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命短し恋せよ男子
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両思いだと発覚して、流れるように日々が過ぎた。夢だと思われていたが覚めることはなく、幸せな日々が続いた。俺はこの日常を、惜しみなく楽しんだ。この時代にはスマホもインターネットも、漫画もアニメもゲームもない。娯楽らしい娯楽もなく、俺が今まで生きてきた世界とは異なった。
けれど、俺は全く嫌ではなかった。だってあのルイと、一緒に過ごせるのだから。
「ケイト様、これで良いでしょうか……?」
目の前にいるのは、恥ずかしそうに頬を染めたルイだ。両腕で胸元を隠すように覆い、目を伏せ額に汗を滲ませている。彼が着ているのは、メイド服だ。「頼む、着てくれ。着てくれたら、俺は悔いなく死ねる」。メイド服を抱きかかえながら涙声で訴える俺を見兼ねて、ようやくルイが着てくれたのだ。「絶対に似合いませんよ……」と乗り気じゃない彼が渋々着てくれたことも嬉しいが、何よりとても似合っていた。
「うぐぅっ」
「そ、そんなにダメですか!?」
胸元を押さえ、膝をついた俺にルイが駆け寄る。長いスカートをパタパタとはためかせ近づいた彼を鋭く睨んだ。
「よせ、それ以上近づくな。俺が死ぬ」
「え、えぇ……?」
困惑した彼が、差し伸べようとした手を彷徨わせ、やがて下ろした。「そんなに似合っていませんか」と眉を下げるルイに「違うんだ、最高なんだ」と言葉を被せた。
顔を上げ、ルイをまじまじと見つめる。白いフリルに黒いスカート。エプロンをつけたスタンダードなメイド服は彼にぴったりだった。この屋敷でも複数名のメイドがいる。しかし、彼が着るとその仕事服が途端に高尚なものに見えた。
「……ルイ。一つ、言って欲しいことがある」
「なんなりと」
ルイが真剣な表情で頷いた。女性が身につける衣装を纏っているのに、スッと男らしい表情に戻った彼にまた悶える。ギャップがたまらんと叫びたくなり、それを飲み込んだ。
「おかえりなさいませご主人様、と言ってくれ」
「……承知いたしました」
帰宅もしていないのに、何故おかえりなさいませと言わなければいけないのか、ルイは一瞬首を傾げそうになり、やがて踏みとどまる。主人の命令に従うのが彼の役目だ。腹の辺りに手を添え、ピシリと背筋を伸ばした彼が頭を下げた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ぎゃー!」
アイドルにファンサービスを貰った観客のように、俺は鋭い歓喜の声を上げた。ルイはひどく驚いた表情を浮かべ、頭上にクエスチョンマークを貼り付けている。「ケイト様のご希望に添えましたか?」と恐るおそる問うルイに「大満足だ」と唾を飛ばしながら答えた。
「つ、次に、ドレスを着てくれないか?」
俺が息継ぎをしながら言葉を発した途端、部屋の扉が開いた。そこにはラベンダー色の鮮やかなドレスを着た妙齢の女性が立っていた。察するに二十歳程度だろう。肩と鎖骨を露わにした姿は、とても魅力的に思えた。「そうそう、ああいうデザインの服を……」と口走った俺は、彼女の纏う異様な空気と、ルイに走った緊張に眉を歪める。
「あ、あなたたち、何やってらっしゃるの!?」
綺麗な顔を崩し、唇を歪めた彼女は俺とルイを交互に見て「な、なんですの? 何を一体……?何故、メイド服……?」と困惑していた。
ルイが「イザベラ様」とひとりごちた。彼に近づき、耳元で「誰?」と問うた。ルイは驚いたのか口をポカンと開き、やがて「許嫁ですよ」と耳打ちする。
両思いだと発覚して、流れるように日々が過ぎた。夢だと思われていたが覚めることはなく、幸せな日々が続いた。俺はこの日常を、惜しみなく楽しんだ。この時代にはスマホもインターネットも、漫画もアニメもゲームもない。娯楽らしい娯楽もなく、俺が今まで生きてきた世界とは異なった。
けれど、俺は全く嫌ではなかった。だってあのルイと、一緒に過ごせるのだから。
「ケイト様、これで良いでしょうか……?」
目の前にいるのは、恥ずかしそうに頬を染めたルイだ。両腕で胸元を隠すように覆い、目を伏せ額に汗を滲ませている。彼が着ているのは、メイド服だ。「頼む、着てくれ。着てくれたら、俺は悔いなく死ねる」。メイド服を抱きかかえながら涙声で訴える俺を見兼ねて、ようやくルイが着てくれたのだ。「絶対に似合いませんよ……」と乗り気じゃない彼が渋々着てくれたことも嬉しいが、何よりとても似合っていた。
「うぐぅっ」
「そ、そんなにダメですか!?」
胸元を押さえ、膝をついた俺にルイが駆け寄る。長いスカートをパタパタとはためかせ近づいた彼を鋭く睨んだ。
「よせ、それ以上近づくな。俺が死ぬ」
「え、えぇ……?」
困惑した彼が、差し伸べようとした手を彷徨わせ、やがて下ろした。「そんなに似合っていませんか」と眉を下げるルイに「違うんだ、最高なんだ」と言葉を被せた。
顔を上げ、ルイをまじまじと見つめる。白いフリルに黒いスカート。エプロンをつけたスタンダードなメイド服は彼にぴったりだった。この屋敷でも複数名のメイドがいる。しかし、彼が着るとその仕事服が途端に高尚なものに見えた。
「……ルイ。一つ、言って欲しいことがある」
「なんなりと」
ルイが真剣な表情で頷いた。女性が身につける衣装を纏っているのに、スッと男らしい表情に戻った彼にまた悶える。ギャップがたまらんと叫びたくなり、それを飲み込んだ。
「おかえりなさいませご主人様、と言ってくれ」
「……承知いたしました」
帰宅もしていないのに、何故おかえりなさいませと言わなければいけないのか、ルイは一瞬首を傾げそうになり、やがて踏みとどまる。主人の命令に従うのが彼の役目だ。腹の辺りに手を添え、ピシリと背筋を伸ばした彼が頭を下げた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ぎゃー!」
アイドルにファンサービスを貰った観客のように、俺は鋭い歓喜の声を上げた。ルイはひどく驚いた表情を浮かべ、頭上にクエスチョンマークを貼り付けている。「ケイト様のご希望に添えましたか?」と恐るおそる問うルイに「大満足だ」と唾を飛ばしながら答えた。
「つ、次に、ドレスを着てくれないか?」
俺が息継ぎをしながら言葉を発した途端、部屋の扉が開いた。そこにはラベンダー色の鮮やかなドレスを着た妙齢の女性が立っていた。察するに二十歳程度だろう。肩と鎖骨を露わにした姿は、とても魅力的に思えた。「そうそう、ああいうデザインの服を……」と口走った俺は、彼女の纏う異様な空気と、ルイに走った緊張に眉を歪める。
「あ、あなたたち、何やってらっしゃるの!?」
綺麗な顔を崩し、唇を歪めた彼女は俺とルイを交互に見て「な、なんですの? 何を一体……?何故、メイド服……?」と困惑していた。
ルイが「イザベラ様」とひとりごちた。彼に近づき、耳元で「誰?」と問うた。ルイは驚いたのか口をポカンと開き、やがて「許嫁ですよ」と耳打ちする。
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