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天ぷらが好きなのは
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異世界から無事、帰還した舞は掃除は明日やることにして慌てて洗濯機を回し、夕飯の支度を始めた。買い物に行く時間がないのであるもので作るが、今夜のメニューは決まっている。
(ここはやっぱり、天ぷらよね)
冷蔵庫の中を見ると、アスパラガスはなかったがそれ以外、茄子と鳥のむね肉はあった。あと、魔国では食べられたが、やはり白米と味噌汁に飢えていたので夕飯は天丼と、ワカメとじゃがいもで味噌汁を作ることにした。
そんな訳で米を研いで給水し、その間に味噌汁を作る。そして炊飯器をセットしたところで、舞はリビングで絵本を読んでいる工に声をかけた。
「たっくんー。これから天ぷら作るから、ちょっとの間、頑張らせてねー」
「はーい!」
万が一、調理中に呼ばれ──るだけなら良いが、揚げ物をしている時に抱き着かれたりしたら危なすぎる。だから、息子と会話が出来るようになってからは、舞はこうして声がけをしてから食事の支度をするようになった。そして、良い子の返事がされたところで、一気に天ぷらを作り出す。
異世界でそうしたように、茄子とむね肉を一口大に切った。
それから冷水に卵を加えて作った卵水に小麦粉を加え、粘りが出ないようにサックリと混ぜた。下粉をつけた具に衣をつけてまずは茄子、ついでむね肉を揚げていく。
(レシピにも書いたけど、天ぷらとか揚げ物を作るのに一番、大切なのは思いきりよ!)
躊躇せず、一気に最後まで突っ走る。そして無事、天ぷらを完成させて皿に盛りつけたところで、舞は工に「ありがとう、終わったわ」と声をかけた。あとは食べる時にご飯にたれをかけ、その上に天ぷらを載せれば完成である。
そうすると工が駆け寄ってきてピタリと止まり、完成した天ぷらを見て目を輝かせた。
「おいしそう! ぼく、てんぷらすきっ」
「ありがとう。お父さんが帰ってきたら、一緒に食べましょうね」
「うんっ」
満面の笑顔で頷く息子が、可愛すぎる。先程もだが、無事に帰ってこられたのだと実感する。
……工や大樹に、異世界召喚されていたことを話すつもりはない。
ないが一方で黙ってもいられなくて、舞は工に顔を近づけて内緒話をするように囁いた。
「たっくん? この天ぷらはね、魔王様も大好物なのよ?」
「……まおー?」
「ええ。一緒ね」
「うん、おいしいもん! いっしょだよっ」
普段の生活では聞かない単語だが、好物が同じということだけは解ったようで──きょとん、と目を丸くしていた工は、すぐに再び笑みに細めて高らかに言った。
「おとうさんっ、こんやはてんぷら! ぼくとまおくんの、だいこうぶつだよっ」
「……まおくん?」
そして、夜。
帰宅した大樹に笑顔で報告する息子と、聞き慣れない名前に首を傾げる夫に、舞は何とか吹き出すのを堪えるのだった。
(ここはやっぱり、天ぷらよね)
冷蔵庫の中を見ると、アスパラガスはなかったがそれ以外、茄子と鳥のむね肉はあった。あと、魔国では食べられたが、やはり白米と味噌汁に飢えていたので夕飯は天丼と、ワカメとじゃがいもで味噌汁を作ることにした。
そんな訳で米を研いで給水し、その間に味噌汁を作る。そして炊飯器をセットしたところで、舞はリビングで絵本を読んでいる工に声をかけた。
「たっくんー。これから天ぷら作るから、ちょっとの間、頑張らせてねー」
「はーい!」
万が一、調理中に呼ばれ──るだけなら良いが、揚げ物をしている時に抱き着かれたりしたら危なすぎる。だから、息子と会話が出来るようになってからは、舞はこうして声がけをしてから食事の支度をするようになった。そして、良い子の返事がされたところで、一気に天ぷらを作り出す。
異世界でそうしたように、茄子とむね肉を一口大に切った。
それから冷水に卵を加えて作った卵水に小麦粉を加え、粘りが出ないようにサックリと混ぜた。下粉をつけた具に衣をつけてまずは茄子、ついでむね肉を揚げていく。
(レシピにも書いたけど、天ぷらとか揚げ物を作るのに一番、大切なのは思いきりよ!)
躊躇せず、一気に最後まで突っ走る。そして無事、天ぷらを完成させて皿に盛りつけたところで、舞は工に「ありがとう、終わったわ」と声をかけた。あとは食べる時にご飯にたれをかけ、その上に天ぷらを載せれば完成である。
そうすると工が駆け寄ってきてピタリと止まり、完成した天ぷらを見て目を輝かせた。
「おいしそう! ぼく、てんぷらすきっ」
「ありがとう。お父さんが帰ってきたら、一緒に食べましょうね」
「うんっ」
満面の笑顔で頷く息子が、可愛すぎる。先程もだが、無事に帰ってこられたのだと実感する。
……工や大樹に、異世界召喚されていたことを話すつもりはない。
ないが一方で黙ってもいられなくて、舞は工に顔を近づけて内緒話をするように囁いた。
「たっくん? この天ぷらはね、魔王様も大好物なのよ?」
「……まおー?」
「ええ。一緒ね」
「うん、おいしいもん! いっしょだよっ」
普段の生活では聞かない単語だが、好物が同じということだけは解ったようで──きょとん、と目を丸くしていた工は、すぐに再び笑みに細めて高らかに言った。
「おとうさんっ、こんやはてんぷら! ぼくとまおくんの、だいこうぶつだよっ」
「……まおくん?」
そして、夜。
帰宅した大樹に笑顔で報告する息子と、聞き慣れない名前に首を傾げる夫に、舞は何とか吹き出すのを堪えるのだった。
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