異世界に落っこちたおっさんは今日も魔人に迫られています!R18版

水野酒魚。

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第二十八話 契約は

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「……最後に、一つだけ」

 真剣な顔をして、アルダーが言う。それがあんまり真面目な顔だったから、泰樹たいきは姿勢を正して口をつぐむ。

「屋敷に帰り着いて、シーモスに会ったら伝えてくれ。『契約は継続だ』と」
 暗い眼をして、アルダーは言う。アルダーにとって魔獣でいると言うことはどういうことなのだろう。泰樹には、彼が心からそれを楽しんでいるとは思えなかった。

「契約は、継続……なあ、それって、アンタは次の双満月そうまんげつまで魔獣でいるって事だよな?」
「ああ。そうだ」

 きっぱりと、アルダーはうなずく。その紫の眼に、喜びの色は無い。

「なんで……アンタは何で、魔獣でいることを選ぶんだ? その『呪い』、解くことは出来ないのか?」

 罪悪感から逃れるために呪いを『反転』したとは言われたが、今もそうなのだろうか。
 だから、思わずたずねてしまった。

「無理だ。『呪い』を反転する事は出来ても、解くことは出来ない。それに、魔獣でいることは、俺が……俺に出来る唯一の贖罪しよくざいだ」

「……贖罪ってのは、カミさんと子供を……その……」

 食い殺した。アルダーはそう言った。それは彼の本意ではないのだ。だから、家族の事を口にする度に、アルダーは悲痛な表情をする。

「……そうだ。彼女らをあやめた罪は……どんなに時が経ったとしても、けして消えない」

 アルダーは努めて平静な顔をしようとしているけれど、その眼は確かに悲鳴を上げているように揺れていて。

「なあ。それって、アンタの意志だったのか? カミさんと子供にひどいこと、したのはさ」
「なにが言いたいんだ? タイキ」

 アルダーの気持ちの柔らかく弱い部分に、泰樹は踏み込もうとしている。アルダーはそれを拒絶するように、眉間に皺を寄せた。

「そうじゃないだろ? アンタはそんなことしたくなかった。なら、それは事故じゃねえか」
「……だとしても、事実は消せない」

 アルダーの紫の眼は黒くかげって、かたくなに泰樹の言葉をこばもうとする。それを、放っておけない。もし、自分がアルダーと同じ立場に置かれたら。詠美えみや子供たちに、取り返しのつかない事をしてしまったら。くややんでも悔やみきれないと思う。だからと言って逃げ出してしまうことが、本当に贖罪になるというのか。

「そう、かも知れねえ。……でもさ、そのためにアンタがいろんな事忘れて、魔獣になってるってのはきっと、何か違う」
「お前に……何が解る?」

 アルダーは怒りをにじませて、冷たく言い放つ。それでも泰樹はひるまずに、言葉を続けた。

「うん。俺はアンタと同じ立場になったこと無いから、アンタのホントの気持ちとか、そんなのは解らねえ。でもさ、アンタが思い出さなかったら、誰がアンタの家族の事を思い出すんだ?」
「……!?」

 アルダーが、泰樹の言葉にショックを受けたように大きく眼を見開いた。
「思い出すのは苦しいかも知れねえ。でも家族の思い出は苦しいモノだけじゃないだろ? 大事な思い出も、みんな忘れて生きるって事を家族は望んでるとアンタは思うか?」
「……っ大事な、思い出……」

 絶対にあるはずなのだ。幸福に暮らした日々。喜びと優しさに包まれていた思い出。
 だから、苦しむ。失って、ようやくそれがかけがえのないモノだと気付く。

「……あーあ! 早く家に帰りてーな! 家族に会いたい!」

 ベッドに寝転がった泰樹を見下ろして、アルダーは小さくつぶやいた。

「俺は、お前がうらやましい。お前には帰るべき場所がある」
「アンタにだってあるだろ? 帰らなきゃいけない場所。……きっとイリスは心配してるぜ。シーモスもだけどさ」
「そうだな」

 アルダーは苦みを含んで、それでも確かに微笑んだ。

「さあ、もう眠れ、タイキ。朝になったら忙しく……」

 そう、アルダーが言いかけた時だった。
 どんどんと、部屋の扉がノックされる。

「『慈愛公』のご家人様! 大変でございます!」

 押し殺した女の声だ。アルダーが部屋の扉を開けると、そこには村長の妻が寝間着姿で立っていた。

「何事だ?」
「『暴食公』のご配下が、タイキ様と黒い魔獣を探しておられます!」

 一瞬で、アルダーは気持ちを切り替えたようだ。その表情が引き締まる。

「……ご婦人、この家に武器はあるか?」
「護身用のショートソードくらいなら……」
「それでいい。お貸し願えないか?」
「は、はい……!」

 村長の妻は、慌ててショートソードを取りに行く。

「タイキ、剣は使えるか?」
「え、あ、使えない!」
「解った。ではお前はここに隠れていろ」

 アルダーは袖をまくって、良くきたえられた腕をむき出しにする。その腕にはいくつかの傷跡。どれも、刃物で傷つけられたような跡だ。

「あのさ、アンタは剣、得意なのか?」
「ああ、俺はかつて騎士だった。ショートソードは基本中の基本だ」

 そう言って静かな眼をしているアルダーに、得意げな所は無い。ただ淡々と事実を話していると言った感じだ。それがかえって頼もしい。

「……お待たせいたしました!」

 村長の妻が持ってきたショートソードを受け取って確認すると、アルダーは部屋を出る前に振り返った。

「ご婦人、もしも俺が負けたら、タイキを村の外に逃がしてやってくれ。頼む」
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