エンド・オブ・フォーマルハウト

まきえ

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<CHAPTER 01/神の奇跡/HELENA>

Paragraph 2/季節外れのサンタクロース/Request

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 ケビン=ゴッドバルト。生まれも育ちもロンドン。魔術家系の五代目において爵位は伯爵。第一魔法協会における十三人の大幹部の一人であり、魔法社会において多大な影響力を持つ男である。また、現実社会においても経済的に成功を収めた実業家であり、現在は環境事業に取り組んでいる。

「楽にするといい、クラヤマ。それに幻想騎士レムナント
「・・・・・・楽、ねぇ」

 三人掛けの本皮のソファーにゆったりと座っているケビン伯爵は満足そうではあるが、夏喜とジューダスには大木を削り出して作られた悪趣味なほどの意匠がある椅子が用意され、座り心地は決して良くはない。ケビン伯爵は大量に用意された寿司ロールを琥珀色のシャンパンで流し込んでは舌鼓を打っていた。

「ふむ、庶民的で安いシャンパンだがスシによく合う。おろしで30ポンドまで落とせば店も使いやすいだろう」

 店に出されるときには50ポンドほどいくだろうか、そもそも日本人の感覚で寿司にシャンパンはどうだろうと思うが、これで庶民的とはと夏喜が頬を掻く。

「お食事中悪いんだけど、依頼って何? ローワン牧師のことも聞かせてくれるのかしら」

 夏喜の言葉にケビン伯爵の隣に立つ執事の眉がピクリと動くが、伯爵が軽く手を上げて制する。

「やつはローワンではない。本来のローワンは顔の皮を剥がされてテムズ川に沈んで、偽物にすげ変わっていた。あの教会の下は孤児を使った違法な人体実験と性的暴行の現場となっていた。そこの洗浄は現在第一魔法協会の指揮のもと進行中だ」
「予想はしていたけど、やっぱりそうだったのね・・・・・・」
「偽物は名を割らん。組織も名もないものだった。だがそこは問題じゃない。問題は、その裏にいるが、順だって説明しよう」

 器用に寿司ロールをつまんでいた箸をおいたケビン伯爵がナプキンで口を拭った。

「まずは君らが救出した子供だが、ある組織で培養されたホムンクルスの一体だ。いくつかの仮想組織を転じて偽ローワンの元に運ばれた。先程行った教会の地下では彼に関する実験がされていたようだ。悪霊使いと思われた騒動も、部外者の介入としていたが彼の暴走に起因したものと踏んでいる」
「何か知っていたという雰囲気ね。それでわたしに救助の依頼が流れてきたのかしら」
「そうなる。あれはある意味君へのテストだった。ただ仕事をこなすだけなら用はなかったが、君は吾輩の予想通りの仕事をした。偽ローワンに何かしらの問題を見抜いた。それだけで君に今回の仕事を依頼するだけの価値がある」

「依頼は二つ。――一つは君が救助した子供を匿って欲しい。君の危機管理能力、度胸、魔法技術、そして幻想騎士を携えた戦闘能力、どれをとっても申し分ないと判断する」

「勝手な指標ね。評価されても素直に喜べないわ」

「試した、ということに関しては吾輩から謝罪しよう」
「仕事になるのならいいわ。それで、二つ目なのでしょう?」

 夏喜が執事の顔を見る。目の動き、肌の色変化、立ち振舞の僅かなブレ。本題と思われる話に、明らかに動揺と読み取れた。

「鋭い。そう、君を採用した一番の問題はこれだ。おい、アレを」

 ケビン伯爵の号令により、執事が布で巻かれた物を運び入れる。古い素材のようで全体にルーン文字が刺繍されており、わずかながら魔力の綻びを感じた。

「これはユーフラテス川の源流となるトロス山脈の洞窟で発見された。初めはナチスドイツによる略奪にあった一品だと考えられていたが、どうも毛色が違う。現実世界でこれを開けたときは

 ケビン伯爵が布を解いていくと、一目で古代魔具アーティファクトとわかるほど年季の入った土細工の箱が現れた。箱の縁は楔文字らしきものが並ぶ。

「『これはヨルダンの向こうの荒野』――ヘブライ語ではないが、旧約聖書の『言葉デヴァリーム』だな」
「ほう、さすがは幻想騎士。文字形態も偽装されているのによく読み取れたものだ」

