悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

渡里あずま

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亀裂

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 一回目の時は、サブリナが生徒会の手伝いをしていた。そしてリカルドのお気に入りということで、巻き戻った今回のように氷中花を提案して準備をしていた。
 ただ、今回と違うことがいくつかある。
 一つは氷中花が溶けた時、サブリナの方がリカルドとアデライトより先に王立学園に到着したこと。
 そして、もう一つは――前回の手伝いの時は生徒会から口止めされて自重していたが、今回は周囲に「新入生歓迎会には氷中花を披露する」と言いふらしていたことだ。つまり前回は、サブリナの不運自体が知られておらず、アデライトの作業はそのまま生徒会の功績となったのである。

(だから今回、氷中花が溶けて……私が先に王立学園に着いていたら、気まずさもあって絶対に八つ当たりしてくると思っていたわ)

 一回目の子爵令嬢だった時とは違い、今はリカルドの婚約者である為、サブリナはアデライトのことを下に見ている。それ故、一回目は表立って非難せず、歓迎会が終わった時に爪を立てる程度だったが、今回はこうしてアデライトに突っかかってきた。
 しかしもう一つ、一回目とは違うことがある。

「サブリナ嬢! 信じられない気持ちは解るが、落ち着くんだ!」
「アデライト嬢は、我々の後に来ています」
「でもっ! 学園の敷地内にいるのなら夜、学生寮を抜け出せばっ」
「……サブリナ! やめるんだっ」

 生徒会長や他の役員が口々に言うが、サブリナの激情は収まらない。逆に、どうしてもアデライトのせいにしたいのか言い返し、たまりかねたようにリカルドが声を荒げた。

「リカルド様……でも……だって」
「君の案は良かったが、今回のように天候に左右される可能性があった。だから、アデライト嬢には万が一の時の為に、代わりの花の用意を頼んでいた」
「っ! ほらっ、だからあの女は私の花を溶かして、代わりに自分のっ」
「……そんな愚かなことをする相手なら、泣くか逆上するんじゃないか?」

 そう言ってリカルドと、彼の言葉に促されたサブリナがアデライトを見る。
 実際、やっていないのでアデライトは泣きも喚きもしなかった。ただ言いがかりに対して、硬い表情(実際は狙い通り過ぎて、笑い出さない為だが)ながらも背筋を伸ばし、静かに言い返した。

「私は、やっておりません」
「……嘘よっ」
「サブリナ、もう教室に行ってくれ……私達は、歓迎会の準備で忙しいんだ」
「リカルド様ぁ……」
「……氷中花が無くて気まずいのは、解る。しかし歓迎会は君一人のものではなく、新入生である一年全てのものだ。その為に助力してくれたアデライト嬢に、感謝こそすれ怒声を浴びせるのはやめてくれ」
「……っ」

 怒りと悔しさに顔を赤くしつつも、ここまでリカルドに言われて流石にサブリナは口を噤んだ。けれど、だからと言って感謝の言葉を言うのは耐えがたかったらしく、アデライトを睨みつけて会場を後にした。

「全く……アデライト嬢。サブリナが、失礼した」
「大丈夫です。突然のことで、動揺したのでしょう」
「それにしても……君のことは守ると、約束していたのに」
「……いえ。ちゃんと、守って頂きました。皆様も、ありがとうございました」
「そ、そうか」
「仲間を守るのは当然です」
「さあさあ! 花の飾りつけは終わったが、まだ会場準備は残っているぞ!」
「「「はいっ」」」

 そう言ってアデライトがリカルド、それから役員達に微笑んでみせると、リカルド達は満更でもない表情で答えた。
 そして、サブリナのせいで嫌な雰囲気になったのを振り払うように、生徒会長が言うと他の役員達も頷いて作業を再開した。



「まあ、素敵なお花!」
「あら? でも、氷中花ではないの?」
「この暑さで、溶けてしまったそうよ……残念だけど仕方ないし、これはこれで綺麗よね」
「ベレス様の領地の薔薇なんですって」

 その後の新入生歓迎会では、主にアデライト達と同じクラスの女生徒達がそう噂していた。彼女達としては、歓迎会がこうして無事に開催されればそれで良いのだ。一回目ならドミニク達取り巻きが慰めたかもしれないが、今回は逆に同年代の令嬢達と距離が出来ている。
 結果、気まずくて悔しいのはサブリナだけで――宙に浮かんで見下ろしているノヴァーリスは、そんなサブリナを見て腹を抱えて笑っていた。
 ……そんなノヴァーリスに気持ちを代弁して貰ったようで、アデライトもこっそり微笑んだ。
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