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Act02 ホックギール東端部 アミーアロゼ郊外の廃墟地区
Act02-01
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〝Push ! Push ! Push ! Push ! 〟
という四連の音。
何か篭ったような音が混じり、壁片の毀れる音が後に続いた。
「オリゴッ!?」
右方を振り返ったカレンは男の肩を揺すった。壁にもたれたまま脇腹を押さえている。
「だ、大丈夫です…。班長……」
オリゴの声がカレンのゼップメット(ゼッパー用のヘルメット)の中で軽く響いた。
――これだけの血ダッ。大丈夫なはずはなイッ。
オリゴの押えている指の隙間から見る見る間に血が溢れてゆき、それが黒いゼップスーツの上をシュス(直滑降)のように滑り落ちてゆく。
「チッ…。ゼッパー(突撃艇乗り)が地に足をつけて、血を流すなんて……様になんねえ」
「冗談を言ってる場合カッ!」
壁の向う側では、広い通りを挟んだビルの廃墟に敵が集まり始めている。
他の者はすでに壁の開口部や途絶部からSZY‐crK2(スヴィツニア共和国が開発したアサルトライフルをクリミナポリスがまねて造ったもの)を連射する音を響かせていた。
その間、敵からも激しく連射を反され、ほとんどはカレン達が潜んでいる分厚い壁に阻まれていたが、時おり数発が貫通しては体を掠めていった。
「班長ッ。AMR(Anti-material rifle=対物狙撃銃)を持ってる奴がいますッ!」
「わかってるッ。ショーティッ(シュワンツの通称)!」
――チッ、まんまと伏兵にはめられたカッ!
カレンはオリゴの手の上から傷口を押えながら辺りを見回した。
「マズいっスよッ! このままじゃ、50口径に壁もろとも串刺しにされちまうッ!」
「IV(イヴァンの通称)ッ! 泣きごとを言ってんじゃないヨッ!」
「ゥアッ!」
「コトキッ!」
イヴァンの叫ぶ声にそちらを見るとコトキがその巨体を震わせていた。股間節から血を噴き上げ、体を痙攣させている。血の量からして動脈相を射抜かれたらしい。要所要所はダイラタントアーマー(ダイラタンシーを利用したゼッパー用の薄くしなやかな防弾・耐衝撃スーツ)で鎧っているのだが、その隙間に被弾したのである。
「コトキッ! コトキーッ!」
イヴァンがコトキの体を硬く抱き締める。体の震える間隔が徐々に伸びてゆき、それに反比例して震える激しさが増してゆく。そして筋骨隆々としたコトキの体はイヴァンに抱かれたまま動かなくなると、ゆっくりと弛緩していった。
……もう、呼吸はしていない。
呆然とし、その光景を見つめていたカレンだが、
〝Quing ! 〟
という音と共に、前のめりに倒れた。
「zzbz班zzbzbb班長zzだいzzじょzbbz……」
カレンは両手をついて頭を振った。
――まるでジャンク屋ボミーが腰にぶら下げている、あのハンマーで後頭部を殴打されたみたいダ……。
軽い脳震盪を起こし、意識が朦朧としている。
バイザーに仕込まれいているHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が一時的に全てを表示しており、ライトグリーンの線やら赤いロックオンマーカー、その他色とりどりの文字等が重なり、それが彼女の顔に投影されていた。
ゼップメットを叩いてみる。
ほとんど期待していなかったのだが、意外にあっさりとそのバグディスプレー(誤作動ディスプレー)は消えた。
「zzb班長ッ……zz、大丈夫zbz……かッ!」
音声の方も、徐々にではあるが回復してきている。
「大丈夫だっ……ショーティ……」
「zbあ~あz。こんなにzzヘコましzちゃって~」
カレンを抱き起こしたシュワンツが、彼女のメットの後頭部を撫でた。
どうやらAMR(対物狙撃銃)を後頭部に喰らったらしい。角度が良かったのだろう。カレンはメットを弾かれただけで済んでいた。
