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蝕む
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脈打つ振動が指先に伝わり、僕は眉を歪めた。
頸動脈の生々しい感覚が脳の奥を貫き、締める力を強める。
組み敷いた彼は、いっそう苦しそうに顔を赤らめた。
しかしその表情は、どこか幸福そうでもある。足を乱暴に動かし、彼は藻掻いた。
まるで僕が悪いとでも言いたげに抵抗する仕草は、きっと体が素直に反応しているだけなのだ。
けれどその仕草が、無性に神経を逆撫でする。
親指に力を込めた。喉仏を潰すように、薄い皮膚へ指を沈める。
彼は口から醜く涎を垂らし、笑っていた。
◇
「こんなの誰にでもある、ただの性癖だろ。なんでそんなにカッカしてんの、アンタ」
シャワーを浴びた彼から、ふわりとしたソープの匂いが漂う。
エノクは、ほかほかと湯気をあげている白い肌を、安物のタオルで乱暴に擦り上げた。
そのまま、先ほどまで彼が喘いでいたベッドへダイブする。
まだ乾ききっていない唾液の水溜まりを避け、胡座をかいた。
ブロンドの髪を掻き上げながら、ペットボトルに入った炭酸飲料をぐいと飲む。
上下する喉仏には、痣がくっきりと残っていた。
釘付けになっていた目を逸らし、反論する。
「でも、やっぱり……危険だ。脳に酸素が回らないなんて、下手したら大事になる。それに、君はクセになり過ぎてる。この行為以外で興奮できないなんて異常だ」
「異常で悪かったな。でも、性癖はどうにもできない。アンタがやりたくないってなら、他を当たるだけだ」
「そんなのダメだよ、殺されたらどうするんだ」
「あれもダメ、これもダメ。アンタは俺の母親か?」
そう言い、意地悪げな顔で僕の鼻先を摘んだ。指先を振り払い、息を吐き出す。
「危険だよ、凄く。現に、最初の頃より力を込めないと、満足できない体になってる」
「そう教え込んでくれたのは、アンタ」
「人聞きが悪いこと言うなよ。僕は君に付き合ってるだけだろ」
頭に血が上った勢いで立ち上がり、彼に怒鳴る。
乱れた呼吸を落ち着かせようと、深呼吸をする。彼の部屋に置いてあった安物のソファに、深々と腰を下ろした。
僕を怒鳴らせた張本人は悪気のないような笑みを浮かべ、その様子を下着一枚の姿で眺めていた。
「……でも、アンタも興奮してただろ?」
まるで見透かすような瞳が、僕を射た。形のいい唇が吊り上がり、白い歯を見せる。
全身の血が沸騰する。図星を突かれたからなのか。それとも、身に覚えのない罪を着せられた怒りなのか。
僕は既に自分の中で答えを導き出しており、さらに絶望した。
「……とにかく、危険だよ。もうやめてくれ」
「殺されるようなヘマしねぇよ。仕事先に筋トレが趣味のオッサンがいるから、そいつに金でも握らせてやってもらうよ。俺のことは気にすんな。じゃ、今回で終わり。ほい、これは手切金」
彼は立ち上がり、部屋の隅に置かれたチェストの一番上を開け、その中から現金を取り出し僕へ差し出した。そんなところに入れてると危ない、といつも忠告しているのに、「取られたら、その時はその時だ」というので呆気に取られたものだ。
握られた金を受け取ることなく、僕は避けるように手を退かせた。彼は不思議そうに、首を傾げる。
「アンタ、なんで金を受けとらねぇの。この前も、その前も。ここ最近ずっと、そうだ。意味わかんねぇ。なんのために俺の悪趣味に付き合ってんの?」
君が友達として好きだから、お金は受け取りたくないし、こんな悪趣味に付き合ってあげてるんだよ。
そう伝えることができないまま、僕は手で口を抑え、唸り声を上げた。
頸動脈の生々しい感覚が脳の奥を貫き、締める力を強める。
組み敷いた彼は、いっそう苦しそうに顔を赤らめた。
しかしその表情は、どこか幸福そうでもある。足を乱暴に動かし、彼は藻掻いた。
まるで僕が悪いとでも言いたげに抵抗する仕草は、きっと体が素直に反応しているだけなのだ。
けれどその仕草が、無性に神経を逆撫でする。
親指に力を込めた。喉仏を潰すように、薄い皮膚へ指を沈める。
彼は口から醜く涎を垂らし、笑っていた。
◇
「こんなの誰にでもある、ただの性癖だろ。なんでそんなにカッカしてんの、アンタ」
シャワーを浴びた彼から、ふわりとしたソープの匂いが漂う。
エノクは、ほかほかと湯気をあげている白い肌を、安物のタオルで乱暴に擦り上げた。
そのまま、先ほどまで彼が喘いでいたベッドへダイブする。
まだ乾ききっていない唾液の水溜まりを避け、胡座をかいた。
ブロンドの髪を掻き上げながら、ペットボトルに入った炭酸飲料をぐいと飲む。
上下する喉仏には、痣がくっきりと残っていた。
釘付けになっていた目を逸らし、反論する。
「でも、やっぱり……危険だ。脳に酸素が回らないなんて、下手したら大事になる。それに、君はクセになり過ぎてる。この行為以外で興奮できないなんて異常だ」
「異常で悪かったな。でも、性癖はどうにもできない。アンタがやりたくないってなら、他を当たるだけだ」
「そんなのダメだよ、殺されたらどうするんだ」
「あれもダメ、これもダメ。アンタは俺の母親か?」
そう言い、意地悪げな顔で僕の鼻先を摘んだ。指先を振り払い、息を吐き出す。
「危険だよ、凄く。現に、最初の頃より力を込めないと、満足できない体になってる」
「そう教え込んでくれたのは、アンタ」
「人聞きが悪いこと言うなよ。僕は君に付き合ってるだけだろ」
頭に血が上った勢いで立ち上がり、彼に怒鳴る。
乱れた呼吸を落ち着かせようと、深呼吸をする。彼の部屋に置いてあった安物のソファに、深々と腰を下ろした。
僕を怒鳴らせた張本人は悪気のないような笑みを浮かべ、その様子を下着一枚の姿で眺めていた。
「……でも、アンタも興奮してただろ?」
まるで見透かすような瞳が、僕を射た。形のいい唇が吊り上がり、白い歯を見せる。
全身の血が沸騰する。図星を突かれたからなのか。それとも、身に覚えのない罪を着せられた怒りなのか。
僕は既に自分の中で答えを導き出しており、さらに絶望した。
「……とにかく、危険だよ。もうやめてくれ」
「殺されるようなヘマしねぇよ。仕事先に筋トレが趣味のオッサンがいるから、そいつに金でも握らせてやってもらうよ。俺のことは気にすんな。じゃ、今回で終わり。ほい、これは手切金」
彼は立ち上がり、部屋の隅に置かれたチェストの一番上を開け、その中から現金を取り出し僕へ差し出した。そんなところに入れてると危ない、といつも忠告しているのに、「取られたら、その時はその時だ」というので呆気に取られたものだ。
握られた金を受け取ることなく、僕は避けるように手を退かせた。彼は不思議そうに、首を傾げる。
「アンタ、なんで金を受けとらねぇの。この前も、その前も。ここ最近ずっと、そうだ。意味わかんねぇ。なんのために俺の悪趣味に付き合ってんの?」
君が友達として好きだから、お金は受け取りたくないし、こんな悪趣味に付き合ってあげてるんだよ。
そう伝えることができないまま、僕は手で口を抑え、唸り声を上げた。
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