ゴーラーの不良たちがオセラーになったところで、ねえ?

氷室ゆうり

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はちみつ高校のハニーマスタード

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翌日、
「今日もいい天気だ!」
今日もいい天気だ。なんというか、気分がいい。だが、教室に入ると、早めに学校に来ていたらしい、佐藤、伊藤の元気がない。
「どうした。こんなにいい天気なのに。拾い食いでもして腹を痛めたか。」
二人は俺を見ると、この世の終わりとばかりに声をかける。
「ああ、加賀谷か。落ちてたゴミを食べて休んだのは後藤だ。俺たちじゃない。ついさっき学校の放送が流れてな。不良は今日の放課後、前と同じように集合しろってさ。」
なるほど、確かに郷田の呼び出しは精神的に疲れるものだ。だが、
「別にそこまで悪い不良じゃないだろう。真っ当な不良には優しい不良だと思うぞ。」
「ならいいんだがなあ。なんか嫌な予感がするんだよ。」
「そうか。確かに何かは起きる気がするな。まあ、俺も気を付けよう。」
そういって俺は放課後まで、授業中含めて、机の上で座禅を組み、精神統一をして過ごした。
授業のたびに先生と目が合ったが、先生は、何も言わなかった。理解のあるよい先生を持った。

そして、放課後、いつものように前ならえをして、郷田の到着を待つ。だが、いつまでたっても郷田が現れない。

郷田の到着を待たずして、俺たちの耳に聞こえてきたのは、けたたましいバイクの音だった。あの音はおそらくはちみつ高校のチームだったはずだ。俺が詳しくを思い出している間に、不良共が騒ぎ出した。
「おいおい!ありゃあハニーマスタードの本隊じゃねえか!」
そうだ、ハニーマスタードだ。はちみつ高校で最も有名なチーム。よくよく見ると、連中の眼が血走っている。あの様子からどうやらうちの高校の誰かに恨みがあって集団で攻めてきたと考えるのが妥当だ。
不良たちは戦慄する。
「おい、いま俺たち喧嘩禁止令出てるよな。」
「ああ、こんなの郷田さんに知られたらやべえぞ!」
「畜生!どこのどいつだ!こんな時に喧嘩売りやがって!」
「あ!分かったぞ後藤だ!よくよく考えればゴミを拾い食いするはずがねえ!仮病で逃げやがったんだ!あいつ!」
不良たちはそれぞれ思い思いの慌て方をするが、全員がピンチに陥っているのは間違いない。
だがもめても仕方がない。不良に喧嘩をするなというのは心臓に動くなといっているようなものである。それでも、このままではハニーマスタードに無抵抗でやられるか、郷田に制裁を食らうかの二択である。俺としても悩ましいところだ。
そんな時、校内放送が流れた。
『あーきこえてるか、お前ら、悪いんだがよ、急用ができちまって、集まってもらって悪いが、それ、明日にしてもらうわ。じゃあな!おっと!急いで帰らねえと。』
そういって放送が鳴り終わったと思えば、急いでいるのか、こっちに目もくれない郷田が、俺たちの横をものすごい勢いで帰っていった。

周りの不良たちは油断せず、確認する。望遠鏡をたまたま持ってきていたやつが、朝礼台の上に立ち、郷田の行く末を見守る。
「よし、行ったぞ。間違いない。」
その言葉にホッとする一同。ここまで来たら、やることは簡単である。
「お前らぁ!この際派閥とかひとまず置いとけ!万が一郷田が帰ってきたら俺らはみんな死んじまう!速攻で静かに仕留めろ!ついでに俺らの怖さ教えとけ!」
『おおおおっ!』
3年の増田が指揮を執るようだ。郷田にぼこぼこにされたときはもう不良には戻れないとうわさされていたらしいが、こうして無事に帰ってきたところを見ると、さすがに3年の最強候補だったことはある。続々と不良たちの大げんかが始まった。

