻ってみて、解りました。ミレーヌ様は、権限が無かったからですが……他は今が豊かだから、困っていないから。わざわざ新しいことを始めて、苦労したくなかったんです」

 この農法を行えば、休耕期がないので今ある土地で、収穫が倍近くになるのにだ。
 しかし、この領地で新しい農法や花の商品化が取り入れられたのは、父・ウィリアムと領民達との関係性のおかげだ。現にこの一年、収穫が増えてきたが他の領地が真似をしようという動きはなかった。

「怠惰な者達は、放っておきましょう……あと、孤児に読み書きなどを教えたのは、色々と都合が良かったからです」
「都合?」
「ええ……教会で、神父様が私のように読み書きを教えていたのを知っていますか?」
「ううん。そうなの?」
「ええ。しかも、無償で……それなのに、子供達は神父様のところには行きたがらず、親も無理には行かせていなかったんです。孤児達は、行きたくても行けなかったのに」

 孤児院にいる子供達は捨てられたり、親が育てられないからという理由で連れて来られている。そうやって育てられているからこそ、掃除や畑仕事などの労働で恩を返すべきというのがこれまでの考え方だった。
 けれど言い方は悪いが、領主の娘が出てくれば孤児達に僅かでも勉強の時間を作ることが出来る。子供達も、いつまでも孤児院にはいられないからと、将来の選択肢を増やす為にと勉強に精を出す。
 ……そうしていると、領地の子供達が神父の元に通って勉強するようになった。最近では神父に頼まれて、そんな子供達にもアデライトやミレーヌは勉強を教えている。

「流石に、直接は言ってきませんが……見下していた孤児院の子達が、私やミレーヌ様と勉強しているのを見て『ずるい』と思ったのでしょうね」

 そう言って微笑むアデライトは、一回目の時のように俯くことはない。更に、ミレーヌを見習って高嶺の花でありつつも気さくな令嬢として振る舞っている。
 そんなアデライトは領地に戻り、父と共に領民達と接するようになったら、誰もが美しいと褒め称えてくれた。両親が言った「月の妖精のよう」と言うのは、身内贔屓のお世辞ではなかったのだ。本当にただ、リカルドの気に食わなかった『だけ』なのだと、巻き戻った今なら解る。

(ただ、初対面から攻撃的だったから……今思えば、見た目の好みと言うよりも親に決められた婚約者ってことで、嫌われていた気がするわ)

 そうなると今回、婚約者に選ばれたサブリナはどうなるのやら――まあ、復讐する相手なので別に心配したりはしないけれど。
 話を戻すが、アデライトやミレーヌと勉強出来ることに孤児達は感激して、他の子供達も彼女達の関心を引こうと勉強していた。更に勉強だけではなく、家や親の手伝いをするようになったと親からも感謝された。もっとも、アデライトには言い分がある。

「私、一回目で反省したことがあるんです。炊き出しや寄付など、施しだけを与えていました。それは、家畜を育てることです」
「家畜、ね」
「まあ、王都の面々は復讐対象なので家畜に『する』つもりですし。いくら学んでも、反抗する時はするんでしょうけれど……知識があれば、自分達が周りと比べて恵まれていることに気づきます。あと人ならある程度の数を揃えておけば、たとえ病気や飢えで死んでも替えが効きますからね」
「そうだね」

 アデライトは、嘘をつかない。ただ隠し事はするし、本音を伝えるのはノヴァーリスに対してだけだ。
 そして微笑みながら、酷いことを言ってのけるアデライトに――宙に浮かんでいるノヴァーリスも、彼女を止めずに綺麗な笑顔で頷いた。
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