傘華 -黒き糸-

時谷 創

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第20話 本体

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「んんんっ!」

扉が開くと同時に少女のくぐもった声が室内に響き渡る。

すぐに声が聞こえてきた方向に目をやると、
そこには横になった少女の姿があった。

少女は何かを言おうとするが、口、体、足と闇蜘蛛の糸で
縛られているため、聞き取る事ができない。

「琴音、あれが響の妹か?……って危ない!」

上方で何かの気配を感じたため、すぐさま琴音を抱き抱えると
手前の部屋に一度下がった。

琴音の無事を確認しつつ、気配があった場所に目を向ける。

「これが闇蜘蛛の本体だな」

視線の先には体長1mほどの闇蜘蛛がぶら下がっており、
こちらに向かって強い圧力をかけてくる。

「それくらいで参る我ではないぞ?」

こちらも闇蜘蛛に敵意を向けながら、闇蜘蛛の体から出ている
触手のようなものに目を配る。

「少女に繋げてエネルギーを抽出しているようだな。
 でもそれは引き剥がした方がいいと思うぞ、闇蜘蛛」

「人間の分際で、我を脅すとは良い度胸だ」

不気味な声色に鳥肌が立つのを感じつつも、
闇蜘蛛に屈しない強い心で1歩前に出る。

闇蜘蛛はまだ天井に釣り下がったままだが、
いきなり沙耶に繋がる触手を引き剥がすより、
正攻法で戦ながらこちらに注意を引きつけた方が確実だろう。

「沙耶ちゃんだよね。お兄さんに頼まれて、助けに来たから安心してくれ。
 そこで静かに待っていてもらえれば、闇蜘蛛を叩き伏せるから」

傘に注ぐエネルギーを高めながら、ゆっくりと闇蜘蛛との距離を詰めていく。

「おもしろい。その力を我の贄にしてやろうぞ!」

闇蜘蛛が不気味な声をあげると、素早い動きで床に降り立ち、
正面から向かってくる。

「動きを見定めれば、始動から攻撃の予測は可能だ!」

闇蜘蛛が糸を放出すると読んだ俺は、その場で半歩横に飛んで交わし、
その勢いのまま闇蜘蛛の足を薙ぐ。

狙い通り闇蜘蛛の足をとらえると、闇蜘蛛の足1本を砂と化した。

「ぐぅ……」

低い唸り声をあげながら闇蜘蛛が後ろに下がるが、
そこで手を緩めずに追撃する。

「思い通りになると思うなよ、若造!」

闇蜘蛛がそう告げると、不気味な雄叫びをあげて、それが地下室内に反響する。

「うっ……」

闇蜘蛛の雄叫びに体中が竦み上がり、手足が動かせなくなった。

「琴音……!」

闇蜘蛛が俺の横を通過するのが見えたが、

ワンテンポ遅れたため、闇蜘蛛の動きを目で追う事しかできない。

闇蜘蛛は笑い声をあげながら、琴音に向かって糸を放出する。

「んんっー!」

琴音が叫びながら、その場にしゃがみこむ。

「琴音様!」

琴音に糸がかかる寸前、響が琴音の元に駆け付け、
琴音を抱きかかえて前方に倒れこむ。

「響。お主の妹がどうなっても良いと申すのか?」

闇蜘蛛は怒りを露にしながら、響に問いかける。

「東城様なら絶対にお前を退治してくれる!
 だから、もう言いなりにはならない!」

「人間とは馬鹿な生き物だな。
 それなら望み通りお前達に死を与えよう!」

まだ琴音を抱えたままの響に向かって、闇蜘蛛が糸を放出する。

「来ると思ったぜ、闇蜘蛛! 『演舞』!」

その行動を見越していた俺は、響の近くまで走り込んでおり、
響の目の前で畳まれた傘の下部を手で叩いた。

叩くと傘がバッと開いた状態となるため、
俺は舞を舞うようにくるくると傘を回転させて、飛んでくる糸を祓う。

「やはりお前は、傘華使い(かさはな つかい)だったか」

「傘華使い?」

響がそう問い掛けるが、「その話は後だ」と告げて、
闇蜘蛛の行く方向に全力で走り込む。

行き先は闇蜘蛛の最後の望みである沙耶の元だ。

「闇蜘蛛! 沙耶ちゃんには指先1本、触れさせないぞ!」

しかし闇蜘蛛の動きが思ったより速く追いつけないため、
すぐに別の手に切り替える。

「東城さん!」

「誠!」

「んんん!」

響、琴音、沙耶の声が部屋に響く中、俺は傘を後ろ手に構えて
闇蜘蛛まで走り込んだ。

その動きに反応して、闇蜘蛛も沙耶に向けて糸を放出する。

「鎌鼬(かまいたち)!」

沙耶に向かう糸を傘ではたくと、その勢いのまま体を回転させ、
遠心力を乗せた上である部分に向けて、素早く薙いだ。

傘から発した真空の刃が、沙耶と繋がった闇蜘蛛の触手のような
ものをとらえて、吹き飛ばした。

「ぐうぁぁ!」

闇蜘蛛は狂ったような叫び声をあげるが、それに手を緩める事なく飛び掛かり、
傘を全力で降り下ろす。

「これで終わりだ! 光翼(こうよく)!」

傘に眩い光を宿らせ、闇蜘蛛を一閃する。

「ば、馬鹿な……」

光翼で闇蜘蛛の全身を砂と化して、糸で縛られていた沙耶が解放される。

「沙耶!」

響は沙耶が闇蜘蛛から開放されるのを見て、沙耶の元に駆けつける。
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