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しおりを挟む俺に注視する者達。
その場に数人居合わせた大人たちはどれもご婦人方であった。
お里の母ちゃんが身に付けていたような割烹着姿ではない。
きちんと背中に太い帯を締めた着物姿の気高い物言いのご婦人たちだ。
なんだ、一体どうしたと言うのか。
口々に藤吉郎先生の所の生徒なのかと問うのだ。
それは怖いぐらいにギトギトした口調だった。
俺に向けられていた視線が外れた後でも婦人たちの井戸端会議の勢いは止まず、さらに白熱していく。
「まさか、こんな幼い生徒は居なかったように思いますわ。とにかくあの、薄汚い貧乏長屋の乞食上がりの仕業らしいですの…」
「んまあ! はしたない言い方ではありますけれども。分も弁えられない者が手習いなど……あーたくしは最初から反対でございました!」
「その生徒を見つけ出して、お奉行所へ突き出すのがよろしゅうございます! 一遍身の程を知らせる必要がございます。誰か居所に心当たりはないのザマす!?」
「先ほどの生徒の申すには、怖くなり一人で先に逃走を図ったのだとか…」
「んまあ! 薄汚いのは姿だけではなく、心まで溝鼠で御座いますこと」
「命の恩人である先生に罪を擦り付けて、自分だけ逃げるなど到底許されません! 万死に値しますわ」
「ええ、全くもってその通り。なんなら、長屋の連中に連帯で罪を償って頂きましょうよ。そしたらあの掃き溜め長屋も消えてなくなりますし、清々しますことよ」
「んまあ! アナタ、おつむが冴え渡るじゃない? 旦那様も、末は与力か代官かと世間に謳われて御出でだそうね。頼もしいわ」
鼻息を荒くして途轍もなく奮起している様子だった。
どうやら為吉とその他らの保護者たちのようだ。
盤次郎の責任であるとの指摘をしている。
小夜子を迎えにきた生徒が喋ったに違いない。
まあ、こんな豪快なご婦人方に子供のことでイキリ立たれては白状せざるを得ないか。
だがお座敷へ勉強会に行った事実を知らないようだ。
そこは小夜子が便宜を図ってくれたのかも知れない。
この母親どもは自分たちのせがれにロクに飯も食べさせないで、よく言うぜ。
末が与力で頼もしいとか、おつむはお花畑かよ。
だけど……悔しいね。
なにも言い返せはしない。
未だに顔も知らぬままだが、盤次郎がコケにされることがこんなに癪に障ることだとは思いもしなかった。
盤次郎が愛したのはお里と駒次郎とその家族だ。
その全員が侮辱を受けたように思えてな。
怒りが腹の底から込み上げてくるんだ。
とてもこの場に留まることはできない。
俺も奉行所へ行きたいが、信用がなければな。
今、盤次郎の元へ行けば、彼の居場所が悟られるかもしれないし。
ここは一度自宅に戻ろう。
お里に状況を説明して万が一にも盤次郎の方へ、このババア共が流れて行かない様に見張らせよう。
お里にも役目を与えれば、俺も今後自由に動けるし、それが良い。
「お邪魔しました」
そこで好きなだけ井戸端会議をしていろ。
クソババアどもめ。
「あら、坊や。どこ行くの?」
ギクッ!
なんで俺を呼び止めるんだ。
「なあに? そんな子放っておきなさいよ。忙しいんだから」
「違うザマす。この子は溝鼠長屋の匂いがしますのよ! あたくし達の眼を欺こうなんて十年早いザマす! 溝鼠の所へ告げ口に帰るんザマしょ?」
「んまあ! そうだったのね。幼子だと思い見過ごす所でしたわ。さあ貴女たち何をしているのです?」
「なにをって奥様!?」
「捕まえるのザマす! 溝鼠なのだから大きさなんて構いませんことよ!」
「ああ、そういうことで御座いますか。それもそうですね、この子があーたくし達の先生を陥れたのですね!」
「ちっこいのを捕まえて置けば、でっかい方も姿見せないわけには行かないわよね?」
え、何でそーなるんだよ!
まったくイカれてやがるな。
ドブはどっちだよ!
「あいててて。はなせっ!」
うわー、俺がそうだと勘付きやがった。
このままでは奉行所へ連行され、突き出されてしまう。
一度捕まったら、お上など金持ちどもの言いなりだ、何とかしなければ。
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