死神の憂鬱

夜猫

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第1章 出会い

二話 仕事

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 朝の支度を終え、外へ出ると、風が静かに吹く。
 篠上は小さく身震いすると、ふところから先程命から送られた手紙を取り出す。
「……」
 〝篠上先輩、至急死役所しやくしょへ〟
 手紙には達筆な字で書かれた短文。実に命らしいと篠上は思った。
 だが、短く書かれているのは結構だが、之だけでは重要な理由が分からない。
 死役所とは篠上・命、死神達の仕事場である。色々な役割があるのだが、全部説明するのは一日掛かりそうなので簡潔に言おう。

 役割でも表と裏がある。

 表側は主に現世うつしよの生物の魂を管理する。人が死んだ後、魂を迎えに行く。
 そして裏側は表側と違い、隠世かくりよにいる悪妖怪・悪霊を狩ったり、現世で騒ぎを起こす破落戸ごろつき妖怪、霊などを捕らえることを主にする。裏側は所謂いわゆる死神の特殊部隊だ。
 篠上もその、特殊部隊の一人である。

       * * *

 暫くして死役所の入口付近に着くと、其処に命が居た。命は篠上に気付くとパタパタと小走りで彼の元に駆け寄る。
「先輩!遅いですよ!!何十分待ってたと思ってるんですか!」
 前のめりになって怒鳴る命に、篠上は「30分程」と淡々と答える。
「ぐぬぬ…それより、早く死長室に行ってください!死長が待ってます!!」
「!?命、押すな…っ」
 命は篠上の背後に周ると背中を押し、強引に死役所へ入らせた。

       *死長室*

 命に若干強引に死長室に連れていかれた篠上。「はぁ…」と溜息を吐き部屋の奥へ進む。
 最奥に進むと其処には赤茶のソファがテーブルを挟んで向かい合い、その片方にはスーツを着た男が足を組みながら異常な程の量の、紙の束を睨みつけていた。
「…睦月」
 険しい顔で紙を睨んでいた彼に呼びかける。
 彼は死神達が働くこの死役所の死長――睦月。
 ブロンドの柔らかそうな髪に、藍色の鋭い釣り目。篠上と並ぶ程の容貌だ。
 睦月は篠上に気付くと、先程の目付きとは一変して、優しい眼差しを篠上に向ける。
「篠上、休日に済まないな」
 眉を下げ申し訳なさそうに謝る睦月。篠上は「構わん」とだけ言い、腰に下げている刀を近くの壁に立て掛け、睦月が座っている向かいのソファに腰掛ける。
「…で、何用だ?やけに資料が多いが…」
「閻魔の奴、最近サボり気味でな…彼奴の仕事が何故か此方に回ってくるんだ…迷惑極まりないな。今回篠上に頼みたいのは此れだ。よく目を通してくれ」
 睦月は手に持っている資料を篠上に渡す。

「…迷子の娘?」
 少しして、資料を見終わったのか、篠上は睦月に問い掛ける。
「あぁ。昨夜、不運な事故で亡くした娘の魂が何処かへ消えたらしい…最後に見たのは三途の川。若しかすると、川に流れて隠世に迷い込んだかもしれない…。このままでは悪魔やそこらの野良妖怪に喰われねん。至急探してきてほしい」
 篠上は睦月の言葉に一瞬顔をしかめる。三途の川には天使と鬼が数人居る。
 人間は死後七日経つと、死神達が強制的に三途の川へ連れて行くのだ。基本的死神は魂を三途の川へ連れて行くだけ。
 後は天使と鬼に任せるのだ。
 三途の川は三つの瀬があり、生前のごうによって川を渡らせる方法が違う。
 善人には橋を渡らせる、それを担当するのは天使。
 軽い罪人は浅瀬を渡らせ、重い罪人は流れの速い深瀬を渡らせる。これを担当するのは鬼だ。
 死神が出る幕ではない…。
 それに、少女の生前の前歴を見れば一つも罪を犯していない。重罪人ならば、川に流れ隠世に迷い込むことはある。だが善人は橋を渡る故に川に流れることはない。絶対に。

 若し流れるとしたら、自ら飛び込むくらいだ…。

 ‘真逆まさか飛び込んだのか…?’と篠上は考えたが、今は先ず少女を探すことが第一だ。「見つけ次第連絡しよう」と言うと、壁に掛けていた刀を帯に挿し、死長室を出た。
「隠世…か…」
 ボソ、と呟くと、遠くからバタバタと足音が聞こえた。
 聞こえた方に目を向けると、多分、全速力で走っているみことがいた。「篠上先輩!」と叫びながら篠上の方へ駆けていく。
 近くまで来ても速度を落とす事が無く、命は走る。篠上はギリギリのところで避けると、命は見事に死長室のドアに打ち当たる。
「…命、そんなに走って如何した?」
 ドアに打つかったのを気にせずに篠上は問う。命は「うぅ」と唸り声を上げ乍ら、額を押さえる。
「いたた…あ、篠上先輩!死長から話は聞きましたか?」
 前のめりになって話す命に、篠上は軽く冷や汗を垂らす。
「あぁ…娘の捜索だな」
「はい!その事なんですが、靕先輩がその子を見つけた様で…!」
 暫くの沈黙…。
「…靕?何故彼奴が…」
 靕、という言葉に酷く顔を顰めると、嫌そうにブツブツと文句を垂れる。
「…取り敢えず、場所を教えてくれ。命は後でこの事を睦月に伝えろ」
「はい!その子は…―――」

       * * *

「……」
 篠上は命に少女の場所を教えてもらい、其処に到着した直後…。
 橙色の髪が特徴的な男が「ん?」と篠上の方へ振り向くと、効果音が付きそうな程の笑みを浮かべた。
「お!篠上ジャーン!!」
 少し掠れたハスキーボイスで篠上に声を掛ける男。
 彼は――まこと
 篠上と同じ死神であり同僚である。
「…例の娘は何処だ」
「あっちに居るヨ。何か、様子が可笑しくてサー…」
 靕が目を向けた方にはうずくまっている少女と、その周囲を飛び交っている鬼火が居た。
「…鬼火…?」
 何故此処に鬼火が…?篠上は呟いた。
 鬼火は普段、現世に居る。
 鬼火は人間の魂とよく似ていて、妖怪や悪魔に狙われることが多い。そんな鬼火が隠世にいるなんて、とても珍しいのだ。
 少女が連れてきたのだろうか?鬼火は霊感が強い者、霊力のある者を好み、憑いてくる。
「…取り敢えず、私はあの娘を保護する。靕は周囲に妖怪、悪魔が近寄らないよう見張って呉れ」
 靕は「面倒…」とグチグチ文句を言い乍らも了承した。


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