さて、それじゃあ、俺たちも、かき氷連合会としての力を出すとしようか。
「な!なんだおまえら!ぎゃあああ!」
「おい!聞いてねえぞ!はんぱな奴しかいない不良校の中でも落ちこぼれだって話だろう!?」
こいつらが何を言っているか分からんが、たかだかバイクに蹴りを入れて横転させたくらいで喚かないでもらいたいものだ。それも、横から蹴っただけだ。とりあえず、得意のドロップキックをお見舞いする。有名な割に対したことのないやつらだ。
「ぐはあ!ま、まいった!」
隣を見ると、徳川が一人片付けたらしい。まあ、俺が倒せて、あいつが倒せないというのもおかしな話だ。あの巨体から放たれる一撃はいつ見ても見事としか言いようがない。周りの連中も、久しぶりに喧嘩ができてうれしそうだ。武器がないのが欠点だが、自由に喧嘩ができるすばらしさをみんなで共有している。なぜか俺たちの周りには敵が少なかった。かき氷連合としてはここである程度分散して、周りの連中をたたきに行くのがいいだろう。
他の連中の援護に向かうかと思ったら、東雲たち、チームグラタンを見つけた。
チームグラタンの方はもう少し骨のあるやつらが相手のようだ。ちなみに俺は、東雲とやりあったことがない。仲間の一人は戦ったことがあるらしいが、瞬殺されたとのことだった。正直そこまで強くは見えないが、人は見かけによらないものである。
そんなチームグラタンの構成員たちが戦っているのは3人の男だった。2人は身長190センチ、いや190メートルか?とにかくそれくらいにはでかい坊主のやつだった。そして残りの一人は、郷田と比べても遜色ない大きさにガタイの良いやつだ。どうやら東雲とタイマンを張るつもりらしい。タイマンは放っておくとして、残りには加勢がてらうちの仲間が援助に向かう。後ろからのパンチ、正直ああいう不意打ちは俺としては好きではないが、そんな一撃が、大男を襲った。
バシィィン!と音が鳴った。みると、うちの仲間が倒れている。
ビンタだ。平手打ちだ。音もそうだが、割と戦闘力の高いうちの構成員を倒すとは。仕方ない。俺が代わろう。
「かき氷連合会の副総長、加賀谷直人だ。お前は?」
男の方は名乗らない。代わりに殴りかかってきた。不良の中ではよくある話だ。せっかくだし、俺の恐ろしさをたっぷりと知ってもらおう。
俺はボクシングの構えをした。我流だが、殴る、蹴る、飛ぶは得意だ。毎日走りこんでいるだけあって、体力だって自信がある。相手は先ほどのようなビンタをしてくるがそういうのをさばくのも慣れたものだ。だがもっと得意なのは、
おっと、相手が殴り掛かってくる。やはりああいうでかいやつは力も強い。いくら俺が素早くても捕まれたらめんどうだ。
「おらっ!」
「ぐっ!」
逆に相手の手首をつかんでそのままカウンターの顔面パンチを浴びせた。だがさすがに相手もわざわざ乗り込んでくるだけはある。俺のカウンターにさらにカウンターで俺にびんたを食らわせてきた。もろに食らってしまった。だが、音ほど威力は感じない。大丈夫だ。まだ戦える。相手のほうも、うん、さすがにこれでは倒れないか。
状況が状況のため鉄パイプも用意できていない。今回武器を使う不良たちが活躍できていないのはそのためだ。だが、俺だってだてに副総長をやっているわけではない!
瞬間。しゃがむ。相手は一瞬驚いたようだが、すぐに間合いを詰めてきた。
相手に服をつかまれる。恐らくこのままだと、殴られておしまいだ。
だから、俺はしゃがんだ状態から、相手に頭突きを食らわせた。狙うは相手の顎だ。
「ぐぼおっ!」
頭突きというものは、しゃがんでからすると、威力が2倍になる。前に徳川が言ってたから間違いない。
当然、こちらの頭もいたい。だが、これで勝てるなら安いものだ。相手もさすがに今のは聞いたらしく、フラフラになっている。
「くそがっ!調子に乗んなっ!」
相手はまたビンタを食らわせようとしたようだが、あれだけ頭に技を食らわせたのだ。もう当たらない。威力も下がっている気がする。
相手はまだふらつきながらも倒れない。だが、勝敗は決まった。相手はもうふらふらしている。
俺の蹴りが相手の股間に炸裂する。どんな大きな人間でも男である以上、この痛みからは逃れられない。
うずくまる男の後頭部めがけて、俺は必殺の垂直ドロップキックをお見舞いした。

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