「良かったですね~。ゼップメットじゃなく普通のメットだったら、今頃俺は班長の脳ミソのパテを目にしてるところですよ。いくら班長のものとはいえ、そいつは勘弁だな~……」
――お前は……っ。
弾丸が飛び交っている最中でさえ、締まりがない。しかし、それがこの男の長所でもあった。
「は……班長……。い、行ってください……」
「オリゴっ……!」
「や、ヤバイですよ……こ、このまま…じゃ……」
「おいおい、マイティボーイ(オリゴの通称)ッ」
そう言ってシュワンツがオリゴの肩を抱いた。
「ショ、ショーティ……。どうやら…賭けは……、俺の負けらしい……」
「何言ってんだよっ……、オ、オイッ!」
「お前と会えて……楽しかったぜ」
「おいッ、マイティ」
「班長のことッ! 頼むわ……」
オリゴはシュワンツの肩を掴むと、嗚咽を漏らしながら立ち上がった。そして首にかけていたものをちぎるとシュワンツに手渡した。
二人がどのような表情を湛えているのか、彼らの化鏡変光式バイザーが鏡面の輝きを呈しているため、カレンからは確認できなかった。
オリゴがカレンの方に向き直る。
「自分が活路を開きますッ。その隙に、ココを離脱してくださいッ」
と敬礼して見せる。
「おイッ!」
と言って、カレンが制そうとした時である。再び彼女のメットが不調をきたした。
狂ったオートレディオのようにイヤパッドが高周波の悲鳴をあげ、HMDが一斉にバグディスプレーを点滅させると、カレンは視界を失っていた。
「ザーzzbzそれzzbでzzはッ! zzごbzz無事zzでzッ!」
オリゴは両手に持てるだけ持ったグレネード(手榴弾)のピンをシュワンツに抜かせ、その片手分を一気に壁の向うへ投げつけた。そして、片手でSZY‐crK2を連射しながら、わざと進行方向とは逆に駆け出していった。
激しく、呼応する銃撃の音。それが、離れた場所に響いた。
シュワンツとイヴァンはカレンを抱え、走り出していた。
遠方で、複数のグレネードが爆発する音が重なって轟く。
ほどなくして、銃声はやんだ。
何かを叫ぶ声が聞こえたが、その内容も聞き取れぬほど、すでに遠く離れていた。
カレンは力の抜けた体を、ただ、シュワンツ達に預けていた。
――無力ダ……。ゼップチェイサー(人型突撃艇)のないアタシは…これほどまでに無力なのカ……。
バイザーが映しだすバグディスプレーの中、ランダムに浮かび上がっている文字の上を、
〝O・R・I・G・O……〟
というアルファベットを抽出しては、カレンの目は、まるでそれをロックオンするかのように辿っていた。
何度も、何度も……。
やがて、耳鳴りにも似た頭痛の中、カレンの意識は薄れていった……。
という四連の音。
何か篭ったような音が混じり、壁片の毀れる音が後に続いた。
「オリゴッ!?」
右方を振り返ったカレンは男の肩を揺すった。壁にもたれたまま脇腹を押さえている。
「だ、大丈夫です…。班長……」
オリゴの声がカレンのゼップメット(ゼッパー用のヘルメット)の中で軽く響いた。
――これだけの血ダッ。大丈夫なはずはなイッ。
オリゴの押えている指の隙間から見る見る間に血が溢れてゆき、それが黒いゼップスーツの上をシュス(直滑降)のように滑り落ちてゆく。
「チッ…。ゼッパー(突撃艇乗り)が地に足をつけて、血を流すなんて……様になんねえ」
「冗談を言ってる場合カッ!」
壁の向う側では、広い通りを挟んだビルの廃墟に敵が集まり始めている。
他の者はすでに壁の開口部や途絶部からSZY‐crK2(スヴィツニア共和国が開発したアサルトライフルをクリミナポリスがまねて造ったもの)を連射する音を響かせていた。
その間、敵からも激しく連射を反され、ほとんどはカレン達が潜んでいる分厚い壁に阻まれていたが、時おり数発が貫通しては体を掠めていった。
「班長ッ。AMR(Anti-material rifle=対物狙撃銃)を持ってる奴がいますッ!」
「わかってるッ。ショーティッ(シュワンツの通称)!」
――チッ、まんまと伏兵にはめられたカッ!
