ルタ・パリィ伝

ゼルダのりょーご

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プロローグ

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 魔王を撃ち滅ぼしたのは、つい先日のことだ。
 我が国に平和がもどった。
 国中に安らぎが帰って来た。
 いつも曇っていた空も晴れ晴れと光輝くようだ。

 思えば強風や激しい雷雨ばかりの連続だった。
 あの日この日。人生が雨宿りと野宿のくりかえし。
 天候すら支配下に置く魔王軍の所業に人類は生気を失いつつあった。

 魔王が降臨した『アレフガルルル』大陸へ旅立って12年の歳月が流れた。
 大陸の脇に浮ぶ小さな列島が我が国だ。

 旅立った頃は「勇気」というギフテッドにより選ばれただけだった。
 王や高官たちは勇気ある者を広く募っていた。

 近隣諸国からも多くの冒険者たちが魔王城に向かい旅立った。
 その多くは魔王の軍勢の前に敗れ砕け散った。
 人の命の儚さ。
 遺された家族が戦士の訃報に涙するのも束の間のこと。

 魔王の姿を目に焼き付けておきながら無事に生還したものなどいない。
 負傷兵をあちこちで見かけるが配下の討伐で手負いになった者たち。

 病のなき者は子供でも出兵を任ぜられる。
 その悪夢からの脱却を誰もが愛願とするのならば。
 悲嘆に暮れる行為は兵たちへの冒涜。
 涙乾く間もなく神託ある者は戦場へ送られていった。

 十六歳で受ける本来の神託の「儀」より早かったがそれだけ国に危機が迫っていた証なのだ。

 身寄りのないボクにも思いがけず「儀」が回って来た。
 だめ元で受けさせられたのだ。
 神託の「儀」で賜ったギフトが「勇気」だった。
 そのようなスキルは誰も聞いたことがないとういのだ。
 だが勇気ある者はどんな苦難も乗り越え、恐れを抱かない者と。
 神官たちはこぞって、王室に報告をいれた。

 その時点ではまだボクは穢れ知らずの5歳の幼児だった。
 お前が勇者として選ばれたのは間違いない。
 高官たちの意見は幼いボクにとっては決めつけでしかなかった。
 大人たちと識者たちの強い推しにより、王に謁見することになった。

 完膚なきまでに討ち滅ぼさねばならない死闘だった。
 死闘の末に人類側が勝利を収めたのだ。
 ボクは生き残った。
 魔王を討ち取った。
 とどめを差したのも、仲間を庇いつづけたのもボクだった。
 誰の前でも勇気ある者として手本となることを強いられてきた。

 辛かった。
 泣き崩れたかった。
 だれかの温かい胸で、たくましい腕の中で仔犬が眠るように。
 だけど、この口がそれを他者に語ることはない。

 生まれながらにして勇気ある者が証明してよいのは「勇気」だけなのだ。

 そうしてボクも故郷に戻って来れた。
 わがふるさとの街にも春の訪れが。
 人々の笑顔は道の端にまであふれている。

 勇者としての使命をまっとうした。
 王様に深く感謝され、お礼の言葉を賜った。
 城内の人からも、「ありがとう!」と「万歳!」を雨あられのように贈られた。
 賞賛がいっぱい。
 この胸にいっぱい。

 そして宴が終わった。

 つぎの日になり、長い休日が始まる。
 これからボクはなにをする。
 なにをしていく。

 これまでは戦いと負傷の連続だった。
 敵わない奴に出会えばもっと戦いの研究をした。
 更なる戦闘術の開発に時間をかけた。
 人知れず、山の奥にこもったこともある。

 この先の日常にそれが訪れることはない。
 すべての傷の手当ても終わり、健康そのもの。

 勇者だったからどんな苦難も乗り越えてきた。
 これからも何だってできるさ。

 ボクの夢って何だった?
 真実にやりたいことはあったか。
 この旅路を終えたらいつか子孫の顔を拝みたい。
 相手がいればの話だけど。
 月並みな夢ならいつも描いてきた。

 魔王軍の討伐に参加したのは5歳のときだった。

 魔王はもういない。
 どこにもいない。
 手下も消えた。
 すべて消え去った。
 監視塔より眼下を望む。
 見渡す平原に一匹のスライムも歩いていない。
 人間の暮らす街のそばに日常的にあった邪悪な気配はすっかり消えた。

 平和が訪れたのだ。
 平穏がもどったのだな。

 武器屋へ顔を出すと、主人は店をたたむと寂しそうにいった。
 ついで防具屋へ寄ると、主人は売れない物では勝負できないと田舎へ帰る。
 道具屋はただの薬屋になると言っていた。

 これまで通り変わらぬ道で過ごす者。
 ちがう道を歩みだす者。
 行き交う人々は様々なのに。

 はてさてボクはどこへ行く。

 そういや先日、笑顔で見送る王様に……。
「後日、城へやって来い。お前に渡すものがある」

 褒美はすでにたんまり頂いたのに。
 なにをくれると言うのだろう。


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