超調味料ドラフト会議

氷室ゆうり

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超調味料ドラフト会議

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この男も今日から一人暮らしだ。一人暮らしというのは今までと違って非常に自由な時間というものが増える仕様になっている。
しかし、自由とは責任とワンセットでもある。自分のことは自分で、そんなある意味で当り前のことができてこそ、一人暮らしというものは成立するのである。
…まあ、そんなにみんなして何でもやる働き者なわけがなく、片付けられない、料理ができない、そんな状態でも一人暮らしを満喫する者はいるが、そういう連中は俗にいう残念な大人たちに他ならない。

さて、今日の本題はそこではない、そこではないんだ。
「うーん、どうしようか。」
この度一人暮らしを始める、藤原幸助(ふじわらこうすけ)は、悩んでいた。
ここはスーパーマーケット。新生活を始める上で必要な物を買いに来た。
幸助は威厳のある顔を作り、心の中で宣言する。
(さ、始めようか。残酷なる、調味料サミットを。)






調味料サミット、それは、別名、調味料ドラフト会議と呼ばれる。
いくつもの修羅場を潜り抜けた調味料たちにとってあこがれの舞台。ここで選ばれるかどうかによって今後の彼らの運命は大きく変わるのだ。

「ま、砂糖と塩は最低限いるとして」
(よっしゃああっ!)
(フン、当然だろ)
幸助に聞こえない声で喜ぶのはこの調味料業界でトップに立ち続ける二人、砂糖と塩である。
塩、メソポタミア文明のころにはあったと言われ、日本では縄文時代の終わりから使われてきた超ベテランの調味料。
にもかかわらず喜びを全く隠そうとしないその熱さ、情熱はひしひしと感じる。さすがは海からとられた食塩だ。
一方の砂糖。日本では昔から高級品として扱われており、一般に出回るようになった現代でも偉そうな態度を崩せないようだ。
だが、こんな二人が選ばれるのは至極当然のこと。
他の調味料たちも文句を言うことがそもそもできない。
「あと、醤油もいるとして…」
(ま、はいるよな。)
誰からも文句は上がらない。醤油は皆さんに一礼をした後、そそくさと買い物かごに入ってくる。
さて、残りがどうなるか。
「ふむ、調味料の残りから考えて、あと一つ何か買っておきたいな。」
『こいっ!』
この条件での最有力候補はお酢、油だ。
特に油は絶対に選ばれるものだと思っていた。
(というか、俺が選ばれなかったらほんとマジでどうすんだよ!調味料とはなんか違う気もするけど、要るだろ!普通に!お前どうやって炒めんの?なあ!)
油の主張はもっともなのだが、あいにく相手は新生活初心者、そんなセオリーはそもそも頭の中にはない。
だが、そんな油に引っ付いてくる調味料が一体。
(油さーん。調味料としては僕を買わせてくださいよう。あなたはどのみち必要に応じて買われますって。)
(そうは言うがな、酢よ。この男をみろ。パッとしない見た目、こいつは間違いなく…買い忘れる。)
(…)
確かにこの男の見た目はしょうもない。パッとしない。
二人は心配そうに男を見上げ、そして4分が経過した。



「そういえばこの二つでマヨネーズができるんだよな。」
『!』
調味料二人に電撃が走った。
(これはいけるんじゃないですか?)
(ああ、こいつの頭にそこまでの発想があろうとは全く思わなかったが、思わぬ収穫だ。これはいけるぞ。)


だが、二人は甘かった。あほなのはこいつらだったのだ。
「じゃ、マヨネーズ買おう。」
『アアーっ!』
無情にも折衷案はそもそも売られているのだ。
おまけに言えば、マヨネーズはフライパンに敷けば油の代わりになる。

そういうわけで、今日の調味料ドラフト会議の結果がこちら。
塩、砂糖、醤油、マヨネーズ。
うん、こいつは料理したことないな。残念になるタイプだ。

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