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生贄
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「僕はね、生贄になるんだ」
口に含んでいたアイスを噴き出す。ルイが驚いたように目を見開いた。「大丈夫? 咽せたの?」と心配そうな声をあげるルイを見つめた。
「……いけにえ?」
「そう! 生贄! 僕はね、この村で代々続いている人身供犠の供物に選ばれたんだよ? すごいでしょ?」
キラキラとした顔で、心底嬉しそうに語らう彼は、曇りのない真っ直ぐな瞳をしていた。俺は口から泡を吹き、後ろに倒れそうになった。
────田舎の穏やかな夏の日々を過ごすほのぼのストーリーじゃなくて、がっつりホラーじゃねぇか!
油断していた俺は、眩暈を覚える。
そうだ。俺の夢は何処かずれているんだった。忘れていた。やっと思い出し、息を吐き出す。
「お祭りのおおとりで、僕が火に炙られるんだ。是非、ケイトくんに僕が贄としての役目を果たすところを見てほしいな」
ニコッと微笑む彼は、この村の異常性と自分の置かれている状況に気がついていない様子だった。感覚が麻痺しているのか、洗脳済みなのか。俺はそんな彼にゾッとした。
「そ、そんなの、そんなのおかしい! なんでルイが生贄にならなきゃいけないんだよ!?」
「どうして怒っているの? 村を守る神様に捧げられる贄になることは、光栄なことなんだよ?」
「うるせぇ! 人の命捧げられて喜ぶ神様なんか、こっちから願い下げだ! そもそもこんな村、あと数十年もしたら滅ぶに決まってる。そのうち、この馬鹿でかい土地をうまく利用して、田舎風景に似合わないような風情もクソもないショッピングセンターができるんだ! 休日になれば賑わうぞ! よかったな、村の神様! 贄がなくても村は盛り上がって安泰だ!」
「け、ケイトくん、落ち着いて……」
怒鳴る俺を宥めるルイが顔を引き攣らせている。俺が拒絶反応を見せていることに納得していないらしい。
「ずっと、続いてきたことなんだよ。贄を捧げ続けたから、この村は守られて、今まで平穏に生活できていたんだ」
「そんなの思い込みだ! 生贄なんかなくてもこの村は平和だ! もし仮にこの村に災害が起こったと仮定して、それはたまたまこの地域で起こったってだけだ! 神様もクソもない! むしろ神様が人を捧げてを災害を防いでくれるならどの地域でも生贄をポンポン捧げてるだろ! それをやってないってことが答えだ! 神様なんていない! 幻だ!」
ルイの肩を掴み、揺さぶる。しかし、彼には何も響いていないらしい。「光栄なことなんだ。どうしてわかってくれないの?」と不審がっている。どうやら、この村では俺の考えの方がおかしい思想になるようだ。幼い彼に困惑の瞳を向けられ、思わず仰け反る。
「こ、こんなの、おかしい。ルイ、お前は間違っている……」
「ケイトくん、そんなこと言わないで。僕、明日のお祭り、すごく楽しみなんだ。だから、ねぇ……」
悲しげに顔を歪ませるルイを見て、俺じゃどうしようもないことに気がついた。こんな小さな体じゃ、大人たちに抵抗もできないし、彼を無理やりこの村から逃すこともできない。
────頼れる大人を、探さなきゃ。
そうしなければルイは贄の道に一直線に転がってしまう。俺は食べかけのアイスを全て口の中に放り込み、嚥下した。
「……ごめん、俺が間違えてた。明日、必ず見に行くよ。お前が贄として役目を果たすところを」
俺は吐きたくもない言葉を紡ぎ、彼へそう告げた。瞬間、ルイは花が咲いたように微笑む。「ありがとう、嬉しい。絶対に、絶対に見にきてね。僕、きちんと使命を全うしてみせるから」。少年の笑みは美しく、余計に残酷さを際立たせた。
アイスの棒を折り、苛立ちを抑える。
────誰か、頼れる大人を探さなくては。
ここはきっと、あの人たちが住んでいる場所だ。だから、俺の話を聞き入れてくれるはず。
俺は冷えた唇を舐め、息を漏らした。
口に含んでいたアイスを噴き出す。ルイが驚いたように目を見開いた。「大丈夫? 咽せたの?」と心配そうな声をあげるルイを見つめた。
「……いけにえ?」
「そう! 生贄! 僕はね、この村で代々続いている人身供犠の供物に選ばれたんだよ? すごいでしょ?」
キラキラとした顔で、心底嬉しそうに語らう彼は、曇りのない真っ直ぐな瞳をしていた。俺は口から泡を吹き、後ろに倒れそうになった。
────田舎の穏やかな夏の日々を過ごすほのぼのストーリーじゃなくて、がっつりホラーじゃねぇか!