 楔文字をケビン伯爵が指でなぞると、一文字ずつが魔力に反応して微光を放つ。すべての文字をなぞり終えると、周囲の空気を冷たくするほどの異様な魔力が吐き出された。それを肌で感じたジューダスの額に冷や汗が浮かぶ。

「おい、まさか――」
「そのまさかだ。これは、聖遺物の一つ。――『ヘレナの聖釘せいてい』だ」

 開けられた箱には、木材でできた古い釘のようなものが入っていた。先端はわずかに浅黒くなり、それ全体から異常なまでの存在感を醸し出している。

「正確には"聖釘"の性質を上書きされたレプリカだ。本物はヴァチカンで厳重に保管されている。これは鏡面世界でだけ実体化する」
「本物が現存しているのなら、これにはどんな問題が?」
「問題だらけだ。レプリカであっても、本物と同等の性能を持つ。『すべてを繋ぐ』奇蹟の結晶だ。渡る手を間違えれば、世界の危機となる」
「なら、そんな爆弾をなぜわたしに? 魔法協会のほうが上手に扱えるでしょう。まさか、ヴァチカンと揉めてるの?」
「ヴァチカンはこれの存在に気付いていない。彼らに気付かれること無く、こんな物が外に存在していることが問題だ。それに、これの存在を知っているのは魔法協会全体でも吾輩を含めて数人しかいない。他の支局にも秘匿事項だ」
「・・・・・・覇権争いの道具か」
「そうだ。これをヴァチカンが発見したのなら何の問題もなかった。それなら彼らが内々に処理すればいい。だが、吾輩らがこれを見つけたのも別件の出来事で偶然に近い。魔法協会からこれを無償で返納などと、吾輩が良くても他の大幹部や支局は黙っていない。爆弾を抱えるにしては割に合わない」
「だから、秘密裏にわたしに流して処分してほしいと」
「処分ではない、処置だ。

 アングリと口を開く夏喜だが、それをないものとしてケビン伯爵が聖遺物を箱に戻した。

「悪いが、この依頼のキャンセルは受け付けない。事が事だ。何としてでもやってもらうぞ」

 突如、――個室の部屋全体を覆うほどの巨大な魔法陣が発生する。夏喜とジューダスが座らされた椅子にもルーン文字が浮かび上がり、二人に対して何かしらの術式を付与した。

「・・・・・・強制誓約ギアスだなんて、これが魔法協会の顔のやり方かしら。随分と強引なのね」

 相手の行動を強制的に縛り、誓約を発動させるもの。見返りも提示され、相手の承諾を得て発動されるものとは違い、ケルトの呪いゲッシュに近い。違いあるとすれば、やはり相手の承諾の有無であり、強制誓約ならば術式が完了すれば如何なる抵抗も意味をなさず、降りかかる災難を回避するためには、事の解決以外に手はない。

「まったくもってフェアでない事にすまないとは思う。だが、吾輩の手では難しく、誰彼に託せるものではない。報酬ならいくらでも出す。この通りだ、よろしくやってほしい」

 ケビン伯爵が席を立ち、テーブルの傍で地面に膝をついた。両手のひらを地面につけ、夏喜に対して深々と頭を下げる。傍らの執事も破顔し、主と同様に頭を下げた。

「わたしに対してそれをするだなんて卑怯ね、ケビン=ゴッドバルト伯爵」
「東洋人はドゲザこれの意味合いをよくわかっている。ましてや立場の差があれば尚更であろう。自慢じゃないが、吾輩は世界の崩壊を防ぐためならば頭ぐらいいくらでも下げれる。これが吾輩の出来ることだからな」
「ビジネスマンね、伯爵。・・・・・・いいわ。強制誓約もあるけど仕方ない。あなたが傲慢ちきなら全部ぶっ壊しても良かったけど」
「いいのか、ナツキ。聖遺物の取り扱いは、容易に争いを生むぞ」
「承諾したもの。前向きに行きましょう。それに、報酬は弾んでくれるだって」

 夏喜が親指と人差指と中指をこする。それをみたジューダスは肩をすくめた。



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