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恋煩い
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────こんなことになるなんて、誰が想像できただろうか。
世界は人類を脅かす感染症のパンデミックにより崩壊した。パニック映画の如く人間はゾンビ化し、人を襲い始めた。静かで平穏な日々はガラガラと崩れ、血の臭いだけが支配する悪夢に塗り替えられた。
ゾンビたちから命からがら難を逃れた俺は、身を隠しながら空き家を転々としていた。もうすでに人が住んでいないがらんどうとしたそこへ訪れ、食料品を漁り、ベッドで眠り、幸せだった過去に思いを馳せたりした。
遠い土地に住んでいる両親は無事だろうか。活発に動き回ることができる年齢ではない。きっとすでにこの世には居ないだろう。会社の同僚であるマフィやクラスはどうしているだろうか。無事逃げ切っているといいが。隣人のロロ婆さんはどこへ行ったのだろうか。飼い猫と共に身を潜めていてほしい。
────こんなことになるなんて、誰が想像できただろうか。
俺は何度目になるか分からない言葉を脳内で繰り返す。知らない人間の家を漁り、その日ぐらしをしながら怯える日々。一体、誰が想像できただろうか。いや、きっと誰にも想像できなかっただろう。
ある日。たまたま見つけた平屋の中。食料はないかと探索していた俺の鼓膜に、ゾンビの唸り声が聞こえてくる。咄嗟にソファの影に身を潜め、息を殺す。頼む、どこかへ行ってくれ。俺は食っても美味しくないぞ。心の中で叫びながらきつく目を瞑った。
────こんなことになるなんて、誰が想像できただろうか。
身を顰め、気配を殺す。呼吸を止め、震える手を押さえた。脈打つ心臓がひどく五月蝿い。額に滲んだ汗が頬を伝う。迫り来る脅威に怯えながら神に祈る。助けてくれ、と。
「!」
瞬間、弾けるような音が鼓膜に響く。劈いたそれは、静かな空き家にこだました。バタンと床に何かが叩きつけられたような鈍い音が響き、同時に床が軋んだ。
「……誰かいますか?」
少年の声がした。いや、正確には、青年と少年の境目のようなそんな声音だ。とても、綺麗だと思った。人類がほとんど居なくなった世界。静寂が支配するこの空間で、その音は甘美に思えた。
顔を上げる。視界に捉えた人物は、淡い金髪をした色白の男だった。背中を向けた彼の手には重厚な散弾銃があり、俺は身構える。
「あ、そこにいたんだね」
男が振り返った。目が搗ち合う。スカイブルーの瞳が弧を描き、この悲惨な世界には似合わないほど穏やかに微笑む。その表情に俺は度肝を抜かれた。
ソファの影に身を潜めたまま、声も出せずに固まっている俺へ彼が近づく。
「君がゾンビに追われてる光景が見えたから、急いで駆けつけたんだ。襲われる前でよかったよ」
彼の後ろには腐敗した人間────もといゾンビが横たわっている。ヘドロのような体液を流しているそれを見て、顔を歪める。吐き気を堪えた俺に、白い手が差し伸べられた。
顔を上げると、男がこちらを見つめていた。
「僕はルタ。君の名前は?」
「ゴ、ゴドフリー……」
彼の手を握る。泥で汚れた自分の手と、柔らかい皮膚が触れ合う。「よろしくね、ゴドフリー」。男がふわりと微笑んでいる。その笑みは、まるでこの暗澹たる世界を照らす一筋の光のように思えた。
世界は人類を脅かす感染症のパンデミックにより崩壊した。パニック映画の如く人間はゾンビ化し、人を襲い始めた。静かで平穏な日々はガラガラと崩れ、血の臭いだけが支配する悪夢に塗り替えられた。
ゾンビたちから命からがら難を逃れた俺は、身を隠しながら空き家を転々としていた。もうすでに人が住んでいないがらんどうとしたそこへ訪れ、食料品を漁り、ベッドで眠り、幸せだった過去に思いを馳せたりした。
遠い土地に住んでいる両親は無事だろうか。活発に動き回ることができる年齢ではない。きっとすでにこの世には居ないだろう。会社の同僚であるマフィやクラスはどうしているだろうか。無事逃げ切っているといいが。隣人のロロ婆さんはどこへ行ったのだろうか。飼い猫と共に身を潜めていてほしい。
────こんなことになるなんて、誰が想像できただろうか。
俺は何度目になるか分からない言葉を脳内で繰り返す。知らない人間の家を漁り、その日ぐらしをしながら怯える日々。一体、誰が想像できただろうか。いや、きっと誰にも想像できなかっただろう。
ある日。たまたま見つけた平屋の中。食料はないかと探索していた俺の鼓膜に、ゾンビの唸り声が聞こえてくる。咄嗟にソファの影に身を潜め、息を殺す。頼む、どこかへ行ってくれ。俺は食っても美味しくないぞ。心の中で叫びながらきつく目を瞑った。
────こんなことになるなんて、誰が想像できただろうか。
身を顰め、気配を殺す。呼吸を止め、震える手を押さえた。脈打つ心臓がひどく五月蝿い。額に滲んだ汗が頬を伝う。迫り来る脅威に怯えながら神に祈る。助けてくれ、と。
「!」
瞬間、弾けるような音が鼓膜に響く。劈いたそれは、静かな空き家にこだました。バタンと床に何かが叩きつけられたような鈍い音が響き、同時に床が軋んだ。
「……誰かいますか?」
少年の声がした。いや、正確には、青年と少年の境目のようなそんな声音だ。とても、綺麗だと思った。人類がほとんど居なくなった世界。静寂が支配するこの空間で、その音は甘美に思えた。
顔を上げる。視界に捉えた人物は、淡い金髪をした色白の男だった。背中を向けた彼の手には重厚な散弾銃があり、俺は身構える。
「あ、そこにいたんだね」
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「君がゾンビに追われてる光景が見えたから、急いで駆けつけたんだ。襲われる前でよかったよ」
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彼の手を握る。泥で汚れた自分の手と、柔らかい皮膚が触れ合う。「よろしくね、ゴドフリー」。男がふわりと微笑んでいる。その笑みは、まるでこの暗澹たる世界を照らす一筋の光のように思えた。
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