3 / 34
そして、ベルは賭けに勝った。
しおりを挟む
温まって動けるようになったところで、ベルは母の亡骸を窓の雪(開けられるが格子があり、出ることは出来ない)で濡らした布で清めて、ドレスはなかったので比較的、綺麗なワンピースに着替えさせた。前世で、寝たきりの祖母の体を拭いたり着替えさせたり、葬儀の様子を見ていたことが役に立った。
これからのことを考えて、ベルは暖炉の前で毛布にくるまって眠る。
それから、部屋に朝日が射し込んで──血の繋がった、けれど家族とは呼べない人達が目を覚ます頃に、重ね着をやめて普段の簡素なワンピース姿になったベルは、扉に手をかけて思いきり声を張り上げた。
「誰か……誰か、来て……お母さんが、お母さんが死んじゃったの……っ」
亡くなるまで放置されていたが、死んだとなると流石に埋葬しなければ寒くても腐ってしまう。だからこう言えば、『皇族達』はこないとしても使用人達が来るだろう。
そして、ベルは賭けに勝った。いくつかの足音が近づいてくるのを聞いて、ベルは母の亡骸の傍らに移動した。
……清めたおかげか、その顔はただ眠っているだけのように見える。
『ごめんなさい……ごめんなさい、ベル……』
死ぬまで、自分のぬくもりを分け与えようとしていた。前世と違い、娘であるベルを愛してくれた女(ひと)。
「……おかあ、さん……」
今まではその死と、前世を思い出したことでいっぱいいっぱいになっていたが──気が緩んだ途端、ポロポロと涙がこぼれ落ちるのを、ベルは拭わずそのままにした。
そうしていると外から扉が開けられ、使用人と思われる男性達が三人ほど飛び込んできた。
※
その後、母の亡骸は使用人達によって運ばれていき、ベルは皇帝の執務室へと連れていかれた。
そこには、皇帝であり父であるルチアーノと、その妻である皇后・ヘンリエッタがいた。帝国民らしい金髪と銀髪の美男美女だが、ベルとしては母と自分を軟禁した犯罪者だ。
……けれど、ベルはこれから彼らの機嫌を取って、生き残らなくてはならない。
(小説では、十六歳になるまでは生きていたけど……昨日みたいなことがあるのなら、状況を変えないと。子供一人でも、生き延びる為に)
声に出さずに決意を固め、ベルは二人に向かって深々と頭を下げた。
「どうか私を、ベルを、使用人として働かせて下さい。お願いします」
ベルの申し出に、頭の上で顔を見合わせている気配がする。
この世界で、平民の名前は三文字まで。そして、富裕層や貴族以上は四文字以上の名前なのだ。だから、平民の血を引く彼女は『ベル』と呼ばれたし、その後の物語の世界では『皇女』なのでそれらしい名前での登場となったのだと思う。
幸い名前には抵抗はないし、前世で色々バイトをしたので働くことに対しては全く抵抗はない。むしろ、再び軟禁されるよりは使用人部屋にいった方がマシな気がする。
「……己の分は、わきまえているようね。あなた? よろしいのではないですか?」
「ああ、そうだな」
「ありがとうございます!」
そして二人から思った言葉が引き出せたのに、クララベルは心の中でガッツポーズをした。
これからのことを考えて、ベルは暖炉の前で毛布にくるまって眠る。
それから、部屋に朝日が射し込んで──血の繋がった、けれど家族とは呼べない人達が目を覚ます頃に、重ね着をやめて普段の簡素なワンピース姿になったベルは、扉に手をかけて思いきり声を張り上げた。
「誰か……誰か、来て……お母さんが、お母さんが死んじゃったの……っ」
亡くなるまで放置されていたが、死んだとなると流石に埋葬しなければ寒くても腐ってしまう。だからこう言えば、『皇族達』はこないとしても使用人達が来るだろう。
そして、ベルは賭けに勝った。いくつかの足音が近づいてくるのを聞いて、ベルは母の亡骸の傍らに移動した。
……清めたおかげか、その顔はただ眠っているだけのように見える。
『ごめんなさい……ごめんなさい、ベル……』
死ぬまで、自分のぬくもりを分け与えようとしていた。前世と違い、娘であるベルを愛してくれた女(ひと)。
「……おかあ、さん……」
今まではその死と、前世を思い出したことでいっぱいいっぱいになっていたが──気が緩んだ途端、ポロポロと涙がこぼれ落ちるのを、ベルは拭わずそのままにした。
そうしていると外から扉が開けられ、使用人と思われる男性達が三人ほど飛び込んできた。
※
その後、母の亡骸は使用人達によって運ばれていき、ベルは皇帝の執務室へと連れていかれた。
そこには、皇帝であり父であるルチアーノと、その妻である皇后・ヘンリエッタがいた。帝国民らしい金髪と銀髪の美男美女だが、ベルとしては母と自分を軟禁した犯罪者だ。
……けれど、ベルはこれから彼らの機嫌を取って、生き残らなくてはならない。
(小説では、十六歳になるまでは生きていたけど……昨日みたいなことがあるのなら、状況を変えないと。子供一人でも、生き延びる為に)
声に出さずに決意を固め、ベルは二人に向かって深々と頭を下げた。
「どうか私を、ベルを、使用人として働かせて下さい。お願いします」
ベルの申し出に、頭の上で顔を見合わせている気配がする。
この世界で、平民の名前は三文字まで。そして、富裕層や貴族以上は四文字以上の名前なのだ。だから、平民の血を引く彼女は『ベル』と呼ばれたし、その後の物語の世界では『皇女』なのでそれらしい名前での登場となったのだと思う。
幸い名前には抵抗はないし、前世で色々バイトをしたので働くことに対しては全く抵抗はない。むしろ、再び軟禁されるよりは使用人部屋にいった方がマシな気がする。
「……己の分は、わきまえているようね。あなた? よろしいのではないですか?」
「ああ、そうだな」
「ありがとうございます!」
そして二人から思った言葉が引き出せたのに、クララベルは心の中でガッツポーズをした。
90
あなたにおすすめの小説
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
新聞と涙 それでも恋をする
あなたの照らす道は祝福《コーデリア》
君のため道に灯りを点けておく
話したいことがある 会いたい《クローヴィス》
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
やさしい・悪役令嬢
きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」
と、親切に忠告してあげただけだった。
それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。
友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。
あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。
美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました
神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。
5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。
お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。
その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。
でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。
すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……?
悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。
※溺れるような描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
※少し設定が緩いところがあるかもしれません。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる