それはダメだよ秋斗くん!

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「はっ、あきと、くん……もう、やめよ……?」
「やだ」

 彼は頬を膨らませた後、首筋に鼻を埋めた。まだしたい、と呟かれ、狼狽える。
 今すぐにでも、脱ぎ捨てたブレザーとバッグを手に持ち、立ち去ることだってできる。しかし、ここで秋斗に大声でも出されて一階にいる母親を召喚されたら、僕に逃げ場はない。
 彼が、無理やりキスをされたと告げ口してしまえば僕の人生は終わるも同然である。故に、秋斗の機嫌を損なわないようにと必死なのだ。
 唇の角度を変え、何度も唾液を送り込まれる。ちゅうちゅうと赤子のように舌を吸われると、脳の奥がチリと痛んだ。無意識に彼の服を掴み、喘ぐ。

「んぁっ、はっ、はぁ……」

 小さく薄い舌が口内をなぞるたびに、ゾクゾクと背筋に何かが走る。咎めて離れねばと思うたびに、彼が内心を察しているかの如く、舌を吸った。服の中に忍び込んでいた手が胸の突起を掠め、口の端から高い声が漏れる。

「だめ、だめっ、あっ」
「……」

 涙で歪んだ視界の中、穴が開くほど僕を凝視している瞳と搗ち合う。その目は好奇心旺盛な少年のものであり、罪悪感でいっぱいになる。
 ────彼はまだ、小学生だぞ。
 自分にそう言い聞かせ、彼から身を離す。このまま流されたらまずいと思い、距離を保った。

「ダメ。秋斗くん、だめだ。それ以上したら、嫌いになるよ」
「……嫌いに?」

 瞬間、その表情は悲しげなものに変わった。あぁ、この言葉が突破口か、と理解し頷く。

「うん、嫌いになる。だから、やめて」

 乱れた服を整え、肩で呼吸を繰り返す。唇についた少年の唾液を拭い、目の前で悲嘆にくれる姿を眺める。秋斗は黙った後、ポツリと言葉を溢した。

「僕、それは嫌だ。だから、仲直りして」

 潤んだ瞳に上目遣いをされ、思わず頷く。さっきは嫌がることをしてごめんなさい、と頭を下げられた。そこへ手を伸ばし、緩やかに撫でる。

「あ、秋斗くん……大丈夫。仲直り、しよう」

 握手をするように促すと、彼はそれに応じた。汗ばんだ手のひらが触れ、握られる。泣きそうな目元をこすりながら、もうしない、と震える声を漏らす彼は、まだまだ子供だった。

「今日のことは、忘れよう。いいね?」

 言い聞かせるように彼へ告げる。もし、口外されたら僕は完全に変態扱いされる。なんとかして、彼が誰にも言わないようにしなければ。
 秋斗は何度も頷き、ごめんなさい、と口を窄めている。泣くまいとしている彼が可愛く見え、もう一度頭を撫でた。
 それ以降、彼と僕は以前同様の関係に戻った。勉強を教え、時々遊んであげたりもした。
 やがて僕は大学進学をきっかけに実家を出た。あの日のことなどすっかり忘れていた僕は、大学一年の夏休みに実家に帰ることになった。
 あんなことが起こると知らずに。
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