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 駒次郎と街道で出会わなければ、10分ほどで宿場町に着いていた。
 それが何処だともわからずにだ。
 彼との接触で、ゴロツキを相手に10分ほど消費してしまった。
 ここは江戸ではなく、ツナセという宿場へ通じるツナセ街道だと知った。

 そこへ向かう道中だ。
 彼に道すがら事情を聞くことで、さらに20分が経過した。
 祠を出て、程なく街道へ出たので少なくとも、合わせて30分が経過した。

 街道を東へ歩き出すと、すぐ彼らの存在を忍びの聴覚で感知した。
 その時も数分が経過したはずだ。
 これで、40分弱。
 こちらの計算上ではあと10分ほどで宿場へ着くだろう。到着までの時間は約50分となる。
 そこまで行ければ、この世界で50分間を生きたということだ。

 いきなり戦闘なんかすれば、命を落として失敗だった可能性もある。
 だが、すんなりと人の助けとなれた。
 すがすがしい体験に心が躍った。
 一時しのぎだが。その勝因は先手必勝にあった。
 俺は、ぐだぐだとした相手の事情を聞いているうちに、相手のペースに持ち込まれると判断したのだ。

 人に意地悪をする連中には、嫌というほど心当たりがあるからだ。
 理屈で勝っていても道理に反する行いをするからヤクザなのだ。
 部外者の正論など通らない。ならば物理でいくだけだ。俺としても、相手に手を出させて様子を見ていられるほど、立ち回りに自信はない。

 それなら忍者の特技で素早く打ちのめすのが、有効だ。
 特技にイシツブテがあり、その命中率が30とあった。あくまで確率だから、どこを狙うかが重要だと考えたのだ。
 悪人といっても、出会い頭に人様に石をぶつけるには勇気がいる。
 それも大人より威力が大きいことは表示で確認済みだし。
 最初は、足を狙った。それが少し外れて顔に着弾したようだ。上下にずれるとその範囲だとわかった。左右に外れてもその範囲なら、ゴロツキたちが逃げ場を塞ぐ対策として俺たちの周囲を囲ったことは、返って好都合となった。

 奴らの立ち位置がばらついているよりも、どこを向いても均等な間隔でいてくれたことだ。これで左右にも外れる確率は下がる。
 下がるというより、狙った者から外れた所に他の者がいただけなのだ。
 連投すれば、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。という結果がでる。
 ここに無関係な者がいなかったことが幸いした。そこは今後気をつけねば。

 俺は生前、学友と草野球を経験した。投げるのも、打つのも下手で結局、仲間外れになった。
 どちらも命中率が関係していた。ボールを打つのもこの確率とわかっているなら三振ばかりはしなかったのにな。


 ◇


「グン、宿場に着いたら、おれがいい宿を案内するよ」
「いい宿? 雨露をしのげればそれで良いんだよ。目立つ所は控えたい」
「もちろん、上等って意味じゃないよ。旦那様と働き手の人の良さだよ、心配しないで期待しててよ」

 なんだか駒次郎が張り切っているように思える。
 案内は嬉しく思う。あるに越したことはない。
 これで宿の確保に手間取らなくて済むわけだし。
 
「料理が美味しくて、湯も評判で、部屋もたくさんあるんだ。安くて客足も多いからかえって目立つことがないと思うよ」
「なるほど、一理あるな。大きな宿で人の出入りが多い所か。よし、宿の方はコマさんに任せるよ」

 彼は彼で大変な事情を抱え込んでいるというのに、助けた礼だといい、道案内と宿の紹介までしてくれるというのだ。

 宿場にたどり着いた。
 多くの人が行き交っていた。
 宿までの道のりも案内があるので、すんなりと到着した。

「ここがコマさんのオススメか?」
「はい。アヒルノ宿屋さんです。おれの兄ちゃんが奉公させてもらっているんだ」

 どおりで強く推してくるわけだ。

「お兄さんがね。下働きですかな?」
「風呂の薪を割って、風呂釜の火加減を任されています」
「ほう、では早速部屋を取るとしようかな」

 駒次郎が客引きをして来たかのように、俺を案内した。
 空いていた小部屋をひとつ借りてくれた。
 早速、風呂に案内してくれようとしたのだが、俺は断った。
 なぜなら女神と別れて一時間も経っていないからだ。
 走って汗をかいたわけでもない。ゴロツキたちは軽くひねった程度だし。

 それより水飴せんべいを食べ損ねたせいか、腹が鳴っているようだ。

「風呂は食事のあとでいい。2人前、自慢の料理を頼む」
「そんなに食べるんですか?」
「なにをいってるんだ。コマさんの分に決まってるだろ」
「おれも食べていいの?」

 兄がここで働いていたのは意外だったが、追われの身だぞ。
 このまま長屋に帰っても、連中に捕まるのは時間の問題だ。

「コマさんも一緒に泊まるんだよ。このまま家に帰ってもヤクザが諦めると思うか?」
「……いや」
「そもそも、俺が隠れる理由はないだろ。俺強えし。コマさんをかくまうための宿だ」
「……ッ! う……かたじけない」

 町民がいう台詞だったか。
 俺のための宿だが、君にいなくなられては俺が困るんだよ。
 スキル獲得のためのポイントが欲しいんだ。問題児じゃなければ人助けの難易度が下がるからだよ。
 
「泣くなよ、うまいもんでも食べて元気をだして」
「うん」

 番頭を呼びつけて二人分の宿泊に切り替えてもらった。
 二泊三日。
 三両で足りるかと尋ねると、番頭は一両で釣りがくると答えた。
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