8 / 26
<CHAPTER 02/既望家族/LUNATIC FAMILIA>
Paragraph 2/さらば麗しき英国/Her Majesty
しおりを挟む
「――ん・・・・・・」
肌触りのいい質感に包まれた子供が目を覚ました。彼の直近の記憶では、山奥の地下室にいた。光もなく、痛みだけがあるひんやりとした空間で、終わりのないような時間を過ごしていた。
それが目を覚ませば、見たこともないような豪勢な天蓋付きのベッドの上にいた。全身を包む程のクッションに囲まれ、快適さを極限まで追求したようなシーツ。その横で、開けたガウンを着た女が豪快な寝息を立てている。
「目が覚めたか」
子供が異様な空間に惚けていると、深い色の法衣を着たジューダスが寝室に入ってきた。
「ああ、すまない。寝起きに嫌なものを見せたな」
ジューダスは寝相の悪い夏喜をシーツに沈め、一足先に目覚めた子供と視線を合わせた。
「オレの名前はジューダスという。こいつはナツキ。事情は、・・・・・・何もわからない様子だな」
子供は静かに首を縦に振る。言葉は通じているようで、ホムンクルスとはいえ一定の知性は持ち合わせているのが伺えた。
「どこから始めたものか。名前はあるか?」
「ナ・・・・・・ナマ、エ?」
「お前のことをなんて呼べばいい。何あるのなら、それに従おう。ないならナツキに決めてもらう」
「ナ、マエ・・・・・・ナマエ。名前・・・・・・」
未だ混乱が残っている様子が見られ、子供は記憶を反芻するように目を閉じる。
「名前、ゼロ。ゼロって、言われた」
「ゼロ? この名前に嫌な思い出はあるか?」
「よく、わからない。けど、なんか、すごくココが痛い」
自分の胸を握るようにした子供を見て、ジューダスは優しく頭に手を置く。
「わかった。すまなかった。名前はおいおいナツキに決めてもらおう。腹減ってないか。少しだが用意してある」
ジューダスの手に引かれて子供がベッドから降り、寝室を後にする。その間も、シーツに沈められた夏喜はフガッと謎の声を鳴いて深い眠りについていた。
///
「おはよう。・・・・・・頭痛い」
子供が目を覚ませて2時間も過ぎた頃にようやく目を覚ました夏喜が寝室から顔を出した。昨日飲んだビールで軽い二日酔いになっており、顔色はあまり良くない。
「きちんと服を着ろ、ナツキ。子供が見ている」
「あ、ごめん。ゴメンね。・・・・・・顔洗ってくる」
ゾンビのような足取りで、子供の顔も見ることなく洗面室に歩いていく。不思議そうな眼で夏喜を見る子供に、ジューダスが深いため息をついた。
///
「見苦しいところ見せてゴメンね。わたしは夏喜。今日から君の母親になる女よ」
酔いを覚ますために冷水で頭を冷やし、洗面室から出てきた夏喜はすでに着替えを済ませて、一人の大人の女性として姿を現した。すでに手遅れかもしれない威厳を取り戻そうとしている様子が伺える。
「事情は粗方オレから話した。怪訝そうにしている? それはひとえにお前のせいだろう」
「すいませんでした」
頭を垂れる夏喜であった。
///
「一体全体どういうつもりだ、クラヤマ。夜中にいきなり第五魔法協会から飛行機を手配しろと連絡が来たぞ。オレに対する嫌がらせかなんかか!? こっちは朝一から待ってるのに何時だと思ってるんだ!」
昼過ぎにロンドン・ヒースロー空港に到着した夏喜一行を迎えたのは、明らかに待ち疲れて、全身をタバコのニオイでコーティングされたヒース=ベールだった。すでに二箱分のタバコを吸い潰しており、待たされたストレスで身体がニコチンを欲している。
「何で君がいるのよ」
「こっちが聞きたいわ! 伯爵も苦笑いだ! 回りくどくて面倒くさい女だなお前は!」
「ねぇねぇ、このオジサン臭い」
「昨日はちゃんとシャワーしたわ! たっく・・・・・・。時間が惜しい。これがチケットと、ホムンクルスのパスポートだ」
「あ、ご苦労さま。仕事は早いのね」
「おかげでこっちは一睡もしてないんだぞ。オレは帰る。あとは知らん」
ヒースは終始不機嫌のまま、タバコのニオイを引き連れて去っていく。シャワーを済ませたと言っていても服装は変わっていないため、夏喜からしたら一緒だと言わんばかりの顔をしていた。
程なくして、夏喜たちを載せた飛行機はイギリスの空を離れていく。珍しく、青い空が広がるロンドンを見下ろしながら、懐かしき故郷へと向かっていった。
_go to "Indigo".
