メテオライト

渡里あずま

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感取

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 遊星に会いたかった。会って、話をしたかった。あの黒い瞳に映る『僕』を見たかった。
 衝動のままに、自分の寮の部屋へと転移したアルバだったが――何故、そう思ったのかは解って『いなかった』。思えば以前、遊星に何かあるのが嫌だと思った時も、その理由までは考えなかった。
 ……その理由を理解したのは、転移した先で遊星を押し倒している男の言葉を聞いたからだ。

「お前のことが好きだから、愛してるから」

 特別だとは思っていたが、遊星は勿論、アルバも相手のことを『友達』以外だと考えられなかった。
 そこに『恋愛』を当てはめることで、遊星への気持ちについて納得出来て――一方で、男が身勝手な理屈で遊星を傷つけようとすることが許せなかった。
 それ故、魔王(直接、聞いてはいないが膨大な魔力とこちらに向けられた真紅の瞳から推測出来た)に対して、躊躇せず光属性の攻撃呪文を放とうとしたが、他ならぬ遊星自身に止められた。

「待てっ……俺の為に、争わないで!」
「「っ!?」」
「って、何言ってんだよ俺っ! ヒロイン気取りかっ!?」
「…………」

 どうしよう。好きだと自覚したら、遊星が妙なことを口走っても、それを恥じ入って頭を抱えていても可愛い。
 そんなことをアルバが真顔で考えていると、魔王がくすくすと笑う。

「今回は、自覚してくれただけ良しとしようか」
「なっ!?」
「もっとも、気づかせたのが俺だけじゃないのは残念だけど」

 からかうような魔王の言葉に遊星は真っ赤になり、続いた言葉と共に真紅の瞳がアルバへと向けられる。

「お前の言う通りだ。俺とお前の意見は、合いそうにない……お前は俺を倒したいようだが、魔王である俺は遊星以外に討たれたくない。世界の為だ、遊星に勇者の座を譲れ」
「何を……っ、僕は、魔王を討伐した勇者の血と魂を継いでいる! 貴様こそ、遊星を巻き込むなっ」
「……へぇ?」

 怒りのあまりいつもの敬語が吹き飛んだアルバだったが、魔王は笑みを消さなかった。いや、むしろ面白がるように赤い瞳を更に細める。

「創造神も、何を考えているんだか……遊星? さっきの俺の話を、こいつにしてやれよ。そして魔領の、俺の城に来てくれ」
「えっ……ってか、どこにどうやって行けって!?」
「お前の使い魔に頼んで、運んで貰えばいい。今は邪魔されないように、結界を張っていたからこいつが破壊するまで入ってこれなかったけど……遊星が来るなら、歓迎するよ。もっとも、そいつが来たら別の意味で『歓迎』してやるけどな」
「暁っ!」

 後半、アルバを牽制するようにそう言うと、魔王――『アキラ』と呼ばれた男は遊星から離れて黒衣を翻し、その姿を宙にかき消した。
 刹那、入れ違うようにガブリエルと鸞鳥が現れて遊星に飛びつく。

「ユーセイ、大丈夫かい!?」
「ピッ!」
「だ、大丈……じゃない……く、苦しいから離し」
「一晩、離れ離れだったんだから堪能させてくれたまえ!」
「ピッ!」

 それぞれ、抱擁と遊星の顔に張り付くことで感動の再会を体現した使い魔達だったが。

「……申し訳ないですが、後にして下さい。遊星と、話がありますので」
「アルバ……うん、そうだな。俺も、アルバに聞きたいことがある」
「……仕方ないな。ただ、フシュ君も同席させてくれ。彼も、魔領に行ける実力者だからね」
「解りました」

 冷ややかなアルバの声と、表情を引き締めて頷いた遊星に――ガブリエルが、肩を竦めながらも遊星から離れる。鸞鳥は尚も離れなかったが、遊星の頭上に移動したので許すことにした。
 ……内心、ムシュフシュへの愛称呼びが気になったが、仮にも大天使なのでそこを突っ込むのはやめにした。
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