油断していた俺は、眩暈を覚える。
そうだ。俺の夢は何処かずれているんだった。忘れていた。やっと思い出し、息を吐き出す。
「お祭りのおおとりで、僕が火に炙られるんだ。是非、ケイトくんに僕が贄としての役目を果たすところを見てほしいな」
ニコッと微笑む彼は、この村の異常性と自分の置かれている状況に気がついていない様子だった。感覚が麻痺しているのか、洗脳済みなのか。俺はそんな彼にゾッとした。
「そ、そんなの、そんなのおかしい! なんでルイが生贄にならなきゃいけないんだよ!?」
「どうして怒っているの? 村を守る神様に捧げられる贄になることは、光栄なことなんだよ?」
「うるせぇ! 人の命捧げられて喜ぶ神様なんか、こっちから願い下げだ! そもそもこんな村、あと数十年もしたら滅ぶに決まってる。そのうち、この馬鹿でかい土地をうまく利用して、田舎風景に似合わないような風情もクソもないショッピングセンターができるんだ! 休日になれば賑わうぞ! よかったな、村の神様! 贄がなくても村は盛り上がって安泰だ!」
「け、ケイトくん、落ち着いて……」
怒鳴る俺を宥めるルイが顔を引き攣らせている。俺が拒絶反応を見せていることに納得していないらしい。
「ずっと、続いてきたことなんだよ。贄を捧げ続けたから、この村は守られて、今まで平穏に生活できていたんだ」
「そんなの思い込みだ! 生贄なんかなくてもこの村は平和だ! もし仮にこの村に災害が起こったと仮定して、それはたまたまこの地域で起こったってだけだ! 神様もクソもない! むしろ神様が人を捧げてを災害を防いでくれるならどの地域でも生贄をポンポン捧げてるだろ! それをやってないってことが答えだ! 神様なんていない! 幻だ!」
ルイの肩を掴み、揺さぶる。しかし、彼には何も響いていないらしい。「光栄なことなんだ。どうしてわかってくれないの?」と不審がっている。どうやら、この村では俺の考えの方がおかしい思想になるようだ。幼い彼に困惑の瞳を向けられ、思わず仰け反る。
「こ、こんなの、おかしい。ルイ、お前は間違っている……」
「ケイトくん、そんなこと言わないで。僕、明日のお祭り、すごく楽しみなんだ。だから、ねぇ……」
悲しげに顔を歪ませるルイを見て、俺じゃどうしようもないことに気がついた。こんな小さな体じゃ、大人たちに抵抗もできないし、彼を無理やりこの村から逃すこともできない。
────頼れる大人を、探さなきゃ。
そうしなければルイは贄の道に一直線に転がってしまう。俺は食べかけのアイスを全て口の中に放り込み、嚥下した。
「……ごめん、俺が間違えてた。明日、必ず見に行くよ。お前が贄として役目を果たすところを」
俺は吐きたくもない言葉を紡ぎ、彼へそう告げた。瞬間、ルイは花が咲いたように微笑む。「ありがとう、嬉しい。絶対に、絶対に見にきてね。僕、きちんと使命を全うしてみせるから」。少年の笑みは美しく、余計に残酷さを際立たせた。
アイスの棒を折り、苛立ちを抑える。
────誰か、頼れる大人を探さなくては。
ここはきっと、あの人たちが住んでいる場所だ。だから、俺の話を聞き入れてくれるはず。
俺は冷えた唇を舐め、息を漏らした。
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