肌触りのいい質感に包まれた子供が目を覚ました。彼の直近の記憶では、山奥の地下室にいた。光もなく、痛みだけがあるひんやりとした空間で、終わりのないような時間を過ごしていた。
それが目を覚ませば、見たこともないような豪勢な天蓋付きのベッドの上にいた。全身を包む程のクッションに囲まれ、快適さを極限まで追求したようなシーツ。その横で、開けたガウンを着た女が豪快な寝息を立てている。
「目が覚めたか」
子供が異様な空間に惚けていると、深い色の法衣を着たジューダスが寝室に入ってきた。
「ああ、すまない。寝起きに嫌なものを見せたな」
ジューダスは寝相の悪い夏喜をシーツに沈め、一足先に目覚めた子供と視線を合わせた。
「オレの名前はジューダスという。こいつはナツキ。事情は、・・・・・・何もわからない様子だな」
子供は静かに首を縦に振る。言葉は通じているようで、ホムンクルスとはいえ一定の知性は持ち合わせているのが伺えた。
「どこから始めたものか。名前はあるか?」
「ナ・・・・・・ナマ、エ?」
「お前のことをなんて呼べばいい。何あるのなら、それに従おう。ないならナツキに決めてもらう」
「ナ、マエ・・・・・・ナマエ。名前・・・・・・」
未だ混乱が残っている様子が見られ、子供は記憶を反芻するように目を閉じる。
「名前、ゼロ。ゼロって、言われた」
「ゼロ? この名前に嫌な思い出はあるか?」
「よく、わからない。けど、なんか、すごくココが痛い」
自分の胸を握るようにした子供を見て、ジューダスは優しく頭に手を置く。
「わかった。すまなかった。名前はおいおいナツキに決めてもらおう。腹減ってないか。少しだが用意してある」
ジューダスの手に引かれて子供がベッドから降り、寝室を後にする。その間も、シーツに沈められた夏喜はフガッと謎の声を鳴いて深い眠りについていた。
///
「おはよう。・・・・・・頭痛い」
子供が目を覚ませて2時間も過ぎた頃にようやく目を覚ました夏喜が寝室から顔を出した。昨日飲んだビールで軽い二日酔いになっており、顔色はあまり良くない。
「きちんと服を着ろ、ナツキ。子供が見ている」
「あ、ごめん。ゴメンね。・・・・・・顔洗ってくる」
ゾンビのような足取りで、子供の顔も見ることなく洗面室に歩いていく。不思議そうな眼で夏喜を見る子供に、ジューダスが深いため息をついた。
///
「見苦しいところ見せてゴメンね。わたしは夏喜。今日から君の母親になる女よ」
酔いを覚ますために冷水で頭を冷やし、洗面室から出てきた夏喜はすでに着替えを済ませて、一人の大人の女性として姿を現した。すでに手遅れかもしれない威厳を取り戻そうとしている様子が伺える。
「事情は粗方オレから話した。怪訝そうにしている? それはひとえにお前のせいだろう」
「すいませんでした」
頭を垂れる夏喜であった。
///
「一体全体どういうつもりだ、クラヤマ。夜中にいきなり第五魔法協会から飛行機を手配しろと連絡が来たぞ。オレに対する嫌がらせかなんかか!? こっちは朝一から待ってるのに何時だと思ってるんだ!」
昼過ぎにロンドン・ヒースロー空港に到着した夏喜一行を迎えたのは、明らかに待ち疲れて、全身をタバコのニオイでコーティングされたヒース=ベールだった。すでに二箱分のタバコを吸い潰しており、待たされたストレスで身体がニコチンを欲している。
「何で君がいるのよ」
「こっちが聞きたいわ! 伯爵も苦笑いだ! 回りくどくて面倒くさい女だなお前は!」
「ねぇねぇ、このオジサン臭い」
「昨日はちゃんとシャワーしたわ! たっく・・・・・・。時間が惜しい。これがチケットと、ホムンクルスのパスポートだ」
「あ、ご苦労さま。仕事は早いのね」
「おかげでこっちは一睡もしてないんだぞ。オレは帰る。あとは知らん」
ヒースは終始不機嫌のまま、タバコのニオイを引き連れて去っていく。シャワーを済ませたと言っていても服装は変わっていないため、夏喜からしたら一緒だと言わんばかりの顔をしていた。
程なくして、夏喜たちを載せた飛行機はイギリスの空を離れていく。珍しく、青い空が広がるロンドンを見下ろしながら、懐かしき故郷へと向かっていった。
_go to "Indigo".
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※AIイラスト使用
※「なろう」にも重複投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる