私の日常

林原なぎさ

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過去のお話 -不穏編-

中編

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あれから約1カ月ちょっとが経ち、6月になったが相変わらず郵便ポストに何かしらの物が入っている。

ダイヤのネックレス、薔薇の花束、麦わら帽子など様々だ。

申し訳ないが、どれも処分した。


あの後業者さんに頼み部屋に入られているか、隠しカメラや盗聴器があるかを調べて頂いたが、その心配はなかった。

ただ、何かを送られてくるだけ、という理由からわざわざ引っ越しの手続きはしなくて良いだろうと判断した。


しかしかほりは、オートロック付きのマンションに入れるという事は、この建物内に住んでいる人間か又はこの建物に容易く入る事が可能な人間になる。

引っ越しする事をお勧めされた。


かほりの言い分は尤もではあるが…。


問題は秀一さんと姉なのだ。

もし急に引っ越すと言い出せば、何故かと追及される。

秀一さんに上手く嘘をつけたとしても…姉の目は誤魔化せない。

こんな状況にあると知れば、姉はその相手を簀巻きにするだけには終わらず、秀一さんも同じ様な目に遭うに決まっている。


姉はまだ、私と秀一さんが付き合っていると思っている筈だ。



貴方は一体何をしていたの?

そんな軟弱な男に妹を任せてはおけないの。

はい、さようなら。


でそう言い切るであろう姉の姿が容易に想像できる。


そのせいもあるが、ポストに送り届けられているだけで私自身にそれ以上の被害がない。

その事実から、なかなか引っ越しまで踏み切れない。


あの後、職場にも電話はかかってきていないようなのでかなり安心して高を括っていたのだ。





そしてその日はやってきた。

帰宅し、郵便ポストに入っていたのは封筒だった。


差出人は相変わらず分からず、中を開けると。

ここ1週間程の私の様子を写した写真が何枚も入っていた。

職場へ向かう私。

食事をしている私。

友人と会っている私。

お客さんの接客中の私。


様々なが写り、手紙も備え付けられていた。


'この客ムカついたから排除してあげるね。'


つい先日、私に連絡先を渡してきた男性の写真付きだ。








あれから少しの不安を抱え、日々を送る。


そして私の誕生日である、今日。


例の連絡先を渡してきた男性が、背後から何者かに襲われて、病院に運ばれた。

幸い命に別状は無いようだ、が…。







もしかして…とあの文書が頭を過る。


あの手紙の送り主ではないかもしれない。

しかし…手紙の送り主だったら…?




指先の感覚までも、冷たくなった。



おそらく蒼白い顔になっていたのだろう。


察した、智秋さんは、早退するようにと勧めてきた。







先程の話を聞き、もし…あの手紙の送り主が、秀一さんに気付いてしまったら…。


私の頭はその事に支配された。





帰宅するとやはり、と言うべきか、ポストには贈り物が届けられている。



中身を確認する。





「…あっ。」


恐怖で体が震えた。

自分で自分を抱き締め、過去の出来事を思い出す。



飴ちゃんあげるよ。

近くで見ると、より可愛いね。

お兄さんがいろんなコトを教えてあげるよ。



そう言って、何処かに連れて行かされそうになったり、強引に迫ってきたりする人は今までいた。




だけど…そんなコトが霞むぐらい、中に入っていたモノは…気持ちが悪く、悍ましい。


そんな中、家の鍵がガチャガチャと音を立てた。


まさか、と思う。



ストーカーは自分が恋をしているだけで、どんな事をしても相手の事を知りたいが為からの行動。

住居侵入、暴行などの犯罪行為も、全て恋心であり自分を正当化している。


テレビで、ストーカーについて語った元警察官の言葉が頭を過る。




心臓が嫌なくらい脈打ち、危険だと脳から警報が鳴るが、恐怖で体が動かない。



どうしよう……恐い。



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