永遠に君推し

なかあたま

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オメガに恋して

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 大学近くの公園。四方を柵に覆われたそこは遊具らしい遊具が一つもない、ひっそりとした場所だった。大きな木の下。木造で出来たベンチの上。そこに彼はいた。俺を見つけるなり手を上げたルイは、その頬に青々とした痣を作っていた。
 見た瞬間、俺は眩暈で倒れそうになる。しかし、そんな場面を彼に見せてはいけないと足を踏ん張った。なんとか彼の元まで行き、大きく息を吸い込んだ。

「その痣、どうした?」
「……あぁ、これ? 昨日、酔った勢いで、こう、バーンって……」

 彼が微笑みながら手を大袈裟に動かした。俺に心配をかけまいと、明るく振る舞っているのだろう。その健気さに胸が痛む。腫れ上がったそこは、かなりの力を込めて殴られたのだとハッキリわかる。
 指を伸ばし、軽く触れてみる。熱を帯びたそこを愛しげに撫でた。

「あ、急に触って悪い」

 パッと手を離した俺を見上げ、ルイがポカンとしている。やがて肩を揺らし、笑った。

「ううん、君に触れられると、すごく心地いい」

 目を細める彼に、胸を締め付けられた。こんな細工のような男を殴って満足している下衆な輩がいることに、はらわたが煮えくりかえる。

「……ごめんね、急に電話して」

 「気にすんなよ」。俺は明るい口調でそう言いながら、ルイの隣に腰を下ろした。

「ところで、俺と会って大丈夫なのか?」
「うん、平気。優斗くんは今頃、女の子のところに遊びに行ってるから」

 ルイが遠くを見つめ、そう呟く。赤い首輪がやけに目立って見えた。

「……どうしても、北埜くんに会いたくなったんだ」
「え!?」
「君に会うだけで、何だかすごく心が落ち着く。なんでだろうね?」

 眉を歪め、困ったように笑うルイがこちらを見た。

「北埜くんはベータで、僕はオメガだ。惹かれ合うことは、ない。けど、僕は君に会いたかったんだ」

 「不思議だよね、本能より直感が働いてるみたい」。ルイが肩を竦める。この世界にとって、アルファ、ベータ、オメガという分類は重要な事柄なはずだ。しかし、垣根を通り越して、彼は俺と会いたがってくれている。その事実に、胸が疼いた。

「変だね。ふふ。君とは、何か違う絆を感じる……」

 思わず、ルイの手を掴んだ。冷え切ったそこを、強く握る。

「清泉。俺が必ず、守る」

 俺の言葉に、ルイが驚いたように目を見開いた。やがて、静かに頷く。

「あはは、何だろう? 君の言葉は、魔法だね。すごく落ち着くよ。何があっても、北埜くんなら守ってくれそうだ」

 そう、守る。俺は必ず、お前を守る。その言葉を飲み込み、彼を抱きしめる。最初は強張っていた体だが、徐々に緊張を解いていく。するりと背中に回ったルイの手に力が籠った。

「……清泉。福田と別れたほうがいい」
「無理だよ……できない。アルファには逆らえない」
「できる。俺がそばにいる」

 耳元で呟く。ビクンと跳ねたルイは息を呑む。
 彼はオメガという本能には逆らえない。けれど、彼の心を完全に支配することは出来ないはずだ。きっと打ち勝つことができる。

「清泉……?」

 黙り込んだルイの体に熱が帯びた。肩を揺らしながら呼吸を繰り返している。体を離し、顔を覗き込む。その頬は赤く染まり、どこか瞳が潤んでいた。「どうした?」。俺は慌てて彼に問いかける。しかし、応答はない。ただ、苦しそうに呼吸を繰り返し、額に汗を滲ませている。

「ご、め……ヒート、が……」
「ひ、ひーと?」

 苦しそうにしている彼は、どこか色っぽい。妙に腹の奥がウズウズとする感覚に襲われ、唾液を嚥下する。
 ────な、何だこれは?
 俺はすぐさまスマホを操作する。どうやらヒートとはオメガ特有の現象らしい。定期的に発情期が訪れ、制御が困難になるそうだ。
 そして、それが今、訪れてしまった。
 慌てふためく俺を見て、ルイが「ごめん、迷惑かけて」と息ぎれしている。
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