カレンはオリゴの手の上から傷口を押えながら辺りを見回した。
「マズいっスよッ! このままじゃ、50口径に壁もろとも串刺しにされちまうッ!」
「IV(イヴァンの通称)ッ! 泣きごとを言ってんじゃないヨッ!」
「ゥアッ!」
「コトキッ!」
イヴァンの叫ぶ声にそちらを見るとコトキがその巨体を震わせていた。股間節から血を噴き上げ、体を痙攣させている。血の量からして動脈相を射抜かれたらしい。要所要所はダイラタントアーマー(ダイラタンシーを利用したゼッパー用の薄くしなやかな防弾・耐衝撃スーツ)で鎧っているのだが、その隙間に被弾したのである。
「コトキッ! コトキーッ!」
イヴァンがコトキの体を硬く抱き締める。体の震える間隔が徐々に伸びてゆき、それに反比例して震える激しさが増してゆく。そして筋骨隆々としたコトキの体はイヴァンに抱かれたまま動かなくなると、ゆっくりと弛緩していった。
……もう、呼吸はしていない。
呆然とし、その光景を見つめていたカレンだが、
〝Quing ! 〟
という音と共に、前のめりに倒れた。
「zzbz班zzbzbb班長zzだいzzじょzbbz……」
カレンは両手をついて頭を振った。
――まるでジャンク屋ボミーが腰にぶら下げている、あのハンマーで後頭部を殴打されたみたいダ……。
軽い脳震盪を起こし、意識が朦朧としている。
バイザーに仕込まれいているHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が一時的に全てを表示しており、ライトグリーンの線やら赤いロックオンマーカー、その他色とりどりの文字等が重なり、それが彼女の顔に投影されていた。
ゼップメットを叩いてみる。
ほとんど期待していなかったのだが、意外にあっさりとそのバグディスプレー(誤作動ディスプレー)は消えた。
「zzb班長ッ……zz、大丈夫zbz……かッ!」
音声の方も、徐々にではあるが回復してきている。
「大丈夫だっ……ショーティ……」
「zbあ~あz。こんなにzzヘコましzちゃって~」
カレンを抱き起こしたシュワンツが、彼女のメットの後頭部を撫でた。
どうやらAMR(対物狙撃銃)を後頭部に喰らったらしい。角度が良かったのだろう。カレンはメットを弾かれただけで済んでいた。
「良かったですね~。ゼップメットじゃなく普通のメットだったら、今頃俺は班長の脳ミソのパテを目にしてるところですよ。いくら班長のものとはいえ、そいつは勘弁だな~……」
――お前は……っ。
弾丸が飛び交っている最中でさえ、締まりがない。しかし、それがこの男の長所でもあった。
「は……班長……。い、行ってください……」
「オリゴっ……!」
「や、ヤバイですよ……こ、このまま…じゃ……」
「おいおい、マイティボーイ(オリゴの通称)ッ」
そう言ってシュワンツがオリゴの肩を抱いた。
「ショ、ショーティ……。どうやら…賭けは……、俺の負けらしい……」
「何言ってんだよっ……、オ、オイッ!」
「お前と会えて……楽しかったぜ」
「おいッ、マイティ」
「班長のことッ! 頼むわ……」
オリゴはシュワンツの肩を掴むと、嗚咽を漏らしながら立ち上がった。そして首にかけていたものをちぎるとシュワンツに手渡した。
二人がどのような表情を湛えているのか、彼らの化鏡変光式バイザーが鏡面の輝きを呈しているため、カレンからは確認できなかった。
オリゴがカレンの方に向き直る。
「自分が活路を開きますッ。その隙に、ココを離脱してくださいッ」
と敬礼して見せる。
「おイッ!」
と言って、カレンが制そうとした時である。再び彼女のメットが不調をきたした。
狂ったオートレディオのようにイヤパッドが高周波の悲鳴をあげ、HMDが一斉にバグディスプレーを点滅させると、カレンは視界を失っていた。
「ザーzzbzそれzzbでzzはッ! zzごbzz無事zzでzッ!」
オリゴは両手に持てるだけ持ったグレネード(手榴弾)のピンをシュワンツに抜かせ、その片手分を一気に壁の向うへ投げつけた。そして、片手でSZY‐crK2を連射しながら、わざと進行方向とは逆に駆け出していった。
激しく、呼応する銃撃の音。それが、離れた場所に響いた。
シュワンツとイヴァンはカレンを抱え、走り出していた。
遠方で、複数のグレネードが爆発する音が重なって轟く。
ほどなくして、銃声はやんだ。
何かを叫ぶ声が聞こえたが、その内容も聞き取れぬほど、すでに遠く離れていた。
カレンは力の抜けた体を、ただ、シュワンツ達に預けていた。
――無力ダ……。ゼップチェイサー(人型突撃艇)のないアタシは…これほどまでに無力なのカ……。
バイザーが映しだすバグディスプレーの中、ランダムに浮かび上がっている文字の上を、
〝O・R・I・G・O……〟
というアルファベットを抽出しては、カレンの目は、まるでそれをロックオンするかのように辿っていた。
何度も、何度も……。
やがて、耳鳴りにも似た頭痛の中、カレンの意識は薄れていった……。
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